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 アメリカのネット企業に支配されている現状から、文化とジャーナリズムにおいて日本が敗北する危険性を語っている。2010年1月初版。

 

 

【衰退する新聞企業】
 米国では2007年以降、 ・・・(中略)・・・ 、地方都市の主要な新聞社が11社も倒産しました。2009年だけでもデトロイトの主要な2つの新聞購読者への配達が週3日になり、 ・・・(中略)・・・。シアトルの新聞は(2紙が)1紙だけになりました。(p.22)
 日本の新聞社は、米国ほど苛烈な経営状況になってはいない。その理由は、
 米国では広告収入と購読料収入の割合が3対1と広告収入の方が圧倒的に多いのに対して、日本ではその割合は1対2と逆転し、広告収入よりも購読料収入への依存度の方が高くなっています。つまり、米国の新聞社の方が広告費のネットへのシフトの影響をより深刻に受ける構造になっています。(p.59)
 ニューヨク・タイムズは2007年に、ネット上の課金モデルを止めて無料モデルにした。その分は広告収入の増加で補おうとしたという。
 しかし、その結果は驚くべき内容となっています。 ・・・(中略)・・・ 。つまり、購読者はネットの方が50倍もいるのに、ネットからの広告収入は紙の10分の1程度なのです。ちなみに、ネットからの広告収入だけでは、同紙の社員数の20%しか養えないようです。(p.64)
 ということであれば、日本の新聞各社は、ネットへの移行を極力止めるという方向しかないのではないだろうか。しかし、いずれにせよ、若者は、プロバイダーが提供するニュースだけ見て、紙媒体の新聞を読まなくなっているから、日本の新聞社もジリ貧になるのは明白である。

 

 

【ジャーナリズムの危機】
 インターネット全体は、コンテンツ、プラットフォーム、インフラ、端末という4つのレイヤーに区分されるけれど、下記の記述内にある、 「プラットフォーム・レイヤー」 とは、インターネット上の、「検索サービス市場(プラットフォーム)」 を構成する 「層(レイヤー)」 と考えればいいだろう。
 アナログ時代は、新聞社が流通独占によって獲得した超過利潤でたくさんのプロやジャーナリストを養えたため、結果的にジャーナリズムが維持されてきました。しかし、ネットの普及によって、肝心の超過利潤が新聞社からプラットフォーム・レイヤーのネット企業に移行してしまったのです。しかも、新たに超過利潤を獲得した検索サイトなどのネット企業は、新聞社やプロのジャーナリストにそれを還元していないのですから、ジャーナリズムが衰退するのもある意味で当然です。(p.90)
 このような、収益構造の変化による衰退は、ジャーナリズムだけではない。音楽業界においても同じようなことが起こっているのである。つまり、コンテンツ(作品)がインターネット上で流通しうる文化産業は、押し並べて同じような収益減衰過程に入っているのである。

 

 

【キンドル】
 キンドルとは、アマゾンが開発した電子ブック・リーダーのこと。
 アマゾンは、キンドルを使って、プラットフォームを巡るシェア争いに打って出た。
 キンドルで新聞を定期購読すると、新聞のデータを毎日ダウンロードする際のパケット代金をまったく気にする必要がありません。 ・・・(中略)・・・ 。キンドルはプラットフォーム+インフラ+端末という縦の3つのレイヤーを融合させた新しいプラットフォームの姿を提示したと言えます。 (p.174)
 つまりインターネットが登場する以前、新聞社などそれぞれのコンテンツ業界が流通独占していた形態を、アマゾンはキンドルを投入することでインターネットを用いて再度流通独占形態を実現して見せたのである。

 

 

【ネット帝国主義国家・アメリカに敗北する国々】
 極論すれば、広告費のネットへのシフトとは、プラットフォーム・レイヤーを米国企業に独占されている国では、これまでのコンテンツ部門に還元されていたジャーナリズムや文化の維持に使われていた資金の多くがどんどん米国企業へと流出することにほかなりません。当然ながら米国企業は他国のジャーナリズムや文化などにはまったく関心がないことを考えると、広告産業という一産業の問題を超えて、ボディーブローのように諸外国の社会に深刻な影響を及ぼしかねないのではないでしょうか。(p.118)
 p.103 に4カ国のプラットフォーム(検索サービス市場)での米国企業のシェアが書かれているけれど、それによると、日本:93.0%、英国:93.7%、ドイツ:90.4%、フランス:90.5% となっている。
 中国や韓国は、ここまでひどく占有されてはいない。韓国:12.1%、中国20%強と書かれている。
 フェアユース規定を筆頭にプラットフォーム・レイヤーの側が競争上有利となる市場をつくり出している多くの先進国の制度は、考え直すべき時期に来ているのではないでしょうか。(p.196)
 フランスのサルコジ大統領は演説の中で 「デジタル時代のフランス文化の保護に官民で全力を挙げる。外国に渡すことはあり得ない」 と明言しています。(p.169)
 フランスは直接的な新聞救済策を講じているという。ドイツも新聞社を保護するために、ネット上の記事の利用の可否を許諾できる新たな権利を付与するなどの方策が検討されているという。
 歴史や伝統と豊富な文化を持つ日本の社会や風土は、米国よりも欧州に近いはずです。それなのに、ネットへの政府の向きあい方として欧州よりも米国を真似るというのは、明らかに間違っているのではないでしょうか。(p.200)
 著者のこの意見に反対する人はいないだろう。正論である。
 但し、「日本の5大新聞=5大メディアは、現在、アメリカ政府の意向に反してでも正しい報道をしているか」と問えば、殆ど 「している」 とは言えないだろう。だから、ネットへの関与の仕方も、アメリカを真似るという敗北=屈服ラインを辿っているのではないだろうか。

 

 

【ネット上に国境は存在する】
 確かにプラットフォーム・レイヤーには国境は存在しませんが、コンテンツ・レイヤーに目を向けると国境だらけです。
 米国のネットワーク局は、今や最新のドラマなどの人気番組の90%をネット上でも提供していますが、それらをネット上でも見られるのは米国内にいる人だけです。日本からアクセスしようとしても拒否されます。パソコンのIPアドレス(ネット上の住所)に基づいてアクセスをコントロールしているのです。(p.126)
 コンテンツ・レイヤーにおける国境とは、収益のために民間企業が独自に行っていることである。
 プラットフォーム・レイヤーにおける国境とは、政治的に行われている中国政府のサーバー検閲のようなものであろう。
 中国政府は、サーバーを支配して入り口をコントロールする。それに対してアメリカ側は、入り口は支配せず、入ってきた者をトレースして監視している。

 

 

【クラウド・コンピューティング】
 なぜ “クラウド” という言葉が入ったかというと、コンピュータ・システムを図で示す場合に、ネットワークを雲の絵で表現することが多いからです。それに象徴されるように、このサービスを利用したら、ユーザーは “雲の向こう” の自分で制御できないブラックボックスに情報を預けることになるのです。(p.123)
 すなわち、NC構想のこと。
   《参照》   『ウェブ進化論』 梅田望夫 (ちくま新書) 《前編》
              【NC構想】

 

 

【米国は全てを監視している】
 情報を蓄積・加工・提供するプラットフォーム・レイヤーに情報が集積しているのです。そのプラットフォームを米国に牛耳られると、情報を米国に見られるリスクも当然増加すると考えるべきです。
  ・・・(中略)・・・ 
 私は留学、国際機関勤務で都合5年間ニューヨークに住んでいました。特に国際機関勤務のときは、北朝鮮関係の仕事だったこともあり、米国の情報機関とも一緒に仕事をしていました。多くは書けませんが、その時の経験から、私は強くそう思います。
 ・・・(中略)・・・ 実際、米国駐在時には経済産業省の外郭団体のニュヨーク・オフィスにも関わっていましたが、そこのオフィスの電話も盗聴されていました。
 性悪説や米国不信が過ぎる考え方かもしれませんが、そうした経験から個人的には、情報という点に関しては米国は怖い国であると思っています。もしあなたやあなたの企業が米国に目を付けられたら、あなたが米国のネット企業のサーバーに預けている情報は決して安全ではないと考えるべきです。(p.109-111)
 こんなの当然のこととして承知している。パープリンでおめでたすぎる人々以外は。
 誰でも使えるフリー・メール(無料で使える電子メール)など、そのサーバーを保有するのが米国であれば、契約書に守秘義務を順守しますとあろうと、それを信じる方が愚かというもの。
 国内企業が管理するサーバーだって、その管理者が僅かな謝礼で、情報を漏らしてしまった例などいくらでもある。
 個人所有のPCのハード・ディスクの情報だって、無線LANルーターを使っているのなら容易に監視されてしまうのである。唯一の自己防衛策は、使用しないときには電源を切っておくこと。それだけである。
   《参照》   『アメリカン・ディストピア』 宮台真司・神保哲生 春秋社
             【近代社会の変質】
             【クロスオーナーシップを解禁したアメリカ】

 

<了>