それはもはや、衝撃というより恐怖です。何か月、何週間を費やし入念に積み重ねてきた時間・費用・そして感情のすべてが、一瞬で消滅します。

春のクラシックの大本命「デ・ロンド」を数日後に控えた水曜日のレース、ドワーズ・ドール・フラーンデレンで発生した高速クラッシュの光景は、オバさんの脳裏に焼き付いて消えないでしょう。その記憶には、アスファルトに倒れて起き上がれないワウト・ファンアールトが発し続ける、「ア~!ア~~!」という叫び声も…。鎖骨と肋骨、さらに胸骨を骨折し、今年のシーズン最大の目標としていたロンドやルーベなど、春のクラシックレース参戦が絶望的になった瞬間です。そのとき、ワウトくんを襲っていた心と身体の激痛を想像すると、胸が張り裂けそうになりますよ。動画サイトで問題のクラッシュシーンをよく見れば、最初に転倒(前輪がチームメイトの後輪と接触したみたい)したのがワウトくんで、転んだ彼の上に後続ライダーたちが次々と降り注いだ…みたいな映像でした。

 

「なんで…ワウトくんなんだろう…」。過ぎたことをあれこれ考えても仕方ない。忘れて前へ進もう!なんて感情には、少なくとも現時点のオバさんはなれません。クラッシュ直前、ヴィスマのライダーたちは固まってプロトンをコントロールしていましたが、巻き込まれたのはワウトくんひとりだけ。優勝したチームメイトのアメリカ人は、ワウトくんの真後ろを走っていました。今年はシクロクロスのスケジュールを絞り、ロードシーズン序盤のレース参戦も控え、春のクラシックレースに焦点を合わせて時間とお金とかけ、最高のコンディションで勝負に臨むはずだったのに…。

今回の高速クラッシュには、リドルトレックのストゥーヴェンやワンティのギルマイなども巻き込まれました。とくにE3サクソ・クラシックで2位に入り、現在絶好調!のヤスペル・ストゥーヴェンは、ワウトくん同様、鎖骨を骨折してロンドとルーベは欠場。心底、悔しい想いをしていることでしょう。それでも個人的には、推しライダー・ワウトくんの走りを楽しめなくなり、残念極ります。挑戦し、敗れるのもまたドラマ。しかし、勝負の舞台に立つことさえできないなんて…本当に切なくてたまりませんよ…。

 

この記事を書いている時点で海外サイトの報じるところでは、胸骨も骨折したワウト・ファンアールトの「完全回復」が、ジロ・デ・イタリアまでに間に合うか怪しいそうです。まったく、なんてことでしょう!

道幅は広くても、緩やかな下り坂で発生した今回の高速クラッシュ。70キロから80キロくらい出ていたなんて報道も見かけたけど、個人的な感覚ではそれほどじゃなかったような気がします。それでも、すべてを一瞬で失うロードレースの「恐怖」が垣間見えた出来事でした。オバさんが想うのは、今、ワウト・ファンアールトは何を感じ、何を考えているだろうってことです。2024年の目標が消えるという、極めて厳しい運命の洗礼を受けたけど、実はシーズン、はじまったばかり。今は精神的にキツくても、プロスポーツの選手ってトップレベルになればなるほど、心が強いし切り替えも見事です。

ジロがだめならツールがあるよ! 今年もまた、そのマルチ才能でヨナスを助けてよ…なんて思うのはオバさんだけですかね。