アツコは熱い紅茶を入れた。テーブルの上には、勤務先の空港の手荷物検査の時、客が落としたパスケース。数枚の名刺が入っているだけだ。大して困ってもいないだろう。
(どうしようかな)
名刺の人物名は全部違ったが、勤務先は全部同じ、女名前はひとつだけだった。名前の横にプリクラが貼ってあり、会社の電話番号の上には手書きで携帯の番号が書いてある。
その番号を、プッシュした。
「はい、カノウです」
女の声だ。
「ミカさんですか」
「はい」
「アサノといいます。落し物をお届けしたいのですけど」
「落し物、私のですか」
「タチさんのよ」
「タチ、さん?」
面白そうね。
「ええ、部屋で背広を脱いだ時、落としていかれて」
「あなたの部屋で、ですか」
「ええ、でも連絡が取れないの。遊ばれてしまったみたい」
「ごめんなさい、私も知りません」
電話は切れた。
(ふふっ)
アツコはゆっくりと紅茶を口に含んだ。
10月21日の記事。ちょっと飛んで連作にしました。明日は元に戻ります。妄想シリーズはこの後も続くのですが、Yahooでもまだ終わっていないので、完結したら写します。