皆さま
これからどんな人生を生きようかと
考えても、いったいどんなことが
起きるかなんて、自分ではわかりません。
やっぱり、何も課題と思えることが起きない人生が
素晴らしい人生というわけではないと思うのです。
最後に「ここまで生きてこられてよかった」と
言えたら素敵な人生だったなあと思えると、
僕は思いました。
今回はそんな物語です。
本日もよろしくお願いします。
穏やかな流れが印象的だった、
東京は葛飾柴又に流るる江戸川の写真です。
【自己紹介】
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「ここまで生きてこられた歓びを感じる物語」
~傷だらけの魚が実感した~
ある川に住む魚がいました。
魚はもう今にも命を終えようと
しているのです。
魚には力を入れることはできず、
皮の緩やかな流れに身を任せて、
ユラユラとただ漂っているようでした。
魚にはこれまでの激しい生き様を
物語るかのように大きな傷がいくつも
ついているのです。
魚は薄れゆく意識の中で、何を
思っているのでしょうか。
それは、これまでの生きた物語でした。
どんな風に生きて、どんな思いを持って
生きてきたのか、例えで良く使われますが、
まさに走馬灯、映画の映写機のように
その場面が頭の中を駆け巡っています。
卵の時代は、生きている頃は思い出すことも
できませんでしたが、このときになると、
なぜだか思い出すこともできました。
これから、いよいよ魚として生きてゆく、
どんな出来事が待ち受けているのか、
不安な気持ちなど一切なく、ワクワクと
していたのです。
そうして、稚魚となり、川の中を泳ぐように
なります。
流れに勝つことなどできず、自分の意志とは
関係のない方向へ持っていかれることも
しばしばでした。
他の大きな魚や、虫たちに命を狙われた
ことだってあります。
そんなときは、たまたま助かったようなことも
あれば、お父さんやお母さんが守ってくれた
思い出も蘇ってきました。
奇跡ともいえるような確率を潜り抜けて、
この魚は成魚とへと成長していきます。
この頃は、そんなことは奇跡だとも知らず、
当たり前だと魚は思っていました。
でも、今この生を終えていく中では、
きっと多くの兄弟たちがいて、早くして
死ぬ仲間もいたのだと、だからこそ、自分が
生き抜いてこられたのだと、なぜだか
そんなことを思っているのです。
今更ながら、そんな兄弟たちに
「ありがとう」と言葉にはならない状態ですが、
魚は伝えれば良かったなあと感じていました。
でも、もうそれは叶いません。
まだ若いころは、少し無茶をして
激流を目指して泳ぎ回り、岩に
身体をぶつけてしまい、今も残る
大きな傷をつけてしまいました。
そのときは、もうこれ以上生きられないかと
自分の限界を感じましたが、それでも
とにかく毎日生き続けたのです。
餌も採ることも難しくなり、ずいぶんと
身体も痩せてしまいました。
でも、諦めずに日々を生き続けたのです。
すると、少しずつですが、回復していきます。
そんな辛く過酷な日々も、死を目の前にした
魚にとってはとても良き体験となっていました。
「あのとき、諦めずに生き続けてよかったなあ」
成魚になって、しばらくすると、お父さん、
お母さんとの別れもありました。
成魚として、自分で縄張りを持って、
餌を捕って生きるようになるのです。
自分のことは自分でやるという
時期に入ったのです。
でも、そんな時期を過ごしているうちに、
お父さんやお母さんは死んでしまいました。
お父さん、お母さんとの別れも魚に
とっては大きな出来事だったのです。
もっともっと、何か自分にできることは
あったのかなあとも思いました。
少しだけ後悔もありましたが、
お父さんとの別れの前、お母さんとの別れの前、
それぞれと少しだけでもお話しできたことが
あったので、それでよかったのだと
感じています。
この魚は、その後自分が親になることは
ありませんでした。
そのことも、今考えると親になってみたかったとも
感じなくもありませんが、だからこそ
できたことも多かったのだと納得しているようです。
魚は親になることを選ばず、仲間たちを
守ることを自分の生きがいとしました。
近くに縄張りを持つ同じ仲間の子どもたちを
外敵から守ってみたり、泳ぎ方などを
身を持って教えていたりしたのです。
そのことを多くの魚の仲間たちに
感謝されたことを思い出しました。
「あなたのおかげで助かりました」
こんな言葉をもらうことが多くなったのも
この頃でした。
魚はこの言葉をもらうことが、何よりも
うれしかったのです。
もう、息絶える直前ですが、そんな言葉を
思い出して、脱力しているものの
身体の中が暖まってゆくような感覚に
包まれていきました。
そうして、流るることを止めない
川の中でユラユラと揺られながら
魚は一生の幕を閉じました。
その息絶えるのか、どうかの狭間で
魚はひとつだけ呟きました。
「ここまで生きてこられて本当によかった」
魚は完全に力尽き、大きな流れに
巻き込まれて、姿を消してゆきました。
【終わり】
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執筆依頼なども承っております。
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この物語を読んで何か一つでも
感じていただけたら嬉しく思います。
世の中が今よりも幸せな場所になっていきますよう
想いを乗せて書いています。
皆さまよろしくお願いいたします。