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 今日は朝方、外は雪だった。だからなんとなくクリスマス関連の小説。映画用の原案を小説としても出版しベストセラーとなった作品。映画はアカデミー賞の3部門を獲得したという。

 

 

【老人ホームを追い出される】
 主人公のクリス・クリングルさんは、至って健康、精神も正常、なのに・・・
「問題は〈クリス・クリングル〉という名前なんだ。 ・・・(中略)・・・ 残念ながら、評議員連中はサンタクロースを信じていないのでね。 ・・・(中略)・・・ 」
「つまり、評議員さんたちはサンタクロースなんぞいないと思っている。だから、わたしは頭がおかしい。そういうことですか!」
「まあ、そんなところだ」 (p.7-8)
 サンタクロースの名前がクリス・クリングルだなんて知らなかったけれど、このクリス・クリングルさんは、サンタクロースと同じ名前がいけないという理由で老人ホームを追い出されることになった。
 「んな、馬鹿な!」 と思うけれど、大人たちの石頭をかち割るための作品だから、こういうストーリーの始まりになっている。

 

 

【他のお店にあるよ】
 クリスさんは、体型も髭もサンタクロースにそっくり。老人ホームを追い出されたけれど、幸いメイシー百貨店のおもちゃ売り場で採用されて、さっそく仕事を始めた。そこで、子どもが消防車のおもちゃを欲しがっていたけれどメイシー百貨店の店内にはなかった。クリスさんは、別のお店にあることを教えた。
 母親は、クリスの顔をまじまじと見た。
「正気なの? メイシー百貨店のサンタさんが、よそのお店を教えるなんて!」
「べつに、変じゃないでしょう。お子さんが喜んでくれたら、それでよろしい。 ・・・(中略)・・・ 」(p.28)
 サンタさんの役割とすれば当然のことなのだけれど、アメリカ的商業主義に毒された大人の感覚では信じられないことをするサンタさんなのである。
 しかしクリスの行為は評判になり、かえってメイシー百貨店はお客で混雑するようになった。これを喜んだメイシー社長は・・・。
「当百貨店のみならず、ニューヨーク市全体に善意の新風を送り込んだクリス・クリングル氏をたたえ、ここに小切手を送ります」 (p.75)
 クリスは、この小切手で、レントゲン写真を撮る機械を、追い出された老人ホームに贈ることにした。
 あまりに人が良いクリスさん。

 

 

【勉強会にて】
 クリスは、「サンタクロース神話の嘘をあばく」 という勉強会の案内はがきを見て憤然としつつ会場へ行く。
 講演者は、メイシー百貨店の顧問であるソーヤー氏。以下のようなことを言っていた。
「こうしたでたらめな神話の片棒をかつぐ人間は、成熟しているとは言えず、精神疾患を疑われても仕方がありますまい。サンタクロースを信じる者は、現実直視に耐ええずして幼児的空想にしがみついているのであります」
  ・・・(中略)・・・ 。
「人は、しばしばサンタクロース役を演じたいという願望をもつものであります。これぞ強力なる贖罪願望の裏返しにほかならない。わが子に対し罪の意識をもつ父親は、わが子に物を与えることによって良心の呵責を逃れようとするのであります。他人を踏み台として金をもうけた人間が、慈善事業に寄付することによって良心の呵責をのがれようとするのと、おなじ原理であります」
  ・・・(中略)・・・ 。
「世界に善をもたらすどころか、サンタクロース神話はアヘン以上の害をまんえんさせているのであります」 (p.81-82)
 ソーヤー氏のアホンダラ演説を聞いていて憤慨したクリスさんは、舞台に飛び出してひと悶着起こしてしまった。
 チャンちゃんもそこに居たら、クリスさんと一緒に飛び出して、「ざけんじゃねぇ、アホンダラ!」 って言ってただろう。

 

 

【病院送り】
 勉強会でのひと悶着が契機となって、ソーヤー氏はクリスさんを精神病院送りにしてしまった。
 メイシー社長が、 ・・・(中略)・・・ ソーヤー氏を呼びつけて 「今すぐ、退院させろ!」 と雷を落としたのだ。「さもないと、お前はクビだ!」 (p.104)
 しかし、気落ちしたクリスは、病院での鑑定時に心不在でいい加減な応答をしてしまったため、本当に精神異常者と判断され強制的に収容されてしまった。そして、まもなく公開審理が行われることになった。
 翌朝、ニューヨークのほとんどの新聞がクリスの窮状を大見出しで報道した。 ・・・(中略)・・・ 。ラジオのコメンテーターが、それを代表するかのような解説をした。
 「おかしな時代になったものです。このニューヨークに、ひいてはアメリカ全土に善意に輪を広げたあの愛すべきサンタクロース、ほかでもないクリス・クリングルさん ・・・(中略)・・・ はヘンリー・X・ハーパー判事の前に引きだされようとしています。原告の言い分は、信じがたいことながら、クリングル氏は精神異常である、というものであります。もしも真のクリスマス精神を回復しようとした試みが精神異常の烙印を押されるのであれば、実に嘆かわしい時代になったと言わねばなりますまい!」 (p.106-107)

 

 

【公開審理】
 ハーパー判事は、 ・・・(中略)・・・ 小槌を振って宣伝した。
「アメリカ合衆国はクリングル氏をサンタクロースと認めております!」 (p.147)
 なんといってもクリスマス用のストーリーだから、結末は、悲惨なものではない。
 映画も小説もまだ知らない人のために結末に至るまでのポイントは書きださない。
 純粋に信じる心の大切さを語ってもいるけれど、それを擁護することの大切さを語った大人のためのクリスマス・キャロルである。

 

 

<了>

 

《クリスマス系・参照》