8月1日、UCIワールドツアーがついに再開! それは、約4か月の空白を断ち切る新たな幕開けとしては、余りにも過酷なレースでありました。1日だけで勝負が決まる「ワンデーレース」のストラーデビアンケ2020は、イタリアのトスカーナ州シエナ県内の184㎞を走ります。コロナ災禍がなければ、春先3月の平均気温20度前後という穏やかな丘陵地帯が舞台のロードレース。それを灼熱の季節に開催した場合、そこに展開するのはカオスとサバイバルだけです。オバさんの素人感覚だけど、ポディウムに立てた3人は好運だったとしか思えませんよ。真夏の強い陽射しで、乾き切ったグラベルロードが巻き上げる砂埃…「白い道」とはトスカーナっぽく言い得て妙でも、ライダーたちには地獄以外の何物でもありません。

そのレースを語る今回も、まずはロードのお楽しみ「旅気分」。トスカーナ地方はとくにオバさんの大好きな場所だから、ちょっと語りが自転車から外れるかも…。

 

長靴のように地中海に突き出たイタリア共和国で、トスカーナ州は大陸との付け根あたりに位置します。紀元前8世紀ごろに、イタリア人の祖先といわれるエトルリア人が最初に住みついた地域だそうですよ。つまり、イタリアのルーツの地ですね。州都は、皆さんよくご存知のフィレンツェ。今年のストラーデビアンケの舞台になったシエナは、イタリアの歴史においてフィレンツェのライバルであり、中世に激しく覇権を争いました。ルネッサンス全盛時代でも、ローマやフィレンツェなどの「主流」に取り込まれず、「シエナ派」という独自の芸術を生み出し栄華を謳歌しました。

シエナでもうひとつだけ記しておきたいのは、今回のレースのゴール地点になったカンポ広場で、1年に2度開催される競馬「パリオ」です。その熱狂度はハンパなく、シエナ市民はパリオなくしては生きられないほどだそうです。市民のハートは熱く、真夏の陽射しも熱い…そんなトスカーナ州シエナ県郊外の丘陵地帯を走る184㎞は、文字通りのサイクル・サバイバルでした。

 

サイクルロードレースには未舗装路を走るコースもあり、それが楽しみに感じるファンも少なくありません。未舗装路で有名なのが、クラシックレースのパリ~ルーベに登場する石畳み。土の地面に石を埋め込んだだけの、日本ではまず見掛けない農道です。で、今回のストラーデビアンキは、ラリーで言うところの「グラベルロード」。土の道です。

184㎞のコースの所々で、舗装路を挟み現れる埃まみれの道は合計で63㎞、全体の約34%になるとか。掲載した写真が物語るように、この時期トスカーナの丘に吹き付ける強い熱風が砂塵を舞い上げ、ときには視界すら奪うことも…。今年はなんと、追走するチームカーの玉突き衝突が発生したそうですよ。

今回のレースが4か月ぶりの本格参戦なんてライダーが少なくない中、埃と乾いた硬いグラベル、そして37度の気温はあまりにも過酷でした。去年、3月に開催されたこのレースで優勝し、以後、ツール・ド・フランスの大活躍も含め破竹の勢いで2019年の最優秀ライダーになったジュリアン・アラフィリップも、5回のパンクで集中力が切れ大幅後退。今年オバさんのもっとも期待する若き天才ライダー、タディ・ポガチャルは勝負のステージにさえ乗れず撃沈しました。

サバイバルとしか表現できない過酷極まる184㎞を制し、トップでシエナ市中心部のカンポ広場のゴールに飛び込んだライダーは、ユンボ・ヴィズマのヴァンアールト。グラベルに強いシクロクロス元世界王者の、さすがと言うべき貫録勝利でした。

 

それにしても、改めて痛感するのはサイクルロードレースの厳しさ。それが仕事と言ってしまえばそれまでだけど、各地のレースに参戦するライダーたちを、誰であれ「ギュッ」と抱きしめたい…なんて思ってしまうのはなぜでしょう? その答えを探しながら、ワールドシリーズを存分に堪能するオバさんです。