社会人1年目、常識知らずの私の化粧は口紅だけでした。男性の多い職場だったため、昼食後に化粧を直すということも気づかず、午後は口紅はがれっぱなしでした。もちろんクレンジングなど知りませんでした。
 いろいろあって2年目は別の部署へ異動が決まりました。すっかり打ちのめされたものの、社会人の真の常識にちょっとだけ触れた私は化粧を決意し、本屋に向かいました。

 化粧品のお店より本屋が先です。初めてのことは何でも本で学びます。今ならネット。人に聞いてもよくわからないのです。
「ファンデーションて何?」
「顔に塗って肌をきれいに見せるもの」
「塗る?(絵の具?)クリームみたいなの?」
「パウダーもあるよ」
「???」
クリームみたいなの? という私の問の答でない言葉が返ってきて一瞬意味不明になり、パウダーという「塗る」という動詞に合わないワードが突然登場したことで軽く混乱中です。やっぱりコミュニケーション能力おかしいです。

 本屋でいろいろ物色し、とある女性雑誌のメイク特集号を選びました。ファンデーションをチューブから掌に出すところまで写真入りで解説され、ひとつひとつの手順がとてもわかりやすいです。
 私はその本を買ってきて、何が必要か書き出しました。化粧水、乳液、リキッドファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、口紅、化粧直し用コンパクト、クレンジングクリーム、まつげカールの器具、ノーズシャドウ、頬紅・・・安いメーカーの方がごちゃごちゃ変なものが入っていないだろうと、全部ひとつ500円以下でそろえました。
 そろった道具で鏡に向かい、本に書いてある通りに施していきました。1時間に出来上がった顔は、我ながらかなりの出来栄え。今思うと、女性から見るとかなり作りこんでいますが男性から見ると素顔に近く見えるという、技巧的なメイクでした。

 私が社会人になる前に読みまくった「新社会人読本」は男性向けでした。女性向けのちょっとしたページにも
「メイクはナチュラルに」
と書いてあったので化粧は薄い方がいいと思い、口紅しかつけませんでした。しかしナチュラルなメイクとは、薄いメイクのことではなく、男性から見てナチュラルに見える、本当はケバいメイクのことだったのです。
 異動先にこの新メイクで出陣、じゃない出勤した私は、男性社員に親切にされるというそれまでの人生で一度もなかった経験をしました。
 背の低い私は満員電車でもみくちゃにされ、踏みつぶされる勢いだったのが、メイクを始めてからは私をつぶさないよう、周りの人がガードしてくれます。今までは虫ケラだと思われていたのですね。人は、特に男性は顔しか見ないのだなと感心しました。(こう書くとまるで私がすごい美人みたいですが、そんなではありません)
 ところが男性は
「メイクの濃い女性は好きじゃない」「素顔に近い人が好き」
みたいなことを言うので不思議です。本当にそう思っているみたいですね。正確には
「メイクの濃く見える女性は好きじゃない」「メイクしなくても美人な人が好き」
なのです。

 1年もすると手を抜くことを覚え、1時間かけていたメイクが今では5分です。
化粧水→乳液→リキッドファンデーション→フェイスパウダー
とお肌を作っていたのが、今では中間を全部省略して
化粧水→フェイスパウダー
になってしまいました。
 もう技巧的メイクは面倒くさいのでやりません。しかし立派な社会人になるためには、化粧のうまさもコミュニケーションを円滑にします。女性限定ですが。「新社会人読本」の類にも、そのことをちゃんと記して欲しいものです。

 

 

 6月4日の記事。そらさんの「エステ潜入シリーズ 」があまりにも面白かったのでトラックバックしました。

「ナチュラルで」

と強調したはずなのにヅカメイクにされていく恐怖。「ナチュラル」は全く字義と反対の意味です。昼休みの化粧室の恐怖を知らない男性は、ナチュラルメイクの恐るべき技巧も知らないでしょう。

 ここでズマさんが初登場していました。もっと別な記事だったような記憶がありました。