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 学生時代、人間の生死と月に関する論考を読んだ記憶があり、その方の著作を古書店で見つけたので読んでみた。記憶にあった内容は、134ページ以降の 「月と人間の死」 という章の中にやはりあった。1996年3月初版。

 

 

【月の女神】
 ラテン語で月を意味する lunatic (ルナティック) は精神の異常と結びつけらえられた。(p.46)
 狼男も満月の夜に狂変するくらいだから、西欧の人々は月をこの意味合いで考えてしまうらしい。紙おむつの 「ムーニーマン」 という名称を聴くと、彼らは目を皿のようししてしばし絶句してから爆笑する。
 また英語の influence (影響) の原義は、天体からの霊妙な精気が人体内に流れ込むことを意味し、これが占星術の中核となる考え方である。
 ギリシャの月神にはセレネ→アルテミス→ディアーナといった変遷がある。 ・・・(中略)・・・ 。
 彼女(アルテミス)はアポローンの双生の妹である。彼女の名は、ギリシャ語源では解きがたく、おそらく先住民の女神であったのであろう。狩猟生活をしていたので、両性具有的な男性的性格を持った女神であった。(p.46-47)
  《参照》  『神話がわたしたちに語ること』  カレン・アームストロング  角川書店
            【アルテミス】

 

 

【六曜の算出法】
 旧暦の月の数と日の数をくわえ、これを6で割る。そのあまりがゼロから5になるにしたがって、大安、赤口、先勝、友引、先負、仏滅と変わってゆくのである。そこには何の神秘性もない。(p.68)
 “何の神秘性もない” と書かれてしまうと、数秘術を扱う人々は “異論あり” と言うのだろう。どうであろうと、六曜の影響を信じている人には心理的に影響はあるのだから、ロゴスによる判定は無意味である。

 

 

【雨と月齢】
 広域にわたる雨の降り方が、月齢位相で変わるという事実は、1960年代のはじめにブラッドリーたちが発見したことである。(p.108-109)
 月齢4週の中で、第1週(新月~上弦)、と第3週(満月~下弦)の期間に降雨量が多くなっている。
 欧米では、農夫たちは満月の日を選んでジャガイモの植え付けをするというのも、満月後、数日して雨の降りやすい傾向があり、枯死することがないので、このような知恵が伝承されることになったのであろう。(p.125)
 この原因について、雨粒の核となる宇宙塵を因子とする仮説が1960年代に 多く現れたけれど、実証的な裏づけが困難なため、研究は途絶えたらしい。しかし、その後、1994年になって、太陽系内の小惑星塵が閉じ込められている帯域と地球の公転軌道が重なっているという発見がなされており、問題が再燃することはまちがいない、(p.120) と書かれている。
 天候を左右してしまう人々は意外に多くいるけれど、微小なものであればあるほどそういった人々の意識の力は及びやすいのだから、宇宙塵という因子には興味深いものがある。

 

 

【出産と月齢】
 気象が人間におよぼす影響には分かりやすいものがある。著者の論考を読んで、いくつかの具体例が頭に入っていた大学生当時、麻雀をやりながら真面目不真面目が混交する話の中で、「山が噴火すると、子どもが生まれるんだぜ」 と言って大爆笑を誘ったことがある。火山も母体も、臨界(臨月)状態≒平衡に近ければ、外気圧の低下という因子で、噴火や出産が引き起こされるのである。
 しかし、月と出産の関係は明確なのだろうか。
 「むかしから、満月の夜は出産が多いんだそうだ」 ・・・(中略)・・・ 。
 以上はごく普通にありうる体験だと思うが、出産と月齢の関係をさらに統計的にくわしく調べたのは、数学者の藤原正彦氏である。
リーバー博士の The Lunar Effect, Biological Tides and Human Emotions は、アメリカで一時ベストセラーとなった本であるが、藤原氏は美子夫人と共訳し 『月の魔力 バイオタイドと人間の感情』(1984年、東京書籍) として刊行した。この訳書は多くの人の興味の対象になっているらしく、現在もロングセラーとして書店に置かれている。(p.146-147)
 『国家の品格』 や 『祖国とは国語』 の著者として有名な方であるけれど、意外に昔からこの分野で書籍デビューしていた。中央気象台長をされていた藤原咲平博士という方の、月と天候に関する研究内容が、この書籍内で何度か言及されている。藤原正彦氏の父(祖父?)なのだという。
 藤原氏はさらに、この理論に緯度による違いがあることに注目し、赤道付近では出産に対する月の影響が顕著で、高緯度に行くにつれて小さくなることを推論した。
 藤原氏は、これで月のリズムが出産に影響することは明らかにされたが、医学的根拠はまだ明らかにされておらず、今後の研究が期待されるとしている。(p.148)

 

 

【易における “姤” 】
 京大医学部の安並宏氏も、 ・・・(中略)・・・ 「明らかにお産は満潮時に多く、干潮時に少ないことが云いえられます」 とのべた。
 さてここで、すでに引用した陰陽二元論による波動の各位相の命名を思い出してもらいたい。陽がきわまって、やがて下り坂に向かう最初の位相は “姤” と名づけられている。 “姤” とはいったいなんのことか。
  ・・・(中略)・・・ 后とは女と倒子(トツ)の会意字であり “母后の聖子を生めるさま” をあらわしているのだという。これは出産に関連した文字であり、これが陰陽説のこの位相に位置付けられていることは、驚くべきことである。(p.149-159)
 天地の間の二元論的変動の12の位相は、、復、臨、泰、大壮、夬、、姤、遯、否、観、剥 となっている。(p.142) が干潮時、が満潮時に相当する。

 

 

【和差法】
 すべての時系列は平均値(和S)と偏差(差L)の合計によってあらわすことができるとする考え方。現在をX0 の状態とする。それよりひとつ前の状態は X-1 である。そうすると
  S =( X0 + X-1 )/ 2 ,  L =( X0 - X-1 )/ 2
 となるから、X0 = S + L によってあらわされることになる。たいへんかんたんな時系列の見方であるが、これは自然の変化を見る場合に、きわめて重要な見方のように私には思われる。
 現在では様々な方法により、21世紀のなかばすぎまでの長期予測が試みられているが、それらのほとんどはSの系列、すなわち平均値についての予想なのでああって、Lはほとんどノイズ(雑音)として切り捨てられている。(p.76-77)
 考えるときの材料になりそうなので書き出しておいた。
 
<了>