酔っ払いってイヤッ! (懺悔編)

 

アル中のような酔っ払いの父を見て育ったので、私は酔っ払いが大嫌いだった。酒が嫌いだった。酒をめでる唐の詩人、李白さえ嫌いになった。

 

だが、大学に入るや、父が事故でいきなり他界した。

そうしたら、いきなり酒がいとおしくなった。酒飲みを慈しむ心持ちになってしまった。

父に 「この酔っ払い奴がっ!」 と蔑むような目を投げかけていたことが悔やまれた。

で、いきなり酒好きになった。

 

酒は一人で静かに飲むのが好き。。。なのだが。

酒はスマートに飲みたい。。。と、思っているのだが。

私はかなり酒癖が悪いようである。

私の亡き父は一晩で友達と二人して日本酒を13本空けたということを聞いて育ったので、

小学生の頃から、ことあるごとに中華街で紹興酒をちびちびと頂いて育ったので、

私自身は 「酒が飲めない体質」 と言っていいくらい酒に弱い体質だということが納得できず、酒が好きで好きで、ついつい飲む。私が酒が弱いはずはないのだ! と。

 

酒が飲めないわけではないのだ。酒は飲める。いくらでも飲みほせる。・・・・・・ただ、消化できないのだ。

 

あれは今年の正月だったか・・・・・・去年の正月だったか。懐かしい友だちと新年会をしようということになった。

男友達1人、女友達1人とその旦那様一人、そして私の、計4人のささやかな飲み会であった。

 

結婚した親友が初めて旦那様を連れてくるというし、もう一人の男友達は25年ほど昔旅先で知り合った気のいい奴。15年ぶりくらいの再会である。会う前からうきうきどきどきだ。

 

親友は色々苦しい恋をしていたようだったから、その優しげな寛容な面差しの旦那様を見て、私はすっかり嬉しくなってしまった。話をしてもとってもよい人だとすぐに察せられた。いい人を選らんだね! 私はワケのわからぬ親戚のおっさんのように有頂天になってしまった。そしてひさびさに合った男友達も相変わらず元気で、嬉しくなってしまった。

 

嬉しくて嬉しくて・・・・・・飲み過ぎた。日本酒はコップ2杯が限度だと言い聞かせていたが、一体いつ2杯目を破ったのか、記憶にない。

 

気がついたら、走り去るタクシーの音を背中で聞きながら、自宅の近所の電信柱に寄りかかって一人吐いていた。近所の人に見られないようにしなくっちゃ~なんてことを考えながら。

 

翌朝、筆舌に尽くしがたい二日酔い。どうやって帰ってきたのかよくわからない。タクシーに乗ったことは覚えている。途中で気持ち悪くなって、タクシーを止めてもらって、道端で吐いていたら、タクシーの運転手さんが、 「あ~あ~、大丈夫かい? これ、使ってよ。はい。もっと持って行きなよ。ここに入れとくよっ? 」 とかなんとか言ってなかったか? 

 

ぐらんぐらんする頭を壊れ物のようにそろりそろりと運んで、昨日持って出たバッグを探る。バッグを開くと、中にドワッとトイレットペーパーが丸めて詰め込まれているではないか! 

 

・・・・・夢ではなかったのだ。タクシーの運転手さんが、ご自分のご持参のトイレットペーペーを千切って分けて、私の鞄の中に入れておいてくれたのだ。こんなにたくさん。彼だって使わなくてはならない貴重なトレイットペーパー。食後に口を拭いたり、鼻を咬んだり、トイレにも使える彼の必需品なのだろうに・・・あああ。ありがとう。ごめんなさい。お世話になりました。どろどろする頭で運転手さんに頭を下げる。

 

こんなことでは、他のみんなにも迷惑かけたのじゃないか? 不安になる。

 

で、メールで聞いてみた。すると、私には微塵も覚えのない私の所業が明らかになった。

 

飲んでいたのは東京の町田。すこぶる酔っ払った私は、相変わらずお馬鹿な男友達に、 「ぶわっかじゃないのぉ? ぶわかじゃないのぉ? (注: 「馬鹿じゃないの?」 )」 と連発して、彼の腕やら肩やら背中やらを、バンバンババンとたたきまくっていたらしい。・・・・・・そういやぁ、手の平がやけに痛い・・・・・・

 

奴は 「痛いよ。痛いよ。そぉかぁ。やっぱり馬鹿かぁ、オレ・・・・・・。」 などと、本当の大馬鹿者の酔っ払いオバンなどは相手にせず、優しくたたかれてくれていた由・・・・・あああああ、ごめんねぇ。ごめんねぇ。

 

で、したたか酔っ払った私は埼玉に帰らなければならない。で、親友とご主人が抱えるようにして、小田急線のホームまで連れていって、ロマンスカーを待つ列に並ばせてくれた。電車が来るまで一緒にホームで並んでくれていたらしい。

 

で、ちょっと目を放したすきに、私は私の目の前に並んでいる若者のジャケットのフードを後ろからぐいっと引っ張って放さないのだそうだ。ものすごい形相で睨んでいる青年に気がついて、親友夫婦が慌てて青年に謝った。

で、私の手を彼のフードから放そうとしても、私はむんずと掴んで放さず、 「だってぇ。だってぇ。彼だってぇ、将来のぉ、村上春樹かもっ、しれないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ?」 などと、ワケの分からないことを叫んでいたらしい。

 

青年は思いっきり迷惑そうな顔をしていて、あと少しでキレるのではないかと親友夫婦ははらはらしたそうだ。 ああああああああっ。青年よ。ごめんなさい。友よ。その旦那様よ。ごめんなさい。ごめんなさいーっ。

 

で、ロマンスカーが来たら、とにかく私をその中に押しこんだんだそうだ。彼らは小田急線など乗る必要はないので、そこでお別れだ。私はふらふら~と一人でロマンスカーに乗り込んで、ちゃっかり席に着いていたという。

 

町田から新宿まで私はひとりロマンスカーに乗って帰ってきたらしい。まったく覚えがない。・・・・お隣の席の方にご迷惑を掛けたのでは? ・・・・あああっ。もしかしたら、どなたか、ごめんなさいっ。

 

で、新宿からタクシーに乗って、埼玉のとある私の街まで帰ってきたらしい。

私は新宿駅のタクシー乗り場がどこにあるか、いまだに知らない。

学生の頃から、酔っ払うと新宿のタクシー乗り場から帰ってくることが何度かあったが、しらふでは新宿のタクシー乗り場が分からない。なぜだ・・・・・・?

 

でろんでろんに酔っ払いながら、そこら辺の人に、 「ねぇねぇ。ね~。すいませ~ん。タクシー乗り場は、どこでしゅかねぇ。でへっでへっ。でへへへへ。酔っ払っちゃッたぁ~。」 とか言って、ふらふらタクシー乗り場まで歩いているのであろうか。

 

で、タクシーも、危険である。しらふの時は結構怪しげな運転手もおり、常に警戒して乗る私だが、酔っ払っちゃうとわけわからない。しかし、酔っ払ったときはいつも、優しい運転手さんに出会う。 (タクシーの運転手さんにしたら、 「あ~、とんでもない客乗せちゃったよぉ。」 ってことなんだろうな。うっうっうっ。ごめんなさい。みなさん。)

 

で、いつも親切に何かもらう。まだ新しい手ぬぐいであったり、ミントのキャンディであったり、トイレットペーパーであったり。・・・・・・あああああ、皆さん、ありがとう、ありがとう。そして、ごめんなさい。

 

もう、飲むまい! (コップ2杯以上は!) と、心に堅く誓うのだが、・・・・一口飲むと酒が美味いので、好きな奴らと一緒に飲んでいるのが嬉しいので・・・・・・・

(気を使う人と飲んでいるときや、嫌な奴と飲んでいると、酔わないから不思議だ。)

あああああ。酔っ払いって、最低! 特に女の酔っ払いはみっともない。酒は飲んでも飲まれるな! である。酒に飲まれる奴は最低である。

酒を飲んで不埒が許されるのは日本くらいだ。

あああああ。酔っ払いめ。

酔っ払う奴は酒を飲んではいけません! と、私の中のもう一人の私が言う。

いやいや、酒は酔うためにあるのだよ! と、もう一人の私が言う。

限度っていうものがあるでしょう? と、もう一人の私が言う。

ナンダカンダ言って、反省しても、結局酒を飲むんだね? ともう一人の私が言う。

・・・・・・・私全員がうなずく・・・・・

 

酒は美味しく飲みたいね。酒は1滴1滴、神の水。時の水。

人の心と自然の恵みとの結晶。輝くしずく。大切に飲もう。

          

                    以上。酔っ払いの懺悔の編でした。