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 大発展を遂げている近年のトルコの状況が、具体的に書かれている。トルコでビジネスをしようとしている人々にとっては、重要なポイントが簡略にいくつも書かれているから役立つだろう。2012年1月初版。

 

 

【トルコの国際性】
 ナンバープレートの多様さを観察しているだけで、70カ国のも国々とビザ無し交流をしているトルコという国の国際性がみえる。 (p.4)
 長距離高速バスも、EUの大半の国々をカバーしているという。
 トルコは、政治的な障壁をできるだけ撤去して、自国のある地理的な長所を有効活用して大躍進を遂げている。
 スカーフをかぶる女性とかぶらない女性、ファッショナブルな女性とトルコ式トラッドを順守する女性。街中にそれらが入り混じっているというのが現在のトルコだ。(p.6)
 女性のスカーフはアラブの象徴のようなものだけれど、ヨーロッパとアラブの結節点にあるトルコは、半々で丁度いいのかもしれない。まさに象徴的である。
 トルコの分類について、正確に言うと、中東という分類には入るけれど、アラブという分類には入らない。この点は、きちんと理解して記憶しておいた方がいい。

 

 

【ギュレン・ムーブメント】
 イスラム世界ではコーランをすべて暗誦したものには「ハーフィズ」の称号があたえられるが、ギュレンはなんと12歳でこの称号を得ている。(p.52)
 フェトッラー・ギュレンは、今日のトルコの精神的支柱となっている枢要な人物なのだという。
 12歳でコーランの114章すべてを暗誦したのだからウルトラ付きの神童である。
 ギュレン自身も父親も「イマーム」という「集団礼拝所の指導者」であり、ギュレンはトルコの若者のモラル低下を知り、トルコ全土で辻説法をするようになったのだという。やがてギュレンを囲む会が発展して「ヘズメト」といわれる「イスラム神秘主義の教団」になり、貧者や弱者に対する社会奉仕活動として学校建設なども行っていった。

 

 

【エルドアン首相】
 エルドアンはイマームハテプ神学校の出身。“イスラム法の召使”を宣言してイスタンブール市長を務めた男である。「公正」「奉仕」のイスラムの教えは骨の髄まで染み込んでいるはずだ。(p.74)
 私は、エルドアンは変わらず謙虚な首相としての道を歩くと信じている。
 それでも独裁色を強めそうになったら?
 実はトルコにはエルドアンを諌めることができる偉大な人物がいる。・・・(中略)・・・ダウトール外相とフェトッラー・ギュレンだ。(p.75)
 歴史的に遊牧民の部族を束ねるような成り立ちの中東諸国家には、結局のところトップは部族の長の中の長という思いからか、独裁的な権力者になってしまいやすいという傾向がある。そんな風土の地域において、イスラム法のシャリーアは、遊牧民の略奪的行動を抑止する掟を持つからこそ尊重されてきたのであるけれど、今日の「中東の春」以降の状況に見られるように、依然として独裁が生じやすいのである。
   《参照》   『サハラの果てに』 小滝透 (時事通信社) 《後編》
            【イスラム法のシャリーア】

 しかしながら、そんな中でも、イスラムの「奉仕」を体現しているギュレンのような生きた精神的支柱がいて、イスラムの神学校を卒業した人物が首相であるということは、トルコの政治は、「公正」を保てる可能性が高いことを意味するのだろう。
 エルドアン体制になってから、トルコは順調な発展をとげるようになったらしい。
 下記の「エルゲネコン」の解体は、エルドアン首相の最初の仕事だったらしい。

 

 

【「エルゲネコン」の解体】
 当時のトルコには「偽経済」がはびこっていた。
 たとえば大統領や首相の友人が銀行を開設し、外国からお金を借りる。銀行は手に入れたお金を外国の銀行に送金したのち、倒産させる。その後の補償はトルコ政府が行う。そんないかさまが、半ば公然と行われていたのである。そんな「偽経済」をごまかすためのハイパー・インフレだったわけだ。
 そこには「エルゲネコン」と呼ばれる裏の政府が存在していた。エルゲンコンが偽経済を操っていたのである。
 やがてエルドアン体制になると、エルゲネコンは解体させられ、多くが裁判にかけられて投獄された。為替レートも正常化され、いまでは1ドルが1.5~1.8リラの間を行き来している。
 エルドアン体制になってからは、イスタンブールもがらりと表情を変えた。(p.217)

 

 

【トルコ人の連帯意識と「奉仕」の精神】
 国外に出たトルコ人の中には、母国との関係で自分の未来図を思い描くというナショナリズムが存在している。・・・(中略)・・・。その共通意識がトルコ人同士の連帯意識につながる。
 彼らの連帯意識をより強固にしているのが前述した「ヘズメト」の存在だ。
 強固な連帯意識がこの国の国際化を推進しているのである。
 トルコの国際化を語るときに、忘れてならないのがイスラムの教える「奉仕」の精神だろう。(p.79)
 国内だけの「奉仕」なら比較的簡単なことであるけれど、トルコは、周辺諸国家の紛争地域から、難民受け入れや負傷者の救援という「奉仕」も行っている。
 「人道」や「奉仕」の旗を掲げるのは簡単である。また、それらは国際的にも評価されやすいスローガンである。しかし、それを実行するためには途方もないエネルギーと駆け引きが要求される。その高いハードルに挑んでいるのがトルコという国だ。(p.89)

 

 

【すべての子どもにパソコンを】
 エルドアン首相は、2011年10月の記者会見の席上で、
「小学校1年から高校3年まで、1500万人全員に無料でパソコンを提供する」
 という方針を発表した。(p.97)
 トルコの人口は7500万人で、29歳以下の人口が半数を占めているという。地の利とこの人口構成こそが、トルコ発展を約束する最大因子なのだけれど、エルドアン首相のこの政策は、人口構成の強みをさらに強化する最強の政策だろう。
 この政策に乗ろうと日本のメーカーも動いてはいるのだろうけれど、比較的高性能で安価なパソコンを多量に供給できるのは中国と台湾の企業だろう。

 

 

【トルコ系アメリカ人】
 ボブ・ディラン(歌手)、ニール・セダカ(歌手)、アイーダ・ディラン(女優)、フェザ・ギュルセイ(学者)といった有名アメリカ人はいずれもトルコ系アメリカ人だ。(p.119)
 二人の歌手は有名だけれどかなり昔の人。女優さんと学者さんは知らない。
 ボブ・ディランの『風に吹かれて』は、あまりにも有名だからリンク。
     《参照》   風に吹かれて ボブディラン 日本語訳付き2

 

 

【アメリカのすり寄りと、トルコの輝き】
(アメリカの)自国経済は完全に行き詰まりを見せている。一方のトルコ経済はいまや日の出の勢いだ。アフガニスタンとイラクだけではなく、チュニジア、エジプト、リビア、そしてシリアやパレスチナ問題に関しても、トルコの軍事力と経済力、そして外交能力にすがるしかないと、アメリカはトルコにすり寄ったのである。(p.141)
 トルコは、欧米が仕掛けた「中東の春」において、チュニジアの負傷者たちを受け入れて治療にあたり、さらに復興資金をも提供している。イスラム国家としての「奉仕」精神による行動なのだろう。
 今や、中東諸国に対して最も信頼がある国はトルコである。欧米諸国はトルコに摺りよらないことには、中東地域において、ほとんど活動できない傾向にあるらしい。
 過去、エジプトにはナセル大統領、サダト大統領というアラブのスーパースターがいたが、ムバラク大統領が失脚した後、当分の間彼らのようなスーパースターが登場するとは考えられない。
 そこで注目しているのが、いまやアラブだけでなく、中東・ヨーロッパ全域のスーパースターとなったエルドアン首相である。(p.145)