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 青少年のために夜の街を見周り、彼らの再起を助けてあげている、元裏社会出身の方の著作。このタイトルで教育評論家の本なら読む気はしなかったけれど、元極道という70歳のおじさんの著作だから読んでみた。人材育成論だから、ビジネスマンが読んでも役立つ。2009年5月初版。

 

 

【夜回りを始めたばかりの頃】
 私はある日、途方に暮れて、仲よくなったワルの女の子にこう訊ねてみた。
「みんな俺から逃げちゃってるみたいだけど、いったいどうしたらいいのかな。ひょっとして俺のやり方がまずいのか?」 ・・・(中略)・・・ 
「当たり前だよ。だって石原さんは怖いもん。まず目が怖い。それから態度が横柄。一目で威圧感があるのに 『おい、お前ら』 と巻き舌が入ったヤクザ口調で話すから、なおさら怖い。 ・・・(中略)・・・ それに上から目線で話したら、誰も聞く耳持たないよ。今の子は一度怒ったら 『あのオッサン、ウザい』 でおしまい。まず相手が座っていたら自分も座って、同じ目線で、とにかく笑って話しかけなきゃダメだよ。話を全部聞いてあげて、いちいち褒めて盛り上げてあげなきゃ、ぜったい真面目に大人の話なんかきいてくれないよ」
 子供の気持ちは、やはり子供にしかわからないものだ。私は彼女のアドバイスをそのまま受け入れ、言われた通りにすることにした。(p.17-18)
 こう言われて、すぐにそれを実践したところがすごいところである。ヤクザという組織の世界で親分になった程の実績ある人だから、やはり人心掌握の仕方をすんなり学びとって実践できたのだろう。

 

 

【叱り方の鉄則】
 所詮、理屈よりも感情がはるかに勝っているのが子供である。この点では、今も昔も変わらない。ガラスのようなプライドをクラスメートの目の前でぶち壊し、子供の立場を完全になくしてしまうような叱り方が、どちらのためにもならないことだけははっきりしている。本当に子供を改心させたいと願っているのなら、面倒でもひとりずつ呼び出して叱るべきである。そんな叱り方が、教師の信頼と尊敬を育ててくれるはずだ。(p.46)
 大勢の前では決して叱らない。このことは、何度も何度も繰り返し書かれている。
 これを読んで、教育問題とか人材育成論とかではなく、マスコミを使って偽情報を流し、対象となる人物の社会性を意図的に潰す警察広報の悪質さに思い至ってしまった。それをやった人間の残りの生涯に何もなくて済むなら奇跡である。
 さらに
 叱り方で重要なことは、上から見おろして一方的に叱るのではなく、子供と同じ目線で、真正面から叱ること。顔を近づけて、目線を逸らさないこと。さらには一度声を荒げて厳しく叱ったら、サッと切り替えてフォローを始めること。何度も同じ話を蒸し返して、ネチネチと時間をかけて叱るのは、まったく効果がない。道理を説くのは後からでいい。叱る時には、まず短時間で厳しく、わかりやすく叱ったほうがいいということを知ってほしい。
 いずれにしろ、強い大人をしっかりと演じなければ子供たちは真剣に聞いてくれない。(p.50-51)

 

 

【理屈だけでは埒の明かない子には】
 理屈だけではらちの明かない子には、社会の暗部を実際に見せてやることも効果的だ。
 例えば以前、エンジョコウサイで安直に小遣いを稼ぐことを知ってしまった15歳の女の子がいた。いくら援交をやめろと口うるさくいっても、「なぜ援交がいけないの? だって私、誰にも迷惑かけてないよ」と、ことの本質を分かってもらえない。そんな時、私は上野駅周辺を一緒に散歩しながら、裏通りで客を取っている顔見知りの娼婦の前をわざと通って見せた。
 いゆる「立ちんぼ」と呼ばれる最下層の娼婦である。「よう、元気か」と言葉をかけると、「お客さんはぜんぜんいないわよ。もう死にたい。殺して」と冗談めかして言う。しかし、その娼婦の言葉には真実味があった。とうに50代を過ぎているのに、生き延びるために寒空の下で客を探している彼女らの姿を見せた上で、「おい、あいつらは本当にああやって客を待ち続けて、ひとりで死んでいくしかないんだぞ。お前もああいうババアになりたいか」と子供に問いかけると、さすがにこたえたようで、「わかった、もう援交はしないよ」と約束してくれるのだった。(p.92-93)

 

 

【たとえようもない寂しさ】
 近年、私の本を熱心に読んでお便りをくださる読者の中にも、ベテランの教師に方が何人かいる。みな熱い志をもちながらも、周囲のサポートを得られずに孤独な闘いを続けている人たちのように私には見える。このような人たちを応援できない現代社会に、私はたとえようもない寂しさを感じてしまう。
 子供の話をじっくり聞き、厳しく叱った後にフォローするという原則さえ守れば、指導法は自分流でかまわない。教師の皆さんの活躍に、心から期待している。(p.107)
 日本から優秀な人材を輩出させないために、計画的に教育が破壊されてきたのである。「闇の支配者」による、戦後日本の教育破壊計画は、様々に風向きを変えつつも、破壊に向かうという点では常に一定していた。子供たちに真摯に向き合おうとすえる教員は、ますます先細りだろう。
   《参照》   『楽しい読書生活』 渡部昇一 ビジネス社 《後編》
             【反日教育の出発点】

 

 

【子供にとって、家庭が唯一の楽園】
 子供にとって、本来は家庭が唯一の楽園だ。その環境を作ってこそ、一人前の親である。家庭がしっかりしていれば、どんな引きこもりも防ぐことができるのだ。(p.126)
 家庭は「安心の気」が満ちているべき所なのに、現代はそれがない家庭が多い。自己愛的で他罰的な親が甚だしく多くなっているらしい。親は「安心の気」に満ちた場を作ることより自己愛のために、自覚なきままに、子供を矯正教育したがる。
 外は格差社会となり努力が虚しくなりつつある状況で、家庭内もガサガサしていたら、健全な子が育つわけがない。

 

 

【組織論】
 勝負の時には、全員が一つになって突き進む。そんな結束力が最終的にモノをいうのが極道の世界なのである。私はそんな集団に15歳の時から下っ端として入り、最後は一つの集団を率いる立場にまでなった。だからこそ、能力のない人間は切り捨て、代わりの者を雇うといった方針の経営者や上司が、管理職に適任だとは思えないのだ。部下の人心を掌握して業績を上げる立場の人間には、人の上に立つに相応しい器や徳が必要だ。
 会社でも、極道の世界でも、ダメな人間の扱いが組織の総合力を左右する。ダメな人間をダメじゃない人間に変えることで、組織はその分だけ確実に強くなる。仲間の能力不足に不平を言う暇があったら、今、ここにいる人間だけで闘う方法を真剣に考えるのが成功の道だ。(p.150-151)
 極道の集団は人数的には中小企業に相当するだろうけれど、この組織論は日本人には本質的に合っているはずである。
   《参照》   『マルハンはなぜ、トップ企業になったか?』 奥野倫充 (ビジネス社)
             【少ない人材を大切に育てる】
 若者の潜在力を引き出すには、自由にやらせるのが一番だと、今までの経験から断言できる。だから、自分がいざ上に立った時には、若者には極力のびのびやらせるのがいい。そうすると「自分は上司にここまで信頼されているのか。よしやろう」という気になって、実力以上の成果を上げるようになる。 ・・・(中略)・・・ 言いつけたことだけやらせていると、人間は徐々にイエスマンになっていく。 ・・・(中略)・・・ そうなってしまったら。その人の可能性はそこまでである。(p.156-167)
 自分の才能を自覚していない人は、「規則を守りましょう」とか「ルールを守りましょう」という世界が住み易いと思っていることだろう。彼らは自発性も変化もない人生に安住することを選びがちである。そういう人は、「公務員という人生の墓場職業」がウッテツケである。

 

 

【長所進展法に徹する】
 欠点を言われた人間はもっとダメになって、長所を発揮しにくくなる。欠点を指摘することのメリットはほとんどない。一度欠点に注目してしまうと良い面を見出せなくなってしまう。能力が一見低い人間でも、どこかに必ず良い面がある。そこを見つけて伸ばすのが管理職の仕事だ。(p.170)
   《参照》   『「素頭」で1億円稼ぐ仕事塾』 小山政彦 (ビジネス社)
             【個人と企業人の人格を使い分けられる】

 

 
<了>