私はコレで会社を辞め...るかもしれません | 50代リストラおやじの「転職で人生大逆転」日記

邦訳版の「影響力の科学」というタイトルは、おそらくロバート・チャルディーニの有名な著書「影響力の武器」あたりにインスピレーションを受けているのではないか、という気がするが

原書タイトルと副題は

You're Invited
- The Art and Science of Connection, Trust, and Belonging

で、こちらの方がこの本の内容を的確に表現していると思う。ついでに言うと、コピーライティングとしても、こちらのタイトルの方が気が利いている気がする。

おそらく「あなたを招待します!」みたいな日本語にしてしまうと、原書タイトルのように内容がピンと伝わらないので、敢えて内容を想像しやすいタイトルにしたのかもしれない。

肝心の内容だが...

多数の有名人が参加する「インフルエンサー・ディナー」というイベントを立ち上げて、ベストセラー出版や会社経営で成功するに至った著者が、人とつながって信用を育んで、所属意識と生きがいを感じながら、かつ経済的にも成功しながら、日々を生きていく知恵を紹介している。

まさしく原書タイトルどおり「イベント開催やコミュニティ運営で成功するための Art and Science(手法と科学)」を、再現性のあるノウハウとして解説した内容である。

この本がスゴイのは、単なる著者個人の成功体験の紹介で終わっていないところだ。

奴隷解放運動からダイエット、TEDに至るまで豊富な事例と考察で、著者の組み立てた理論をわかりやすく説明し、それを科学的な研究成果で裏付けるという体裁が貫かれている。

「成功するために、幸せに生きるために、尊敬する価値観や特性を共有できる人たちと意味のあるつながりをつくるには、どうすればいいのか」

この冒頭での問題提起から「影響力の方程式」が導き出される。後は巻末まで、その方程式の要素がひとつひとつ詳細に解説され、読者自身の生活に適用するためのヒントを提供するというスタイルが徹底されている。

この本はきっとビジネス書なのだろうし、自身の定義を豊富な事例と考察によって立証していくという体裁からすれば、タイトルどおり「科学」の書でもあるのだと思う。

ただ誤解してほしくないのは、この本はとても読みやすい、ということだ。私たちが見聞きしてよく知っている様々な興味深い事例は、あたかも小説のように語られていて、自然な流れで著者の主義主張にたどりつくことができる。こじつけや強引さは感じられない。

「科学」とは、再現性があるものを示す。つまり誰がやっても、同じ(あるいは似たような)結果になるというのが「科学」である。

その意味で、この本は副題や構成が示す通り「科学」の書である。ここで語られている「影響力を生み出す方程式」は、おそらく再現性が高いはずだ。

私たちの人生は周囲の人たちによって決まり、彼らと価値観や深い信頼を共有できれば、自分にとって本当に大切なこと、生きるためのテーマや目標を実現できる。

この本が教えてくれているのは、単なるビジネスで成功するコツやマーケティングの一手法ではなく、いかにして成功して自己実現を果たし、幸せをつかむかという「生き方」のヒントになるだろう。

私事で恐縮だが、かれこれIT業界で30年もサラリーマンをやっている。会社の知名度と信頼なしに、「わたし」という個人が業界に「影響力」を持って、安定した仕事を確保することができないからだ。

何度か転職はして、自分なりのキャリアを発展させてきているつもりだが、あくまで「顧客」や「業界」の要望に自分を合わせて生きている。

だが、この本は、私の生き方を変えてくれるかもしれない。

自身で「影響力」を手にすれば、顧客や会社に自分の生き方を合わせるのでなく、先手を打って会社や部署の行き先を軌道修正したり、あるいは道なき道を切り開くことができるかもしれない...などと思わせてくれる。