皆さま
何気なく発せられた人の言葉には、
大切な意味が隠されていたりします。
私の人生でもそんな言葉が時として、
自分を護ってくれている、そんな感覚を
覚えることもあります。
この物語が、そのことを教えてくれます。
詳しくは本文をお読みください。
本日もよろしくお願いします。
【自己紹介】
-----------------------------------------------------------------------------
「人の言葉には大切な意味が隠されている物語」
~祖父の意外な一言~
私にはとてもお世話になった
祖父がいました。
祖父は、一言で言うととても
厳しい人だったのです。
私は男として生まれました。
そうして、数十年が過ぎています。
祖父は、男は男らしくあれ、と
それを地で行く人だったのです。
「背筋を伸ばせ」
「挨拶は大きくハッキリと」
「堂々としていなさい」
まだまだ小さな私にも
そんな風に教育してくれました。
少しずつ大きくなっていく私に
祖父は、
「勉強をしておきなさい」
「大学に行きなさい」
「そうして、人を動かせる人間になりなさい」
そんな風に、進路で決断がある度に
私にそう、助言していたのです。
その祖父の助言を素直に受け止めて、
実践していたら、いったいどうなって
いたでしょうか。
そうです、私は、祖父の助言を
どうしても違和感が拭えずに
素直に受け入れることができませんでした。
今、考えてみると、祖父は、祖父の中で
最善の助言をしてくれていたのです。
それは、祖父がそうやって、本当に
真面目に仕事をやり続けて、家族を
築いていったからです。
そのことが、今になってようやく
私も理解できました。
でも、当時の学生時代の私には、
どうしても受け入れられなかったのです。
だけれども、そんな風に厳しい祖父でしたから、
私があまりに祖父の考えと違うことを言ったら、
もしかしたら怒り出してしまったり、とても
残念に思うと感じて、何も言わずに、合わせた
フリをしてしまっていました。
「うん、そうだね」
とても気のない返事だったと思います。
本気で、助言してくれている人に対しての
返事としては、とても失礼だったとも思います。
実は、その頃から、私は、どうしても
やりたいことがあったのです。
そのことは、誰にも言っていませんでした。
学校の友達にも言っていませんでしたし、
自分の親にも言っていませんでした。
ましてや進路相談で、学校の先生にだって
言っていません。
私は、自分の想いを表現できる
画家になりたかったのです。
その想いを秘めながら、普通に学校に通い、
なんとか普通に就職でもしようと考えていました。
でも、祖父の助言を聞くと、普通に就職するのでも
大変な想いをするのだろうなと想像もしています。
ましてや、そんな風に「人を動かす人間になれ」なんて
言う、祖父でしたから、「画家になります」なんて
言ったら、もしかしたらショックで倒れてしまうかも
しれない、なんて想像もしました。
だから、そんなことは言えずに、私は
秘かに、誰にも見せることなく絵を描くように
なります。
それはそれは、とても楽しい時間でした。
描いた絵は、誰が見るわけでもありませんが、
どこか後ろめたさがあったのか、こっそりと
全ての作品は机の引き出しにしまって
おいたのです。
それから、数年が経ったかもしれません。
いよいよ、私も就職に向けて動き出す
時期がやってきたのです。
その頃には、当に自分の想いを表現する
画家になることは、奥の奥にしまっていました。
同級生たちが就職活動を行っているから、
ただ、そんな理由で一緒になって始めました。
でも、やっぱり、就職する理由が自分でも
わかっていないので、面接でもうまく
いきません。
友人たちが次々と内定を得る中、私は、
一社からも内定を得ることができずにいます。
もしかしたら、本当は就職などしたくなかったから、
それが現実になっていただけかもしれません。
でも、当時の私にはまったくわかりませんでした。
そんなある日、祖父としばらくぶりに
再会する日があります。
「久しぶりだな、元気か?」
祖父は、とてもうれしそうな表情を
浮かべて、私と対峙してそういつもの
口調で挨拶してくれました。
「元気だけど、就職が決まらなくてね」
「そうか、いいところがあるといいな」
祖父は、そう言うと熱いお茶をすすって
私の目を見ました。
「なあ、そういえば」
「最近、絵は描いているのか?」
私はぬるくなったお茶を吹き出しそうに
なりました。
「え、絵?」
祖父は、そんなことはお構いなしに
言葉を綴るのです。
「お前は、自分の心を表現する能力が長けておる」
「どこかのコンクールにでも出してみたらいい」
「お前ならきっと人の胸を打つ作品ができる」
「え、絵?」
「なんで、絵のこと知っているの?」と
聞きたくなりましたが、なぜだか、私は
慌てるばかりで、言葉が出てきませんでした。
「じゃあ、じいちゃんは、そろそろ行くわ」
そう言って飲みかけのお茶を飲み干すと、
祖父は、立ちあがり、本当にそのまま
玄関を後にするのです。
「じ、じいちゃん」
私が祖父の後ろから声をかけましたが、
右手を上げて、そのまま行ってしまいました。
私は追いかけることもできず、なんだか
ボーっとしていた記憶があります。
普通に考えたら、追いかけていきますからね。
それから、しばらくして祖父は、
病気になって亡くなりました。
病気になった祖父はしんどそうでした。
それでも数カ月病院で過ごしてから
亡くなりました。
だから、私たちもその間に、祖父との
別れの準備ができたのです。
「じ、じいちゃん」
それから、数年が経ちました。
祖父から言われた言葉とは
裏腹に、私は普通に会社員として
働くことになります。
でも、その後、会社が倒産したことを
きっかけにして、趣味で行っていた
絵画の道に入ることになりました。
それは、やっぱり、祖父のあの言葉が
あったからに他なりません。
「お前は自分の心を表現することに長けている」
そうして、実はもうひとつの言葉にも
大きな意味が隠されていたことに
気が付きます。
「人を動かす人間になりなさい」
私はてっきり、この言葉の意味は、
「偉くなって、部下をたくさん持って動かしなさい」
そんな意味があるとばかり思っていました。
でも、本当は違ったようなのです。
「人(の心)を動かす人間になりなさい」
そんな意味が込められていたに
違いありません。
「じいちゃん、まだまだだけど、少しずつ」
「絵で人々の心を動かせるようになってきたよ」
「大切な言葉を贈ってくれてありがとう」
私はそんな大切な言葉を胸に
日々心を込めて、絵を描いております。
【終わり】
-------------------------------------------------------------------
執筆依頼なども承っております。
-------------------------------------------------------------------
この物語を読んで何か一つでも
感じていただけたら嬉しく思います。
想いを乗せて書いています。
皆さまよろしくお願いいたします。