その女性は
つらつらと自分の夫の不貞行為を話し出した。
その為に自分はこんな辛い思いをしている。
毎日辛い。
そりゃ辛いだろうな。
僕はそう思った。
一般論ではあるが。
老紳士は「あなた悪口をやめなさい。」
そう言い放ち、
それでも突き放す様な言い方ではなく
親身に話す。
彼女は一瞬きょとんとするが
思い当たる節があるのか、戸惑っていたが
「浮気する旦那が悪い!」
「誰かに聞いてもらわないと私のはけ口がない!」
「それも分かりますが、旦那の悪口、家族の悪口を不特定多数に撒き散らすように話すのはやめなさい。」
「吐き出したいのなら私が聞きます。それかノートに気持ちを書き出しなさい。すれば少し気持ちも落ち着いて自分も落ち度がなかったか、なぜ旦那は家を出てしまったのか、考える事も出来ましょう。とりあえず今出来る事、悪口をやめましょう?そうすればあなたの周りの環境は良くなりますよ」
彼女は納得出来ていないのか
なぜ私がそんな事言われないとならないのか、理不尽だ!とでも言うように何も言わずその場から立ち去る。
老紳士はその姿を無表情のまま見送った。周りの人々もザワザワしていたが
老紳士はそれ以上その彼女の話題には触れなかったのでまた元の輪に戻った。
「後は何かありますか?」
老紳士はまた笑顔で見回す。
「なければ今日はこれで終わりにします。また何かありましたらいつか、ここで話を聞きましょう。」
周りの人々はそれぞれお礼の言葉を述べていた。
そしてそれぞれ来た道を戻って行った。
僕は少し呆然と立ち尽くす。
すごい老紳士だ。
何者なんだろう。