イタリアンレストランで食事中、リナが突然言った。
「息子に会ってくれないかしら」
ひろしは驚きのあまりどこから突っこむべきか迷った。
「君、子持ちだったの」
バツイチとは聞いていた。結婚はこりごりとも言った。だから安心して誘いに乗った、というずるい計算はあった。
「ずっと母にあずけていたんだけど、今登校拒否しているのよね。来年中学生だから、学区の違う私の家に引き取って、小学校の同級生のいない中学に入れようかと思っているけど、不定期でいいから勉強みてやってくれない」
「そんな大きな子供がいたんだ」
「学生結婚だったのよ。うちの大学、学生同士が結婚すると授業料半額になるから。おまけにできちゃった結婚。若気の至りだったわ」
年齢のばれそうな話題にリナは不機嫌を隠さなかった。
「荷が重いな。時々海外出張だってあるし、責任もって引き受けられるか」
「だからいいのよ。そういう話を聞かせてあげて、こんな大人になりたいなと思わせるの。あの子外国大好きなのよ。行ったことないけど。謝礼はするわ」
「なるほど」
もっともらしい話ではある。
「土曜日は暇?」
「うん」
「じゃあ○○線××駅改札で午前11時ね。お昼くらいごちそうするから」
いつも強引に押し切られるが、それも少し楽しい。
 
 ミカは年下で、初めて会った18の時の初々しいイメージが今も抜けない。どうしているだろう。ひろしが帰国した時にはミカは転勤していたが、結婚していれば大学の友人か職場の同僚から自分の耳にも入るだろう。それがないということは、結婚していない可能性が高い。
 1回携帯に電話したら何も言わずに切られてしまった。携帯の番号が変わっただけかも知れないけれど。
 
 しかし小学6年の家庭教師など気が重いことには変わりない。それでも断わらなかったのは、自分にも経験があるからだ。登校拒否こそしなかったけど学校に行くのがいやでいやで。母が連れてきた家庭教師は、海外青年協力隊から帰ったばかりの日焼けした青年。外国の話をいっぱいしてくれて、自分も行ってみたいと心から思った。
 そこまで考えて、ひろしは血の気が引いた。あの青年、まさか母とつきあっていたのでは。いやいや、そんなはずはない。リナは独身だが、母には一応父がいたのだから。一応だが。
 
 
 1月20日の記事。活脳ドリル に書いた、計算ドリルの文章題に触発された妄想、辛抱できずにやってしまいました。まだ妄想コンビニエンスストアシリーズも完結できていないというのに。