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 ちょっと前まで頻繁にテレビに出ていた有名人の数学者かつ大道芸人の著者の旅行記。かなり個人的な記述が多い。前半は日本国内、後半は海外の諸国漫遊記が記述されている。1998年11月初版の古書。

 

 

【熱海と温海】
 テレビの番組制作で日本国内を渡り歩いていた中で、山形県鶴岡市のちょっと南の日本海沿いに 「温海」 という地名があった。
 僕がおもしろいと思ったのは、「熱海」 は 「あつい」 という字を使っているのに読み方は 「あたみ」 で、「あたたかい」 と読む 「温」 の字の方が 「あつみ」 と読むことだ。(p.31)
 名前の場合も、温子(あつこ)って読むし、確かに逆だ。
 どうして、こうなっちゃったんでしょうね。

 

 

【韓国人はシャイ?】
 韓国で大道芸をしていた著者。
 僕の下手な韓国語も歓迎され、冗談にも笑ってくれる。ただシャイな人が多いらしく、観客と一緒にやる出し物にはだれも応じてくれない。 ・・・(中略)・・・ 。韓国の人々の反応は、日本の地方の都市の人々と似ているというのがぼくの印象だ。(p.134)
 政治問題についてだけ韓国人と接点のある日本人は、著者のこの印象に 「まさか・・・」 と思うのだろう。私も正直なところ少しそんな感じだ。しかし、著者の体験上の印象は知っておくべきである。

 

 

【マレーシアの高速道路】
 まず、僕が最初にびっくりしたのは高速道路の料金所だ。クルマは止まりもせずに料金所を通過してしまう。 ・・・(中略)・・・ 。ちなみにこの機械を作っているのは三菱重工、販売しているのは三井物産だという。(p.139-140)
 1997年のお正月に滞在したときのことと書かれているから、日本は実に10年以上も交通渋滞を放置してまで天下り企業から派遣されている料金所職員の雇用を優先していたことになる。
 良いやら悪いやらというところだけれど、技術革新が進むと単純作業の雇用は真っ先になくなるのが宿命である。

 

 

【マレーシアのマンション政策】
 ペナン島にも建築ブームが起こり、同じようなマンションが雨後の筍のように立ち始めた。政府はそれに目をつけ、マンションを購入する外国人に約500万円を国に納めるように義務づけた。だから今となっては三国さんのマンションの値段も買ったときの半分くらいでしかなく、売るに売れない状態だという。(p.156)
 マレーシア政府のこのような政策目的は、過熱を冷やすことだったとは思えない。単純に国庫を膨らまそうとしていたのではないだろうか。俄かには信じがたい政策である。それにしても、これはアジアの4龍(シンガポール・香港・台湾・韓国)が大いに隆盛を誇っていた時で、東アジア通貨危機の直前だから、現在は半分どころかそれ以下になっていることだろう。

 

 

【シンガポールのガソリン政策】
 シンガポールでは外国に行く時には、車のガソリンタンクが3分の2以上なくてはならないという規制があるのだ。これはシンガポールのガソリンに対する税金がマレーシアに比べて高いので、マレーシアに行ってガソリンを入れてくるのを防ぐためである。(p.171)
 シンガポールは小さな都市国家だから、中心部から40分も走れば、マレーシアとの国境の町ジョホールバルに入ってしまう。バスの乗客はシンガポール側にある、 Woodlands checkpoint と名付けられた税関で一旦下車させられるけれど、再乗車後の国境上の橋が何故そんなに渋滞しているのか疑問に思うことだろう。このガソリン残量チェック渋滞である。

 

 

【インドネシア “スカルノ大統領の最後の勃起“ 】
 “スカルノ大統領の最後の勃起” を見に行った。
 こう聞くと皆とっても驚くだろうが、実はこれはジャカルタの中心にある大きな塔のこと。スカルノ大統領が亡くなる直前に立てることを決めた塔なので、インドネシアの人は皮肉をこめてこのように呼んでいる。(p.182)
 ムルデカ広場にある独立記念塔のこと。
 この記述だけでスカルノ大統領の印象が定まってしまっては気の毒なので、デビ夫人の著作もリンクさせておく。
   《参照》   『愛をつなぐ』  デヴィ・スカルノ 冬青社
 

 

【インドネシア風の風邪治療法】
 大道芸人仲間の日本人のユキさんが風邪にかかってしまった。
 上半身を裸にしてまずオイルマッサージをしてから、いよいよ治療だと言い、インドネシアのコインを取りだした。どうするのかと思っていると、そのコインでユキの背中を擦っている。 ・・・(中略)・・・ 。ユキは 「あーっ!!」 という悲鳴を上げていた。 ・・・(中略)・・・ 。治療が終わると彼の背中は血が出て、赤と白のシマウマのような模様になっていた。(p.186)
 チャンちゃんもこれをやってもらったことがある。但し、インドネシアではなく台湾で。
 まあ、血行はよくなるんだろうけど、強烈にサディスティックな療法である。やってもらった人は、痛さで風邪をひいていることを忘れてしまうことだろう。とにかく目は醒めるし脳は覚醒する。「治療してくれて、ありがとう」 とお礼を言う気になれるかどうか・・・。
 
 
<了>
 

  ピーター・フランクル

     『美しくて面白い日本語』

     『諸国漫遊記』