皆さま

 

最近の映画館ってすごいですね。

 

ネットで席の場所まで決められて、

 

便利な世の中になったものです。

 

では「道端で起きている幸せを綴る物語」の

第75作目を書いていきたいと思います。

 

「電車に乗れない美由紀さんが道案内をしてもらった物語」

 

美由紀さんは働く40歳代の女性です。

 

会社では女性の数は増えてきたものの

 

まだまだ少ない管理職を務めています。

 

美由紀さんの仕事っぷりは評判が良く、

 

部下からの信頼も厚いです。

 

美由紀さんの上司も美由紀さんがしっかりやってくれるので、

 

安心しています。

 

そんな美由紀さんですが、人には言っていない

 

秘密がありました。

 

美由紀さんは電車に乗れないのです。

 

きっかけは美由紀さんが管理職になるかどうかの

 

瀬戸際の時でした。

 

日々、夜遅くまで仕事に没頭していました。

 

すると、ある朝電車に乗ると

 

とてつもない不安感に襲われて

 

心臓のドキドキも止まらなくなり

 

このまま死んでしまうのではないかと

 

美由紀さんは恐怖を感じるようになったのです。

 

それ以来、美由紀さんは電車に乗れなくなりました。

 

そして会社の近くに引っ越し、会社には内緒で

 

自転車で通勤しているのです。

 

雨の日も風の日も雪の日もです。

 

そんな管理職として日々仕事をしている美由紀さんですが、

 

この日は外出をしなくてはならなくなりました。

 

しかも、部下を連れて行くことになったのです。

 

もちろん、自転車で行くわけにはいかないので

 

電車に乗らなくてはなりません。

 

そのことを考えるだけで美由紀さんはドキドキと

 

心臓が美郷さんに何かを伝えてきました。

 

美由紀さんはそこで断りたいと思いましたが、

 

上司からのお願いでしたので

 

断ることができませんでした。

 

そして、久しぶりに部下を連れて電車に美由紀さんは乗りました。

 

しばらくは部下たちと話して気を紛らわせていましたが、

 

運の悪いことにその電車が混んでしまいました。

 

その圧迫感もあり、美由紀さんは不安を感じてきます。

 

どんどんと乗客が増えてきて、美由紀さんの心臓は

 

ドキドキが大きくなり美由紀さんに伝えます。

 

美由紀さんは不安と強烈な圧迫感によって、

 

その場で膝をつきます。

 

部下たちが美由紀さんを心配し始めました。

 

美由紀さんは「体調が悪いだけ」と部下たちに伝え、

 

その日をなんとかやり過ごしたのです。

 

しかし、美由紀さんの心と身体は自分の思うように

 

機能してはくれませんでした。

 

美由紀さんは「今日寝たら治るだろう」と

 

考えましたが、次の日の朝

 

こんなことは入社して初めてでしたが

 

「会社に行きたくない」という言葉が

 

胸の奥から湧きあがってきました。

 

美由紀さんは起き上がることができそうに

 

ありません。

 

上司に電話をして

 

「しばらく休ませてください」と

 

言いました。

 

最初、上司は驚いていましたが

 

美由紀さんの声のトーンから

 

今までにないことだと感じ取ったようで、

 

了承したのです。

 

美由紀さんはそれからしばらくの間、

 

眠っては起きて眠ってという

 

まどろみの中、生活をしていました。

 

すると少しずつですが、「外に出てみよう」という

 

気持ちが湧いてきました。

 

そして美由紀さんは平日の昼間にゆったりと

 

近所を歩くことにしたのです。

 

仕事に追われていた美由紀さんは

 

平日の昼間に近所を歩くことなどなかったので、

 

とても新鮮に感じました。

 

猫がいたり、植物が花を咲かせていたり、

 

おばあちゃんたちが井戸端会議をしていたり

 

見ているだけでも美由紀さんにとっては

 

気分転換になりました。

 

しばらく行くと見たことのない景色が

 

広がるようになります。

 

「少し歩き過ぎたかなあ」と美由紀さんは

 

心配になりました。

 

あたりを見回していると、

 

釣りざおのようなものを持っている人たちが

 

歩いているのが見えました。

 

すると釣りざおを持った少年と目が合ったのです。

 

その少年は美由紀さんに気が付き、なぜだか

 

美由紀さんの方へ近づいてきました。

 

「先生!」

 

美由紀さんは後ろを振り返りますが、

 

誰もいません。

 

「先生!」

 

美由紀さんは自分のことを指さします。

 

「先生ですよね?」

 

「いえ、私は先生じゃないわよ」

 

少年は美由紀さんに近づいて顔を見ています。

 

「あ、本当だ。先生じゃない。失礼しました」

 

「あら、その先生に似ているのかしら」

 

「はい、とっても」

 

美由紀さんは少年だと思っていましたが、

 

その子は近くで見ると少女でした。

 

美由紀さんも小さな頃、髪を短くして活発だったので

 

良く男の子と間違われてたことを思い出します。

 

「釣りができるの?」

 

美由紀さんは少女に聞いてみました。

 

「釣り堀があるんです。行ってみますか?」

 

少女は美由紀さんを釣り堀へ

 

道を案内してくれました。

 

美由紀さんも小さい頃良く釣りをしました。

 

釣り堀では慣れた手つきで

 

餌を付けて釣りざおを投げます。

 

すると久しぶりの釣りでしたが

 

美由紀さんの針には次々と魚がかかりました。

 

あっという間に美由紀さんのバケツは

 

魚で一杯になります。

 

美由紀さんはその魚たちをじっと見ています。

 

美由紀さんの頭の中は少し白っぽくなってきました。

 

魚たちが何かを伝えようとしている気持ちになってきます。

 

「助けて~」「助けて~」「助けて~」

 

美由紀さんは「あれ、何これ」と最初は

 

不思議そうにしています。

 

そして、やっぱり魚たちから

 

「助けて~」と聞こえてくるようでした。

 

美由紀さんはそれは、魚たちが苦しいから

 

池に戻してくれと言っているのかと思いましたが、

 

どうやらそんな感じではありません。

 

魚たちは仕切りに「助けて~」と言っています。

 

実際は魚たちではなく少女が魚の気持ちを

 

ふざけて言っているのですが、美由紀さんは気が付きません。

 

美由紀さんはついに「助けて~」と呟いてみました。

 

すると、どんどんと魚たちの声は大きくなります。

 

美由紀さんは「助けて~」と言っているうちに

 

なぜだか涙がこぼれてきました。

 

そうです、美由紀さんは「助けて」という言葉は

 

自分が覚えている限り使ったことがありません。

 

それほどまでに自分でなんとかしなくてはと

 

今までやってきました。

 

しばらく美由紀さんは泣いていました。

 

人前や魚の前で泣くのはどれくらいぶりでしょう。

 

美由紀さんの気持ちは少し落ち着いてきました。

 

会社でだってずっと誰にも頼らずやってきました。

 

だからこそ管理職になれたと思っていました。

 

でも、上司も部下もいるからこそ

 

管理職として仕事ができているんだと

 

気が付いたようです。

 

そうして、美由紀さんは困ったら「助けて」と

 

言ってみることにしたのです。

 

それからしばらくすると会社にも通うことが

 

できるようになりました。

 

最初は自転車通勤を続けていましたが、

 

会社で「助けて」を言うようにしたら

 

電車にも乗れる気がしてきたのです。

 

今では電車で会社に通うようになったそうです。

 

そして、時折思い出すのです。

 

雨の日も風の日も雪の日も必死に自転車を

 

こぐ姿を。それを思い出すと美由紀さんは

 

何だか笑えてくるのです。

 

美由紀さんは釣り堀に案内してくれた少女との

 

出会いという偶然に感謝しました。

 

【終わり】

 

皆さまいかがでしたでしょうか。

 

美由紀さんは頑張っていたんですね。

 

そういった経験は尊いものだと思います。

 

でも頑張り過ぎて人を頼れなくなっていたみたいです。

 

釣りが好きな少女と出会うことで、

 

「助けて」と言う大切さに気が付けたようです。

 

現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が

このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる

きっかけになったら嬉しく思っています。

世の中には親切な人は意外といます。

そんな願いを込めて書いています。

 

何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。

 

皆さまよろしくお願いいたします。