年金財政の現況と見通しに関する誤解 | channelAJER

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年金財政の現況と見通しに関する誤解

 

6月3日に厚生労働省から「国民年金及び厚生年金に係わる財政の現況及び見通し」というレポートが出され、それに関しマスコミが批判を浴びせかけた。このレポートは5年ごとに作成を義務づけられているもので、年金財政の健全性を検証するものである。

 

内容は楽観的なケースから悲観的なケースまで8段階(ケースA~ケースH)に分けて計算を行ったというもの。所得代替率は最良なケースが54.4%、最悪なケースが38.9%となっている。所得代替率とはモデル世帯の年金月額が現役世代の平均月収の何%になるかというもので、現在は62.3%である。従って、この試算は、将来の年金は今よりずっと少なくなるということを示している。少子高齢化が進むのでどうせ年金は少なくなるだろうと国民は予想している。テレビや新聞のコメンテーターは「待ってました」とばかりこの試算に批判を浴びせかける。これでも予測は甘すぎると言いたいのだろう。しかしながら、この試算は問題だらけだ。

 

【問題1】第一の問題は、内閣府の試算を使って計算していることだ。筆者はこれだけ予想が大きく外れる試算を見たことがない。例えば、内閣府の試算が正しければ今頃日本のGDPは700兆円程度になってなければならないはずだが、実際は480兆円程度だ。こんなデタラメの試算なら、小学生に定義を持ってきてもらって過去のGDPのグラフの延長の線を引っ張ってもらったほうが、はるかに正しい予測ができる。基礎となっている試算が間違えているなら、厚生労働省の試算はもちろん間違えている。

 

【問題2】「今後20年のIT化の影響で、米国における702ある職業のうち、およそ半分が失われる可能性がある。」というレポートを英オックスフォード大が発表した。様々な分野のIT化、ロボット化で余剰労働力を生み出すことができる。全要素生産性は「技術進歩」と深く関係しており、政府が改革をやる気があれば今後大きく増大してくるし、後ろ向きなら改革は進まないから全要素生産性は低いままだ。小泉・竹中は構造改革を主張したが、例えば大規模農業化・農業のIT化・ロボット化に関しての改革はなかった。族議員の反対に逆らえず、農家の票を失いたくないという背景があり、実は真の改革には極めて後ろ向きであったという証拠だ。日本を豊かな国にし、年金生活者にも十分な年金を支払うには、IT化、ロボット化を進め、余剰労働力を他の分野へと移す政策が必須である。

 

【問題3】年金を減らすぞという脅しが経済を悪化させている。年金が減額されるとなれば国民全員が倹約して貯金を始める。そうなると消費が減り、需要が縮小する。それにより企業の売り上げが減少し経済が縮小する。結果として保険料収入が減少、年金財政が悪化する。つまり、厚生労働省の発表と、それを悪意に解釈するコメンテーターの言動により、厚生労働省は自らの首を絞めることになる。今、お金を使わないようにしたら、50年後、100年後に、貯まったお金で我々の子孫は豊かな暮らしができるかと言えばそんなことはない。逆に国民がお金をどんどん使ったとする。そうすれば経済は拡大し、企業は利益を拡大し、経済も拡大、保険料収入が増加し年金財政が改善することになる。誰かがお金を使ってもお金は消えず、別な誰かの収入になることを忘れてはならない。

 

機械が、ITが、ロボットが人間に代わって働くようになりつつあることを気付かない人も多い。しかしかつては駅の改札口に切符切りがずらり並んでいた。また切符は窓口で売っていた。今は自動改札であり、パスモをタッチさせるだけで、人手を介さずに改札を通過できる。銀行の窓口は印鑑と通帳でカネの出し入れ・送金をしていたのに、今はATMを使えば簡単だ。ラジオの組み立てもベルトコンベアーの前にずらり労働者が並んで   部品を取り付けていた。今はほとんどロボットが製作する。鉱山でも危険な労働を多数の鉱夫が働いていた。今は巨大な無人の機械が掘って運搬している。

 

世の中、IT化、ロボット化で大きく変わりつつある。ITやロボット、機械が人間に代わって働いているし、これからどんどん取って代わる分野が増え、生産力が飛躍的に増す。そんなとき、年金生活者に「痛みに耐えよ」と言って、食べ物を与えない、生活必需品を与えないというようなことをすべきでない。供給力が増大するのだから、年金生活者にもっとお金を渡し、豊かな生活を営んでもらえば良い。お金が無いというなら、刷りなさいと言いたい。