イメージ 1

 これは素晴らしい本である。神智に長けた真正の宗教家が語る運命論もいいけれど、企業でプロジェクトを成功させてきた著者の手による運命論も分かりやすい。それぞれに違った視点で同じことを語っている。
 私がここに書き出そうとする部分は、一般的な読者が 「運命」 という言葉から予想するような部分ではないだろうけれど、普通に 「運命」 を考えている人にも、大らかな安堵感のうちに良き学びを与えてくれるだろう。


【満足感の法則】
 満足感には階層がある。「身体的満足」 を超えて、外発的報酬に基づく 「頭の満足」、内発的報酬に基づく 「心の満足」、さらにその先に 「魂の満足」 のレベルがある。階層が進むにつれ、満足感が深まり、また対応する意識のレベルが高くなる。 (p.43)

 人間は外発的報酬による妨害がなくなったとき、はじめて内発的報酬により容易に反応できる。  (p.46)

 人材というのは、魂の底に純粋なエンジンをもっており、出世とか金儲けに無関係にどんどん仕事を進めたいという欲望が人一倍強い。時に、そのエンジンは 「男のロマン」 と呼ばれることもあり、あるいは人材を 「技術馬鹿」 とか 「研究馬鹿」 と呼ぶ人も多い。
 ともかく多少世俗からかけ離れたどうきがあるからこそ、物事の本質が見えるのだ。 (p.47)
 外発的報酬とは、出世や金銭的報酬のこと。内発的報酬とは、人間としてはきわめて自然な、心の底からの喜びや楽しみの要求のこと。
 「お金がなければ心の底から喜びを感じられない」 という人が大勢いそうな気がする。そのような人々には、おそらく人間としての“純粋なエンジンがない” のだろう。 “純粋さ” はある程度先天のものである。つまり、前世において到達していた意識レベルが高い、ということである。ただ、あまりにも現在の社会が外発的報酬に偏ってしまっているから、先天の “純粋さ” を後天的に曇らせてしまっている人々が多いことも事実なのだろう。

 

 

【外発的報酬の弊害】
 外発的報酬というのは、他人による評価・統制を意味する。それを導入すると、楽しい遊びも不愉快な仕事に変わり得る。・・・(中略)・・・。
 面白いことに、こういくコメントが、「20世紀型」 合理主義経営真っ盛りのアメリカ社会から出ていることだ。
 アメリカにならって能力給を導入し、社内の活力が下がってしまった日本の企業にとっては、まことに耳が痛い話だろう。東京大学教授の高橋信夫は、その著書( 『虚妄の成果主義 --- 日本型年功制復活のススメ』 日経BP社)で、経済学の立場からそれを論じている。
 <誤解を恐れずに明言すれば、単純な 「賃金による動機づけ」 は科学的根拠のない迷信である>   (p.69)

 

 

【21世紀の企業経営】
 20世紀の経営が、理性と論理による表面的な合理性を追求したのに対して、21世紀の経営は深層心理学や、目に見えない深層的な宇宙の営みにまで配慮したものになるだろう。
 そして、そのプロトタイプは、なんと古臭いと思われていた、年功序列型終身雇用を中心とする日本型経営の中にあったのだ。・・・(中略)・・・。
 今後 「21世紀の経営」 を確立していくのは、日本がリーダーシップを執る可能性が高い。 (p.72)

 

 

【「最も真剣に準備した人のところに強運が訪れる」】
 「最も真剣に準備した人のところに強運が訪れる」 というのは本当だ。
 ただ、いかに真剣だろうと、誰かに強制されて準備をすすめても、強運はこない。内側からこみ上げてくる情熱にまかせ、自分で発想し、自分でコントロールできる状態で準備すると、初めて幸運につながるのだ。 (p.163)
 Incentive という単語を思い出す。日本語には 「刺激」 と 「動機」、二つの意味を持つこのような単語はない。日本では、外部から与えられる刺激によって行なわれることより、内側からこみ上げてくるものを尊ぶ気風がある。日本人にとって肉体は神の宮であり、神は人の努力(器の大きさ)に応じて内側から現れるものだからである。

 

 

【大河の流れ】
 浄土宗や禅宗の大きな枠を記述した後、このように書かれている。
 基本的には 「他力」 も 「自力」 も、自らの計らいを排して、大きな力に身をゆだねる、という意味で同じことを説いている。
 「他力」 と 「自力」 が同じ方向性を示しているとすれば、それに対立する概念は何であろうか。私はそれを 「エゴ(自我)から出た目的意識」 と名付けた。今の社会は、あらゆる人間に対して、幼少の頃から、そういう 「目的意識」 を強化するようなトレーニングを課している。その結果、人々が富や地位や栄誉を追い求めることが社会を推進する原動力になっている。  (p.173)
 「エゴからでた目的意識」 によって推進された社会は、かならずや行き詰まるであろう。日本人は古来から、「自らは計らわぬ死生観」 を持っていたはずである。人智の限界を知悉していた日本人は、大きな力に身をゆだねるという叡智に到達していたはずなのに、欧米型の人智に取り込まれて自らの最大の長所を失ってしまっている。

<了>
 

  天外伺朗・著の読書記録

     『意識学の夜明け』

     『深美意識の時代へ』

     『宇宙の神秘 誕生の科学』

     『運命の法則』

     『心の時代を読み解く』