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 ほぼ2年間にわたる世界放浪記が書かれている。女一人で世界を回っている日本人女性たちは、実際にけっこうな数いることを旅の途中で出会って知っているけれど、著者の場合、アフリカという世界で最も危険な地域を女性一人で回ったのだから凄い勇気である。自分を守るための超警戒態勢の様子は<191頁>に書かれているけれど、こんなのを読むと、女の子だったら「自分じゃ絶対無理」って思う子が殆どだろう。
 後進地域を旅して思うのは、体験のユニークさというより、社会問題として考えてしまうことである。
 本書は第7回開高健ノンフィクション賞受賞作 『パックストリートの星たち ― ユーラシア・アフリカ大陸、そこに暮らす人々をめぐる旅 ―』 に加筆の上、改題したものです、と書かれている。2009年11月初版。

 

 

【国際援助】
 自分自身が必要とされる場所に身をおいて生きたいと思う人々はたくさんいる。それを実行すべく、はるばる海外に出てみても、実際のところは自分と同じようなボランティア志願者が溢れていて、誰であれ代替可能な存在でしかないことに落胆してしまう。
 それでもめげずに善意の行動に邁進しようとすれば、下記の書き出しにあるような事態に直面する。
 インドのボランティア施設で出会った女性の言葉として、
「国際協力の旅を始めて、『支援したい』 と考えている人のあまりの多さに驚くと同時に、支援を妨害する組織、つまり障害のおおさにはただ唖然とするばかりだわ。例えば、一つの村を助ける。すると格差や嫉みが生じて周りの村が不満を言いだす。それが紛争に火種となって、状況がますます悪化することがあるの。他にも、キリスト教の寄付と名前でいい学校を建てたりすると、裕福な家の子どもが殺到して地域の教育が混乱する。改宗騒ぎに発展したり、宗教や民族の間だけでなく、地域間対立にだって拡大するのよ。だから学校を建てるなら、公立の学校より悪い設備で、現状よりさらに低い水準に教育の質も落とさなくてはいけないわ、ちょっと矛盾しているけれど・・・。宗教や地域の集落には、外部の人には理解できないルールや秩序やシステムがある。原理主義者や過激派もいるし、そこには権力やプライドもある。私たちが信じる改善や、提供してきたせっかくの善意が、時に彼らを挑発し、バランスや社会の構造を壊してしまうこともあるのよね。何かをしようとすればするほど、援助って本当に難しい」 (p.56-57)

 

 

【オーダーメイド】
 アフガンでドンパチが行われていて、難民が流入していた頃の隣国パキスタンでの話。
「この辺りの武器屋はね、即日オーダーメイドなんだよ」
「オーダーメイド?」
「そうだよ。アメリカやソ連が、冷戦時代に大量にここへ持ち込んできた武器が、たくさん残っているんだよ。それでこの辺りの人たちは、武器から学んで工夫を重ねて、今では希望のスタイルに合わせてマシンガンだって何だって即日オーダーメイドで作れる。もちろんすべて手作りだ」 (p.81)
 オートクチュールじゃあなくて武器のオーダーメイド。
 「後進国で、そんなのあるのぉ~?」って思いたいけど、残念ながらこう書かれている。
 米ソ冷戦時代に持ち込まれた多量の置き土産が、今でも紛争のために役立っているというこの現実は、けっこう重たい。しかし、冷戦を仕組んでいた「闇の支配者」たちにとっては、これで予定通り。連中は、常に世界中で火種を維持しておきたいのである。

 

 

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