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 原題は、「THE PARADOXICAL COMMANDMENTS(逆説の戒律)」 である。著者の知らぬまに、マザー・テレサの言葉として世界を駆け巡っていた言葉なのだそうだ。
 表紙に英文の副題として記述されているように、「Finding Personal Meaning in a crazy world (狂った世界の中で、人生の意味を見つける)」 ために書き出された10か条である。
 人を愛すること、良いことをすること、正直であること、大きな考えを抱くこと、弱者のために闘うこと、築くこと、他の人を助けること、世の中のために最善を尽くすことによって得られる 「意味」 に焦点が絞られている10か条である。


【逆説の10か条】
 この世の中は正義の保たれた世界であるべきであると考えている余りにも純粋な人々が、現実の世界に直面して、人生と世界を諦めてしまわないように、10か条の前に 「逆接の」 と付けられている。
 また、「逆説の」 という形容詞は、自分自身よりも大きな何かの一部になることで得られる意味を体験することができるであろうことをも示唆している。


【早熟な著者】
 この書籍には、「逆説の10か条」 を思いついた過程のエピソードが記述されている。驚くべきことに、著者がハーバード大学2年、19歳の時に、高校の自治活動で活躍しているリーダーたちのために書いたものだという。
 この本の、副題の crazy world という単語を見て、チャンちゃんは、カーペンターズの「 I need to be in love (青春の輝き) 」という歌詞を思い出していた。

  The hardest thing I had ever done is keep believing
  There’s someone in this crazy world for me.
  ・・・
  I know I need to be in love .
  I know I’ve wasted to much time .
  I know I ask perfection of a quite imperfect world .
  And fool enough to think that what I will find.

  一番難しいことって、この狂った世の中に、
  私のために誰かがいてくれるって信じ続けること。
  ・・・・・
  愛が必要だって分かってる。
  たくさんの時間を失ったってことも分かってる。
  全く不完全な(狂った)世界に完全さを求めたことも分かってる。
  そしてまだ、何を見つけられるのだろうと考えるほどに愚かだってことも・・・


 著者が「逆説の10か条」を書いていた年齢は19歳。同年齢頃のチャンちゃんは、この曲の歌詞全体を、正に自分の心境そのものとして感じていたような精神過程にあった。
 チャンちゃん自身をかばうために書くつもりはないけれど、この曲の日本語のタイトルが 「青春の輝き」 とされていたことを考えると、少なくともタイトルを付けた人は、「世界に矛盾を感じつつも、解法を得られぬままに、時を過ごしているのが青春である」 と考えていたらしいことは十分推測できる。
 だから思うのだけれど、チャンちゃんは、一般的な青春を生きていたのであって、決して未熟であった訳ではない。あくまでも、著者が早熟であったのだ。


【「逆説の10か条」 が書かれた頃のアメリカ】
 著者は1949年生まれと書かれているから、現在57歳。日本で言うなら団塊の世代に属する。アメリカがベトナム戦争(1960~75)をやっていた期間に青春時代が重なっている。
 著者は、ジャーナリストの落合信彦さん(ノビー)と同じくらいの年齢なのだと思う。ノビーがアメリカ留学の頃の体験を書いていた本のことを思い出しただけで、チャンちゃんの心臓は早鐘を打ち出し、夜寝付けなくなってしまう。この書籍も、キング牧師やボビー・ケネディが次々に暗殺されて、アメリカの理想が崩壊しつつあった頃に書かれたものではないのか。

『ボビー』   アメリカ映画

 ネットで確認してみたら、キング牧師暗殺は1968年。この年、著者はドンピシャリ19歳である。
 この本の、どこにもそうは書かれていないのだけれど (なぜ書かないのだろう?)、平和の使者たちが次々に暗殺されて行ったこの時代背景を知ったならば、「逆説の10か条」 には、魂が震えるほどの切実さが込められていることが理解できるであろうに・・・・・・。

  ☆ 逆説の10か条 ☆

1 人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。
  それでもなお、人を愛しなさい。

2 何か良いことをすれば
  隠された利己的な動機があるはずだと人に責められるだろう。
  それでもなお、良いことをしなさい。

3 成功すれば、うその友だちと本物の敵を得ることになる。
  それでもなお、成功しなさい。

4 今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。
  それでもなお、良いことをしなさい。

5 正直で素直なあり方はあなたを無防備にするだろう。
  それでもなお、正直で素直なあなたでいなさい。

6 最大の考えをもった最も大きな男女は、
  最小の心をもった最も小さな男女によって撃ち落とされるかもしれない。
  それでもなお、大きな考えをもちなさい。

7 人は弱者をひいきにはするが、勝者の後にしかついてゆかない。
  それでもなお、弱者のために戦いなさい。

8 何年もかけて築いたものが一夜にして崩れ去るかもしれない。
  それでもなお、築きあげなさい。

9 人が本当に助けを必要としていても、
  実際に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。
  それでもなお、人を助けなさい。

10 世界のために最善を尽くしても、
  その見返りにひどい仕打ちを受けるかもしれない。
  それでもなお、世界のために最善を尽くしなさい。

 

<了>