その動きはまるで、ヘリコプターの映像が本人の目に見えているようでした。ゴール手前500mの位置で囲まれても、決して慌てず、名だたるスプリンターたちの後方に身を潜め、その瞬間を待ちました。そして、自分の前が開けた瞬間に加速。一気にゴールラインを駆け抜けた走りは、「ツール35勝」という新記録に相応しい貫禄と凄みがありました。

マーク・カヴェンディッシュ。2024年ツール・ド・フランスに刻まれた感動物語の、第2章の主人公です。

 

個人的見解とお断りして申し上げれば、近年の中継で、オバさんの耳に障る言葉があります。「歴史的な〇〇」という表現。グランツールの中継を観ていると、なんかこう…2日か3日に一度はこの言葉を耳にするような…。100年以上の歳月を積み重ねる、このプロスポーツの歴史に刻まれる事って、そう頻繁には発生しないと個人的に思うのですよ。でも、2024年7月3日の出来事は間違いなく、そして誰もが認める歴史的に偉大な仕事・・・「偉業」です。ツール・ド・フランスの勝利数新記録。レース自体はほとんど動きのない、典型的なスプリントステージだったけど、この映像は永久保存します。冒頭で語ったように、まるで自分が上空に浮き上がりゴール前を見下ろしているような、本当に素晴らしいカヴの「栄光の勝利」でした。

 

それにしても、この栄光までの3年間は長かったですね。ヘルギーのワールドチームに見放され、もうおしまいか…と引退を覚悟したときアスタナに拾われ、再起をかけて臨んだツールで落車…鎖骨骨折リタイア…。今度こそおしまいと思ったら、チームのオーナーに「もう一年、契約を伸ばすから挑戦してみろよ」と言われ、引退を撤回しました。これもまた、ドラマチックです。

オバさんの心を動かすのは、こうしたネガティブな時期に、カヴが何をエネルギーにしてモチベーションを保ち続けたか、という事です。若いスプリンターたちの、弾けるような強さ・速さを目の当たりにしながら、それでも「自分はツールで勝てる」と信じ続けていられたモノは何か。実はこれ、第1章の主人公ロマン・バルデにも、そしてジロで勝ったジュリアン・アラフィリップにも感じた想いです。

正確な答えは、まだ発見していません。「信じる気持ち」みたいなモノかとも考えるけど、もっとはるかに深い部分に、オバさんの求める答えがあるような気がします。そんな思考を巡らせながら、ポディウムのカヴを眺めた第5ステージ。この瞬間の時間を共有できて、本当に幸せだなぁ…と呟くオバさんでした。