マイコは大学時代の友人イズミとの待ち合わせ場所に走って戻った。
「ごめん、遅れた?」
イズミはもうその場所にいた。
「遅れてはいないけど、駅の改札から来るかと思ったら、別な方向から走ってくるからびっくりした」
「うん、ちょっと早く来すぎて」
イズミとは、大学1年の時学籍番号が1番違いだったことで知り合った。同年齢だがマイコよりずっとしっかりしていて大人っぽく見えた。都会の慣れない生活の中、頼りにしている友人だった。実家を離れて上京する気になったのは、ノボルよりもイズミがいたからかも知れない。
「どこ行く」
「ホストクラブ、とか」
「は?」
頭の中が先ほどのホストクラブのことでいっぱいだったため、つい口に出た。一瞬の間があった。
「まずは腹ごしらえしようか」
「うん、そうだね」
スルーされてしまったか。別にいいけど。
 
 駅前にあったチェーンの居酒屋に入った。ここだって、マイコの給料からすればぜいたくだ。ホストクラブなんか行ったら1回100万とか、そこまではいかなくても万単位でかかってしまうのだろうなと思った。
「仕事大変なの」
乾杯の後、無難な話題からイズミは切り出した。
「そんなでもない」
「ホストクラブなんて言い出すところを見ると彼氏とうまくいっていないの」
うまく行っていないというより最近会っていないのだが、それほど寂しく感じないのはあまり好きではないのだろうか。未練があるとしたら、ノボルが愛用しているあのコート だ。実は自分が着ても似合うのではないかと想像している。
「そうじゃないけど、さっきホストクラブの人に名刺もらって、ほら、ちょっと興味あるじゃない、一般的に」
「見せて」
マイコは名刺を出した。イズミは名刺を見ながら携帯を開いた。
「ちょっと、いきなり電話しないでよ」
「違うわよ、怪しい店でないかどうかネットで調べるの」
「あ、そんなことわかるんだ」
「絶対確実ではないけど、ぼったくりみたいな店もあるしね。私だって一般的な興味はあるわよ。1人で行く勇気ないけど」
イズミはカチャカチャと携帯を操作した。
「変な評判はないみたいね。有名な店みたいだからむしろ一見さんお断りされるかも知れないけど、名刺あるなら行ってみようか。但し1杯だけ、すぐ出る」
「うん」
マイコはあの店の中へ消えたハヤミのことを考えた。
 
 ハヤミはあの店で夜働いているのか、あるいは客として入って行ったのか、それとも全然別な理由か。働いている友達に用事があったとか、考えられそうなことはいくらでもある。もし働いているとしたら、会社には内緒だろうから、自分に見られたと知ったらハヤミは気にするだろう。自分の好奇心だけで潜入してしまっていいのだろうか。
 好奇心、心のどこかで、醜い姿の自分が、ハヤミの秘密を握れる可能性にわくわくしていた。
(このことは誰にも言わないでくれ)
(その代わり私の言うことを何でも聞くのよ)
わー、何てことを。だいたい何でも言うことを聞けって、何をさせようというのだろう。
「何赤くなっているのよ。ちゃんと食べてよ、ホストクラブのおつまみ高そうだから」
イズミはサラダを大きなフォークとスプーンで取り分け、マイコの前に置いた。
 
 
 ホストクラブの名前ってどんなのでしょう。「パピヨン」とか?(怪)
 どうでもいい友人役というのは話の展開上重要です。どうでもいいままでよし、煮詰まった時キーパーソンにもってきてよし。デビルマンの飛鳥了も最初どうでもいい友人役だったそうですから驚きです。驚く前に知らないと、また言われてしまいそうですが。
 さて、筆者も知らない次回の展開は・・・
1 マイコは予定通りツケまみれになる
2 トオルが乱入する
3 名刺をくれた男と恋が芽生える
4 ノボルから電話が来て思いとどまる
 
 
 6月3日の記事。前の記事と時系列が逆になっているのは、この前写した時Yahooでもこのシリーズの新作を書いていたからです。最近こればっかり書いているような。しかも暴走気味。1度に4回分くらい作ってしまい、たまる一方です。イズミはどうでもいい友人どころか主役を食っています。