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 それほど興味のある分野ではなかったけれど、日下さんの対談なので読んでみた。対談相手の金子さんは、警察官僚出身の方。この対談を読んでみて、思うことは、「やはり斯界のトップになるような人はいろんなことを御存じで、教養がある」 ということ。

 

 

【交番の起源】
金子 : 昔は関所があって村は孤立して自治で平和にやっていた。ところが明治になってその関所が取っ払われて、諸国往来が自由になると、うろんな野郎が入ってくる。つまり顔を知らない奴が入ってきて治安が悪くなる。だから、今までのようにはいかん、警察官が欲しいとなる。それが陳情になるわけです。
日下 : 交番の土地建物、家族の住宅は寄附いたしますから、ソフトだけ、人間だけ、ちゃんと訓練のできあがった人をお願いしますと。
金子 : 月給も出します、住宅も出します。みんな村で持ちますから、一人置いてください、ときた。
日下 : その人が来てくれると、村の結婚式にはいつも上座に据える。
金子 : そういう伝統があるから、駐在の旦那はいつも床柱に・・・。なぜそうなったかというと 「お上が偉いから」 ではなく、自分たちが呼んだ賓客だからというのが真相でしょう。黒沢監督の 「七人の侍」 はそれを踏まえている。 村人たちは、ふだん麦飯だが、来てもらったお侍さんには、白いご飯を食べさせている。そのかわり、いざ、山賊が来たときは、村人は隠れて、侍は戦って死ぬ。
日下 : 当時の巡査は士族ときまっていたから自然にそういう関係になった。(p.75-76)
 「七人の侍」 に交番の原型があったということ。

 

 

【キャリアの通弊】
日下 : 偏差値が高いというのではなくて、国立大学へ行った人はそうなりやすい。
金子 : うん、合理主義とかでなにしろ壊すんだ。 ・・・(中略)・・・ 全然犯罪が起きていない地域に警察官を置くのはもったいない。こっちのほうで犯罪が起きるんだから、こっちへ移動させろ、という合理主義。ところが、村の人に言わせりゃ 「駐在があるから犯罪が起きないんだ。犯罪が起きないからといってはがすとは何事だ」 と。昭和40年代に駐在所は3分の2に減らされて、その後少し下火になりました。 ・・・(中略)・・・ 日本の警察は、三度その大失敗を繰り返して、また人が代わるとその傾向が出てくる。キャリアの通弊だな。(p.80)
 アメリカの都市では KOBAN がたくさん設置されて犯罪減少に大いに貢献しているという例は、優れた日本文化の伝播例として有名なのに、日本国内では逆に減らされていたという事実にちょっとビックリする。
 このような日米で逆のことをしている例は、教育制度と医療保険制度でも同じである。
   《参照》   『姿なき占領』 本山美彦 (ビジネス社)
            【医療保険の民営化論】

 

 

【自賠責は天下りの原資】
金子 : 自賠責保険がないと自動車をもってはいけないという強制保険。 ・・・(中略)・・・ 要するに、事故が起きると払い、事故が起きなきゃ払わないで済む。で、名目は国庫だが、運輸省が得するという仕掛けになっている。 (p.91)
 警察官が頑張って事故が減っても、警察官僚は何も得をしないから、事故が減って余ったお金を運輸省の役人どもの天下り先に使うのはけしからんと怒った。(p.91)
 なんちゅうか、貪欲な官僚同士のブーブー合戦である。
 それにしても、公的機関が口にする○○保険というのは、たいてい官僚の懐を肥やすことになっている。ボランティア保険とか農業共済保険など、いくらでもでてくるだろう。後者など品種改良が進んで今日農業生産者が被害を受けるようなことなど殆どないのだから必要ないだろう。だから強制保険ではないのである。なのにそれを扱う団体は 「国の決めごとで・・・」 などと今日では無意味と化している戯言の嘘をつくから農業者は拒否できないと思い込んでいる。愚かというか素直な民衆を、いつまでも鴨にするのである。

 

 

【自民党と官僚の共犯体制の成り立ち】
金子 : 戦後第一回の総選挙では、予算のよの字も知らない連中がバッと出てきたが、第二回の選挙には局長以上の官僚が大量に各省から出た。その代表選手が佐藤栄作と池田勇人。吉田茂はようやく独立にこぎつけたが、官僚がしっかりしなければならん、政治家にはまかせられないという頭になっていたから、自由民主党を官僚が支配できるようにした。だから佐藤栄作なんて議席がないのを官房長官か何かにするかということで、吉田が池田・佐藤を引っ張り込んだ。池田・佐藤は仰せかしこみ自由民主党を占領する。だから岸、その次池田がやって、佐藤がやる。この間に体制ができ上がるんです。つい先頃まで続いた55年体制というのは、こんな形につくられた。(p.96)
 なるほどぉ~~。
 共犯関係のルーツはこのような成立過程をとっていたということが分かる。であっても、その時代の日本経済は良き分配が行われ国民全体が豊かになっていったから、結果論的には、特に悪いということにはならない。
 政官癒着のマイナス面が喧伝され始めたのは80年代になってからなのだろうか。

 

 

【官僚退治の漢方薬】
日下 : 人数が多いために天下り先をつくるのに役人も苦労している。採用人数を減らせば天下り先も少なくて済むから、特殊法人まわりのムダな仕事がなくなる。今あるのも閉鎖できる。 ・・・(中略)・・・ 公務員に採用半減の効果が出るのは20年くらい先だけど、今からやりなさいと言って歩いた。 ・・・(中略)・・・。
金子 : 民主党がいろいろやろうとしているが、川上の政策をやらないで川下の政策をいくらやったって、元の木阿弥だと思う。見ている民はそのときは喝采するが、また決壊する。そのときは、くそみそになる。しかし民主党が分かっているのかどうかは疑問だ。案外、目先を大事がっているのかもしれない。
日下 : 漢方薬でいかなきゃ。(p.108-109)
 地方行政は、市町村合併でだいぶ議員と公務員の数が減ったのは事実だけれど、それでもまだ、市民に接することのないフロアーには、単なる無駄飯ぐらいの人員がテンコモリいることが最近よく分かった。
 「人員削減に努力しています」 などときれい事を言って数字を並べたって、無駄飯ぐらいを抱えたまま、その上まだ社団法人に外注と言う形で莫大な人件費を注ぎこんで浪費しているのである。おそらく市長と社団法人の癒着関係だろう。行政のやることと言ったら、国も地方もせいぜいそんなもんである。

 

 

【道州制特区推進法】
金子 : 道州制特区推進法という法律は、州へ行く過渡段階において地方が特区という手段を通じて道州創造の主体になるという法律です。 ・・・(中略)・・・ それは、自主性をもたないでいる他の地方を尻目にかけながら、先に、国からの三元(権限・財源・人間)を受け入れていく母体です。そうしながら、一歩一歩道州の姿に成長していく。全国一斉に道州制の大号令がかかるのは、その先のことです。そういうスケジュールが、法治の網の目の中に組み込まれたというのが、小泉・安倍両内閣の業績です。みんなこの法律をよく知らないでしょう。(p.126-127)
 へぇ~、道州制って、大前研一さんがだいぶ前から言っていても、ぜんぜん進んでいかないものとばかり思っていたけれど、実現に向けて動いてはいたんだぁ。
金子 : 九州はもうその前から、全知事と財界で方向を打ち出し、研究調査を組織的にやっています。 ・・・(中略)・・・ 関西は、有名な橋下が知事になって、知事室に 「道州制」 なんてのぼりを立てて頑張っている。(p.131)

 

 

【官民共同研修】
金子 : 私が考えたのは、課長補佐の段階から民間との共同研修、切磋琢磨のシステムです。
日下 : 賛成ですが、そのときの ・・・(中略)・・・ 。(p147-148) 
 金子さんが考えている先はシンクタンクであるけれど、そこまでいかなくてもこの考えは、地方行政においても必要であろう。
 チャンちゃんは30代の半ば頃に4年間、民間から公的機関に出向させられたことがあるけれど、余りにも民間とは発想が違っていて驚倒したどころか、余りに閑で脳の回転力がおもいっきり落ちたのを実感した経験がある。つまりバカになるのである。トロクなっている自分に気付くのである。仕事は閑なのが第一優先という人には良いかもしれないけれど、チャンちゃんはバカになりたくないから4年目で出向から戻れてホッとした。こんなに仕事のない公的機関の世界で長年生きている人が優秀さを維持できるわけないと確信している。
 だから、最近、地元の地方行政の建物内の閑でやることのない大勢の人々を見て、予算というより人的資源(能力)の無駄だなぁ~~とつくづく思ったから、山梨県甲斐市の保坂市長に 「20代30代の若い職員が頭のまわらないバカにならないように、頭を使う習慣を根付かせる目的で働きますから、職員にしてください。給料は要りません。通勤費もいりません」 と言ったら、「市の条例に合わない」 とタラタラ言うから、「なら、その条例を具体的に示して下さい」 と言ったら、結局のところ 「前例がない」 という典型的かつ定番な公務員的発想による回答で拒否された。
 市長は、現在の若者の置かれている社会状況についても何等見識はないらしく、ほぼ聞く耳を待たない様子だった。親孝行を語って涙を見せつつ人情派を演出し、従来の陳情型の行政を行っていればそれで十分という認識なのだろう。
 有力者を通じた紹介でもないチャンちゃんのようなバカの話は、最初から聞く耳を持つ意志はなかったらしい。
 「名古屋市のような行政改革は反対」 ともハッキリ言っていた。
 こういう市長を選出した市民のせい、と言ってしまえばそれまでだが、甲斐市(開始)は既に終わっている。

 

 

【公務員法】
日下 : あれを見ると、民間からお接待を受けちゃいけないと書いてあるでしょう。しかしこういう場合は受けてもいいというのに、学校の友達はよいと書いてある。学校の友達のない人が書いたんじゃないかと思う。上の人は学校友達がたくさんあって、付き合っているのでそれは禁止できない、という感じだね。もらっちゃいけないものの中に、日本手ぬぐいと書いてある。ワインとか札束となんで書かないんだ。(p.152)
 公務員法なんて読んだ事ないけれど、この日下さんの記述を読む限りにおいて冗談みたいな内容である。
 「タオルはいいの?」 とかロクでもないクッコミを誰だって思いつくことだろう。
 
<了>