「最強オリンピア」との「歴史的快挙達成」が懸かった「復帰戦」。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

「最強オリンピア」との「歴史的快挙達成」が懸かった「復帰戦」。



解雇後…。さらなる、衝撃の展開の続きです。



「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia en Tocoa.2013.4.14①


 紆余曲折を経て、突然「解雇」 になったレアル・ソシエダに1週間ぶりに電撃「復帰」 。本来なら立つ事はなかったはずの「2位・レアル・ソシエダVS1位・最強オリンピア」の頂上決戦のピッチに、「GKコーチ」として立っている自分がそこにはありました。※ちなみにこの写真は、2004年の北京五輪で知り合ったホンジュラス人カメラマン が撮影してくれました。

 考えれば考えるほど、不思議で理解できない状況…。だから、「考えない」方が良い。自分はただ、自然な流れに従って生きるのみ「考えるな、感じろ」 どういう形であれ、今、目の前に「GKコーチ」としての仕事があるなら、ただただ全力を尽くすのみ。そういうスタンスで、解雇から復帰後の1週間、オリンピア戦に向けての練習を行ってきました。

 1週間ぶりにチームに復帰した、初日の練習。僕は集中力を欠いたプレーしたGKを厳しく叱りました。本当なら、復帰したばかりなので、GKたちと1週間ぶりに練習場で再会して共に練習できる喜びと感動の余韻に少しは浸りたいところ。しかし、ここは厳しい「プロ」の世界。感慨に浸っている暇などないのです。僕だって本音では叱りたくはありませんでした。けどGKが試合で良いプレーができるために、チームが試合で勝利するため心を鬼にして叱りました。内心、僕の心は深く痛んでいました。

 チームに復帰して1週間、オリンピア戦に向けて納得のいく練習ができ、手ごたえを掴む事ができました。「必ずオリンピア戦ではGKが良いプレーをして、無失点で勝利する」 …自信をもって、現在「5連勝」中、最終節を前に首位に立ったホンジュラスリーグ「3連覇」中の「最強オリンピア」 とのホーム戦に臨みました。


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia en Tocoa.2013.4.14②


「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia en Tocoa.2013.4.14③


 今季最多超満員の観客に埋め尽くされた我らがレアル・ソシエダのホームスタジアム。オリンピアは国内最大のビッグクラブ。田舎町トコアの人々にとっては、おらがまちのクラブ、レアル・ソシエダとオリンピアの試合はもはや町の一大イベントであり、「お祭り」です。しかも現在レアル・ソシエダが前期「最下位」から後期残り2試合の時点で「2位」にまで大躍進し、この試合は「1位」オリンピアとの「首位攻防戦となりました。トコアの町の人々にとっては、正に「夢」のような状況であり、最高のシチュエーション…。盛り上がらなはずがない。過去最高の熱気に包まれたホームスタジアム。その舞台に立つ事ができた「幸せ」を、しみじみと感じました。それと同時に「優勝に向けて、絶対に落とせない一戦。自分が復帰して、負けるなんて事は絶対にあってはならない」という大きな責任とプレッシャーもかかりました。


 そんな中で始まった、試合…。


 最初のピンチは前半10分CKから。オリンピアに決定的なヘディングシュートを許しますが、これをレアル・ソシエダのGKサンドロ・カルカモが、ファインセーブで阻止。最初のピンチでGKにファインセーブが出た事、チーム全体がオリンピアを上回るパフォーマンスを見せている事…「この試合は勝てる。無失点勝てる。良い流れだ そう、思いましたが…。

 前半の中盤…。良い流れで試合は進んでいましたが、一瞬のを突かれて相手FWにDFラインの裏に抜け出されると、最後はレアル・ソシエダGKサンドロとの1対1を冷静に決められ、失点…。「0-1オリンピアに、手痛い先制点を謙譲してまいます。

 れだけ良いパフォーマンス、これだけ良い流れで試合が進んでいても、先制点を奪われる…。さすが、最強オリンピア。やはり、甘くはなかった。現在、怒涛の5連勝中で「定位置」の首位。前回、アウェーで対戦した時 よりも、明らかに強くなっています。


 そして、この失点が、我々に重くのしかかる事となりました。


 勝つ術を知り尽くした最強オリンピア相手に背負った、1点ビハインド…。その後はレアル・ソシエダがボールを支配して勢に出ますが、要所要所でオリンピアに完璧に抑え込まれ、なかなか得点のチャンスまでは作り出せません…。

 打開策が全く見出せない中、時間だけが刻一刻と過ぎていき、あっと言うに「90分」が経過…。残りは「ロスタイム」のみとなりました。スコアは依然として「0-1」、1点ビハインド…。

 今季のレアル・ソシエダは「連敗」をした事がここまでただの1回もありませんでした。しかしこの日ばかりは、前節の「今季最悪の内容」で敗れたプラテンセ戦 に続く敗北…「今季初の連敗」を覚悟しました。このまま負ければ、オリンピアの「1位」が確定してしまいます。



 ところが…。


 敗北を覚悟したロスタイムに入って、レアル・ソシエダがPKを獲得!!


 これを見事に決め、「1-1」の同点!!



 そして、このまま試合終了…。レアル・ソシエダ、オリンピアとの「首位攻防戦、頂上決戦」を、起死回生の同点PKで1-1」の引き分けに持ち込む!!

 
「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia en Tocoa.2013.4.14④


 残念ながらこの日の試合に勝利する事はできず、次の「最終節」待たずしてオリンピアの「1位」が確定してしまいました。

 では、なぜ、上の写真のように、スポーツの一面に大きくレアル・ソシエダの写真が載っているのか?TOCOA EN SEMIFINALES」とは、どういう意味なのか?

 結論から言うと、以前にも少し説明しましたが、ホンジュラスリーグはリーグを「1位」で終了しても、「優勝」ではありません。「上位6チーム」によるプレーオフで、「優勝」を決めます(これまでは長年「上位4チーム」のみでプレーオフを行っていたのですが、昨年からなぜか2チーム増加されました)。

 ホンジュラスリーグでは、とにかく、この「プレーオフ」に進出する事がステータス。特に我々レアル・ソシエダのような田舎の弱小クラブにとっては、「夢」であり「憧れ」です。

 レアル・ソシエダはこの日のオリンピア戦の「勝ち点1獲得」により、最終節を前に「2位」をほぼ確定させました(仮に最終節に敗れても、3位と得失点差で「」の差があるので「2位」はほぼ確定です)!!上のスポーツ紙の「TOCOA EN SEMIFINALES」とは、「トコア(レアル・ソシエダのホームタウン)、準決勝進出」という意味なのです。では、「準決勝進出」とはどういう意味なのでしょうか?(ホンジュラスリーグのシステムは、ややこしい…)

 もし仮に「3位~6位」になった場合…。我々進出がほぼ確定した「準決勝」の前に、さらに「3位VS6位、4位VS5位」の過酷なプレーオフを戦わねばなりませんこのプレーオフ、準決勝、決勝全て、「ホーム&アウェー」で行われます)。例えこのプレーオフを勝ち上がって準決勝に進出しても、過密スケジュールで疲労困憊…。良いコンディションでは戦えません。これは、キツイ。そもそも、勝ち上がれるかどうかも、分かりません…。

 ところが「1位」か「2位」になると、このプレーオフは免除で「準決勝」に直接進めます。さらに、もし準決勝でトータル引き分けになった場合、「リーグ戦の上位が決勝に進出」する事になっているので、「1位」と「2位」が断然有利なのです(昨年までは同点後に勝敗を決定するルールが無く、何とクジ引きで決めていた…)。そして「2位」は、決勝まで「1位」(オリンピア)とは当たりません。…このように「1位」と「2位」になる事は、「3位~6位」になる事とは天国と地獄ほどの差があると言っても過言ではないくらい、「優勝」を目指す上で非常に大きな意味があるのです。ご理解頂けたでしょうか?

 昨年、クラブの歴史上初めて1部に昇格するも、前期は最下位で、「降格候補筆頭」だった我々レアル・ソシエダにとっては、「3位~6位」のプレーオフに進出するだけでも凄い事なのに、何と「2位」…「準決勝進出」まで、ほぼ確定させました!!これは、ホンジュラスリーグ50年間の歴史を見ても、過去にほとんど例がない偉業!!


 
レアル・ソシエダが
歴史的快挙を、ほぼ成し遂げました!


※こちらがオリンピア戦後の(最終節を残しての)順位表。最強王者のオリンピアには一歩およびませんでしたが、無名選手ばかりの「雑草軍団」クラブの歴史上初の「準決勝進出」をほぼ確定させました!「R・Sociedad」=「レアル・ソシエダ」、「PTS」=「勝ち点」

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia en Tocoa.2013.4.14⑤


 「クラブ(レアル・ソシエダ)の歴史上、最も大きな『勝ち点1』」…と新聞でも表現されるほど、チームにとってこの日は正に、歴史的な1日」となりました。

 そういう「歴史的快挙達成」が懸かった試合が、解雇からの「復帰戦」となった自分…。これで破れでもしていたら、また、どれだけ僕がボロカスに批判されていたか分かりませんでした。だから「歴史的快挙達成」した喜びよりも、正直、ホッとしたという心境…安堵の気持ちの方が強かったです。喜びは、あまりなかった…。

 何はともあれ、今回もGKサンドロ・カルカモ、そして他の選手やレアル・ソシエダに関わる全ての人たちの素晴らしい働きのおかげで、何とか、大きな「責任」と「プレッシャー」を乗り越える事ができました。また1つ、大きな大きな「壁」を、乗り越える事ができました



 さあ、次はいよいよ、後期リーグ戦の「最終節」。

 相手は現在5位で、是が非でも「プレーオフ進出」を決めたい、「4大ビッグクラブ」の1つ…「レアル・エスパーニャ。…そう。アウェーでの対戦では、あの「疑惑の判定」もあり敗れた因縁の相手」です。あの時、「必ずホームで、借り返す」と全員で誓いました。

 この試合は我々にとって、「消化試合」ではありません。僕は、準決勝進出は「ほぼ確定」と上に書いてきましたが、まだ「完全に確定」した訳ではないのです。我々がレアル・エスパーニャに大敗し、3位チームが大勝すれば、得失点差で順位は入れ替わってしまいます…。まだまだ最後の最後まで何が起こるか分からないし、全く気は抜けません。

 それにこのレアル・エスパーニャとの最終節には、僕がここまで強いこだわりをもって取り組んできた「リーグ最少失点」が懸かっています。上の順位表を見て下さい
(「GC」が失点数です)。ここまで後期リーグ17試合を戦ってきて「13失点」(自身がチームに合流してからは1試合で失点)は、現時点でオリンピアと並んで「リーグ最少失点」ですが、僕はこれを、何としても「単独」で達成したいと考えています。そのためには、最終節のレアル・エスパーニャ戦を「無失点」に抑える事が、最低条件…。

 僕にとっても、GKにとっても、チームにとっても最終節のレアル・エスパーニャ戦は非常に重要な一戦となりました。


 
 果たして、どうなる…?




「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VS Olimpia en Tocoa.2013.4.14⑥


 
つづく



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