小さな小さなヒビが、中身を腐らせる
1ミリのヒビで卵はもう孵らない

彼が彼女に持たせたこの卵は、もう孵らないかもしれない

目には見えないけれど、
彼女はそれにヒビを入れてしまったと感じている

日照りの熱で乾いた畑にヒビが入るのと同じ様に
じわじわと徐々にテンションがかかり、
あるポイントに達すると突如弾けるように裂け目がはいる


そのヒビ割れる微かな音を彼女は聞いた気がした

後ろの橋を燃やさないのと同じ意味で、彼女がその卵を捨てることはないだろう

でも、卵はもう孵らないかもしれない

こんな哀しいことがあるだろうか

彼女がそれを持って帰ってきた所で
もうそこに命はないのだ

そしてそれがもうずっと前に死んでいたと彼が知る時、
彼はとても傷つくだろう

彼女もやはり自分がヒビを入れたのだと知り、
自分を責めるだろう



そして彼らはどうするだろうか



小さな小さなヒビが、すべてを台無しにしてしまう

けれど、私は思う

もしかしたらそれは予め決められていたことなのかもしれない

彼が彼女に卵を渡した時、
それにはすでに命がなかったのかもしれない

その卵は元々孵る運命になかったのかもしれない

それを誰が知ることができるだろう
それが本当に哀しいことなのか、今誰が知ることができるだろう



そして彼らはどうするだろうか


それも今は誰も知り得ないことなのだ

どうしてあなた達チカスはすぐに混乱するんだ
なんてこのチコは言うけれど、
これは私たちの仕事の様なものなのです

色んなことをごちゃ混ぜにややこしく考える能力が備わっているから、
私たちは混乱しているのです

あなな達チコスよりも想像力がわりと豊かで、
未来を予想する力が備わっているから混乱するわけです

それに加えて自己防衛本能も強いため、
知らぬうちに自分を正当化する戦闘態勢に入っているわけです

さらに母性なる物も持ち合わせているため、
あなた達を不憫に思う気持ちさへ産まれ、
それが命取りとなり自分をおとしめていくわけです


だから愛して下さい
混乱している時にこそ、優しく抱きしめてください
そうすれば、
世の中はわりとシンプルだということに気付くことができるのです

それがあなた達の仕事です

わかったならさっさと仕事を始めてください
私たちは私たちの仕事で手がいっぱいですから

分厚い雲に隠れて見えないが、太陽が沈もうとしている

今日は鳥の鳴き声が違う

満月が近いのだ

昨晩、小さな嵐がやってきた

1時間の間にどしゃぶりの雨が降り、風が唸り、稲妻が叫んだ

窓を開けると、荒れ狂った空気は奇妙なぐらい熱かった

昨日急に届いたあの手紙とこのおかしな天気のせいで

一晩のうちに私の体調はおかしくなってしまった

手紙が来るなんてもう思ってもいなかったから、

私は私の手紙を書き始めた所だった

あんなに、絞り出すような思いで書いていたのに、

また書き直さなければならない

この数日のうちに、私はあなたに手紙を書くのに必要な大部分のエネルギーを無くしてしまった

その代わりに、違う形であなたに向ける言葉が次々と産まれた

そのほとんどはいつもの様に私の手の中で消えていったが、ほんの一部がここに残った

また新しい満月が来る

その光を浴びるべきか否か、私は迷っている

あの時浴びた満月の力は、私の想像を遥かに越えた所へ私を連れていってしまった

あの強いエネルギーを私自身がコントロールできるはずがなかったのだ

今またあたらしい光を浴びることで私はあなたへの手紙を書き終えることができるかもしれない

その力によって、書いている内容が今と全く違うものになってしまうかもしれない

鳥の歌声さへ変えてしまう満月の力よ

大いなる自然の中の無力な一粒のエネルギーである私は

その美しさに魅了されながら、同時に怯えている

今夜もまた嵐がやってきそうな気配だ

私は震える小鳥のように、布団をすっぽり被って朝の光を待つ

そして私が震えている間も、嵐の後ろで月は徐々に満ちていくのだ