アウシュビッツ収容所の隣で、幸せに暮らす家族がいた。
カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞、最大の衝撃作にして問題作。
映画「関心領域」
冒頭、真っ暗な画面で、収容所からと思われる音が流れてくる。
すると、美しくのどかな大自然の川辺で寛ぐ、家族の姿を映し出す。
楽しく過ごす様子からは、戦時下にいる危機感は全く感じられない。
時は第二次世界大戦下、ナチスドイツ占領下にあるポーランド。
アウシュビッツ収容所と壁を隔てたすぐ隣の家で暮らす、ヘス一家。
父のルドルフは所長を務め、その暮らしぶりは裕福で満ち足りている。
広い庭には色とりどりの花が咲き乱れ、手入れをする妻は幸せそう。
だが収容所からは、絶えず悲鳴や怒号、銃声などが聞こえてくる。
煙突からは煙が上がり、一家とは対照的な異様な光景が広がる。
物語は、家族の日常を描き、収容所内の実態を映すことはない。
あくまでも、家族の目線から見た日々を坦々と客観的に映し出す。
収容所で繰り返される残酷な行為に、完全に麻痺しているのが怖い。
ルドルフも家に帰れば、子供たちの面倒を見る良き父親であり夫。
どれだけ大量虐殺しても、ただ上の命令に従っているだけと分かる。
狂っているのは時代か人間か、戦争の狂気と悪の凡庸さに戦慄する。
何気ない会話の背景に含まれる意味や心情が、奇妙で随所で違和感が。
妻の使用人に対する態度など、冷酷で差別的なのに普通の感覚のよう。
そこへ妻の母がやって来て、しばらく滞在することになった。
豪華な屋敷と庭を披露して自慢する妻だが、母は黙って姿を消す。
あの環境に慣れる方が難しい、戦時下の普通とは何かと思った。
時折不穏を掻き立てるような、鈍い重厚音が響き渡り効果的。
突如大音響になるなど、心がざわつく音楽の影響が味わえる。
そしてルドルフは功績が評価され、転属が言い渡されるのだが。
今の暮らしに満足している妻は、離れたくないというほどに執着。
ルドルフは単身赴任することになり、家族と離れ離れとなる。
さらにルドルフは、いかに効率よく「処理」出来るのか考える。
収容所ではないパーティー会場でも、その方法が頭から離れない。
そこにはためらいも苦悩もなく、倫理観や人間への尊厳もない。
これほど人を狂わせる戦争の脅威と残酷さが、ただ恐怖だった。
最後に現在の博物館に移り、当時の遺品の数々を静かに映し出す。
時代を超えた演出に戸惑いながら、ラストも暗転してエンディング。
面白いという類の娯楽作ではなく、理解が追い付かない部分もある。
壁の向こうの収容所の様子は、見る者の想像に委ねるしかないが。
無関心であることの恐ろしさを突きつけ、問題提起している。
今の時代にも通じるものがあり、深く考えさせられる作品だった。