犯行予告の金曜日が来た。マイコは勤務時間終了後、ハヤミのゴミ箱で見つけたチラシのピンサロ近くをうろついてみようと思っていた。
 本当に、ハヤミがあのチラシを捨てたのか。もしかしたら誰かに無理やりもらっただけかも知れない。使うつもりなら捨てずに持っているだろう。ハヤミがピンサロに行くとしたら、もうショックで顔も見たくない。
 
 この日、ようやくマイコは給湯室でハヤミと2人で話すチャンスを得た。
「先日は、コメントありがとうございました」
「すぐ消されたけどね。それから会社でその話はしないで。ホストクラブに行った上、警察に事情聴取されたと知られたらまずいよ」
マイコは誰も聞いていないか周りを見た。自分が
(ホストクラブで働いていることを知られたくなかったら私の言うことを何でも聞くのよ)
と脅す予定だったのに、これでは逆だ。
「じゃあ外で会ってくれるんですか」
すごいことを言ってしまった。
「いいよ。じゃあ今夜デートしよう。定時で上がれる」
デート。その単語に飛び上がりそうだ。いいのだろうか。他の女子社員に、というよりホストクラブの客に見つかったら命をねらわれる。犯行時刻の9時までは時間がある。それまでに切り上げてしまえばいい、と好奇心を膨らませた。
 
 業務終了後、マイコはいつもより念入りに化粧直しをして待ち合わせ場所に向かった。
「イトウさん、何が好き」
「カレーライス」
ハヤミはぶははっと笑い出した。ハヤミはカレーが嫌いなのだろうか。あんなにおいしいのに。
「じゃあね、フレンチとイタリアンと和食とどれがいい」
「えーと、和食」
ハヤミは携帯を取り出してどこかに電話をかけた。
「ハヤミです。6時に個室を1つ。2名で」
「個室って何ですか」
まさかピンサロでは。そんな覚悟はまだない。
「そういう個室じゃないよ」
ハヤミは笑いをこらえながら手を上げてタクシーを止めた。行き先を告げてから
「お座敷だから携帯は切っておいて。僕も切るから」
と言った。
 
 ヤマザキから連絡が入るかも知れない、というのが頭をチラッとよぎった。
(でも8時過ぎくらいで終わりにすれば)
マイコは言われた通り、携帯の電源を切った。
 
 
 8月26日の記事。マイコの名字は全然考えていませんでしたが、イズミはイガラシイズミにせざるを得ないであろう→確か大学の学籍番号が一番違いという設定にしていたから、五十音で近い姓にしなくては ということでイトウマイコさんに決定です。