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 90年からカザフスタン大統領をしている著者。カザフスタンはモンゴル西側にあり、カスピ海とアラル海に接した大きな国土で、中央アジアの主要部分を占める国である。
 中央アジアは、高校時代に世界史で学んでいても、国境が不明確であったりもしたので、その地域に勃興していた国家群に関する知識はかなり不明確である。故に、この地域について何か知りたいと思い読んでみたけれど、この本は、政治的な記述が殆どである。
 ソビエトの解体以降、この中央アジア地域の国名を耳にすることが多くなった。石油に関わって経済的な利権が絡んでくるからである。


【テロリズムは組織機構を有したインターナショナルなもの】
 現代のテロリズムは大衆的性格をえ、組織機構を有しており、また自前の金融システムを持つ。そして多くの、一見したところ課題も目的も本当に様々なテロ組織の行動を調整するための超国家的な本部を持っている。現代のテロリズム、急進主義が国際的でインターナショナルな性質のものであることを我々は認めざるを得ない。 (p.34)

 日本人全体が、このようなテロリズムの背景にある事実を知っていれば、『BEYOND BORDERS』 (邦題は、『すべては愛のために』) というアメリカ映画に描かれているような国際社会の矛盾を、落ち着いて読み解くことが出来るはずである。
 しかし、日本人は、このような社会派の真摯な映画ですら、「愛」だの「恋」だのを入れて柔なタイトルにしてしまう。このようなタイトルにしなければ興行成績があがらないからであろうが、こんなことをしているから、日本人はいつまで経っても国際社会の厳しさを自覚できないのである。


【上海協力機構】
 この本には、テロに対する対抗組織として、上海協力機構という名前が頻繁に記述されている。中国はかつては国際テロ組織に資金を供給する側であったのであろうが、経済的な国内格差問題を抱えている現状では、テロ抑止の側に立たざるをえないのであろう。


【イスラム文化圏】
 文化的遺産のかなり重要な構成要素の一つである宗教の復興は、カザフ民族の精神性の強力な刺激となることは疑いない。我々カザフ人にとってイスラムとは、まず第一に気高い理想であり、我々の世界観を規定する要素であり、かつては完全に忘却されてしまう恐れがあった我々の祖先や豊かなイスラム文化の記憶に対して、然るべき評価を与えることを可能にする、一種のシンボルである。 (p.82)

 カザフスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、いずれも「**スタン」という名の、中央アジアの国家である。トルコ系イスラム諸王朝の君主の称号である「スルタン」という名前が関与していることが分かる。
 一方、ウイグル族とは、モンゴル、中国にかけて活躍したトルコ系民族のことである。このウイグル(回)族を通じて中国に伝播したものが回教である。大学生の頃、ハルピンに行き、赤い満州族と青い回族が同一地域に別集団でそれぞれに生活していた状況を見てビックリしたことがある。
 イスラム文化圏が世界地図の中で占める領域は一番広いはずである。ハルピンや香港で「清真寺」という名称の寺院を見たことがある。「清真」はイスラムの精神性を表した漢字であるから、これらは中国文化圏内にあってはイスラム教の寺院である。
 さて、私は、回教とイスラム教の詳細を調べていないので今でも違いが分からない。カザフスタンも回教から始まってイスラム化していった歴史なのだろか。
 ソビエト連邦下で、一時無神論が国民の信仰を解体させようとしたが、現在では、宗教的復活は国家によって支持され、国内に数百のモスクが建設され、穏健派であるスンニ派イスラム教徒大衆の中で維持されているそうである。 


【イスラム教と神道】
 最近の報道を見ていると、イスラムといえばタリバンとかテロという言葉を思い出してしまう。しかし、これは偶々近年の資源開発地域がイスラム文化圏に重なっているということであって、イスラムが直にテロと結びついているわけではない。
 それどころか、「清らかさ」を尊ぶ宗教の精神性という点でみるならば、イスラム教は、キリスト教や仏教より、日本の神道に近いのである。

 

<了>