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 体験記は面白いものが多いから読んでみたけれど、この本に関してはイマイチ。ウキト君という小学校1年生の子どもと共にアメリカへ留学した2年間のことが書かれている。歯切れのいい短文で記述されているからスラスラとハイペースで読めるけれど、印象的な記述は少なく、感動的な記述も殆どない。2010年7月初版。

 

【トラブル回避の文化的しつけ】
 ウキト君、学校で人間関係のトラブルに遭遇。
 ノエルはウキトを呼ぶと、
「自分がやって欲しくないことはきちんと伝えなくてはだめよ」
 ひざまずいて彼と目の高さ合わせて視線を逸らさせなかった。
「いい? この言葉を覚えなさい。そして、嫌なことをされたら、この言葉をいうのよ。
 と紙きれを渡した。その紙には『Please, don’t do that, because I don’t like it.(お願いだからやめて。僕はそういうのいやだ)』と書いてあった。(p.75)
 日本人は雰囲気を察して云々言うけれど、子どもの頃は案外残酷なもので、明確に意思表示しない日本人社会は、イジメをエスカレートさせる傾向が強い。その点、異文化接触が文化に染み込んでいる大陸諸国では、問題をエスカレートさせないためにこそ言葉による意思表示が重要視され、それに従うように教育されている。
 アメリカの子どもに『No! Stop!』と言うと、すぐに『OK』と返ってくる。根にもっていじめ返す子はいなかった。そうしたドライな気性に加えて、日本とアメリカの間に太平洋の面積にも似たしつけの違いが横たわる。私が子どものころの先生の叱り方は、上から下に向かうものだった。私自身も同じ叱り方をする。ミルズではノエルがやったようにひざまずいて子どもの両腕を支え、しっかり下から上へ、じっくり時間をかけ相手の目を見て諭す。この指導方法は、先生に限らない。親たちも例外なく同じ指導の仕方をする。
 ノエルが紙に書いてくれた言葉は、ウキトが最初に覚えた英文だ。アメリカ人気質が形になった宝物であり、多少言い過ぎかもしれないが、国際人としての第一歩だと私は思うのである。(p.76)
 チャンちゃんもそう思う。
 大抵の日本人は、言いずらいことは言わずに黙ってしまう。それでは永遠に “ド日本人” である。

 

【多様性】
 2&3年生が一年を通して取り組むテーマとして掲げていたのは『多様性』。アメリカが多民族国家なのは改めて説明するまでもないが、・・・中略・・・。一見皆仲は良さそうだが、このようなテーマが与えられるということは、少なからず葛藤が存在すると考えてよい。皆育った環境は違うかもしれないが、お互いを理解しあうことで、平和な社会を作っていこう ―― 「多様性」学習にはそんな意図が見える。(p.78)
 同質性が高い故に可能な以心伝心と言われる日本の社会形態は、日本民族の文化性の高さを意味するものであり、日本民族として誇り得る重要なポイントである。
    《参照》   『ガイアの法則[Ⅱ]』 千賀一生 (ヒカルランド) 《前編》
              【象徴伝達の文化】

 しかしながら外国人と接する場合、この方法は100%実効性がないことを理解しておくことが大切。
 逐一言葉を介して説明することが必要であり、異質なものを異質なものとしてキチント理解することが必要。すなわち『民族的多様性』を認める。これが国際人としての第一歩。アメリカでは、小学校2年生でこのようなことを学んでいる。日本人は、企業人となって外国に派遣されるようになった場合、ようやくOJTでこんなことを学ぶのだろう。遅すぎる。
 以上は、『民族的多様性』に関することであるけれど、『文化的多様性』という点において、日本文化は世界で最も多様性に富み重層性に満ちた深い泉のようなものであることはキチンと理解しておくべき。
    《参照》   『日本と世界はこうなる』 日下公人 (WAC) 《前編》
              【全部そろっている国は日本しかない】
              【多様性がないからである】

 

【妖精と25セント玉】
 日本では、抜けた歯は屋根に投げると食いっぱぐれることはないという。現実的だ。アメリカでは、抜けた歯を枕の下に入れておくと、妖精がその歯を持ち去り、代わりに25セント玉=クオーター貨を置いていってくれるのだ。メルヘンぽくてかわいい話ではないか。(p.83)
 日本人の習慣として、屋根に投げるとしか書かれていないけれど、普通は、下の歯が抜けたら高い所(屋根)、上の歯が抜けたら低い所(床下)というのが一般的ではないだろうか。
 アメリカで25セント玉が選ばれたのは、金額の割に大きくて存在感があるかららしい。

 

【先入観なき発音】
 ウサギの名は Cotton Tail 、ラッコは Otter 。日本語の発音で『コットン・テイル』と『オッター』だろうが、ウキトは耳で聞こえるとおりに『カンテヨ』『アロ』と呼んでいた。それは違うよ、と訂正しても信じない。だが、息子の先入観のない、純粋な発音こそ生きた英語だ。(p.109)
 ウキト君の発音に「エッ?」と思ってしまうのだけれど、カタカナ変換された発音に慣れてしまっている日本人の耳は、もう完全に先入観の塊である。

 

【牛乳の味】
 日本の牛乳は、アメリカのものと比べると本当にコクがあっておいしい。アメリカのホットケーキがおいしくないのは、牛乳が大きな一因ではないのかと疑っているゆえんである。(p.144)
 売っているサイズもアメリカでは4リットル入りだったりする。
 アメリカのミルクのコクのなさは、アメリカンコーヒーの濃さに順ずるということか。でも、ミルクを薄めても色は変わらない。味より量で満足する国民性なのだろう。
    《参照》   『食がわかれば世界経済がわかる』 榊原英資 (文芸春秋) 《前編》
              【歴史を動かした 「食」 】

 その他、食に関しては、アメリカではめったに食卓に出ないサンマが手に入ったので、オーブンの扉を開けて換気扇をフル回転して焼いたけれど、火災報知機が鳴ってしまったとか、他の本でも読んだことのあることがいくつも書かれている。

 

【アメリカからの贈り物】
 赤の他人と目が合った時、アメリカ人は必ず微笑み返す。銃社会が生んだ習慣で敵意の裏返しだとしても、ほほえみは普遍だ。・・・中略・・・。私自身も幸せになる。スマイルはアメリカからもらった小さくて最大の贈り物である。(p.205)
 現在の日本は外国人観光客が多いから、彼らと道ですれ違う場合であっても、目が合ったら微笑むようにした方がいい。そうしないのが普通の日本人の中にあって、スマイルを投げかけることができる日本人であるなら、外国人観光客にとって印象的な日本人として記憶されることだろう。


<了>