皆さま
本当に八月が終わっていきます。
今年はセミの声を聞いている期間が
短かった気がしています。
気のせいでしょうか。
では「道端で起きている幸せを綴る物語」の
第47作目を書いていきたいと思います。
「怒ることができない梨乃伊さんが道案内をしてもらった物語」
梨乃伊さんは20歳代の女性です。
梨乃伊さんは人に怒ることができません。
怒りというものが良くわからなくなっています。
先日も電車の特急券を買おうと
窓口に並んでいたら
知らないサラリーマン、
知らない若い女性に
割り込まれてしまったのです。
中々1度の並びで2回
割り込まれることは珍しいですが、
梨乃伊さんは心の中にグルグルと
何かが渦巻いていることには気が付きますが、
何も言わずに2回とも割り込まれてしまいました。
その話しを同僚にすると、
「何で怒らないの?」と
梨乃伊さんは真顔で心配されました。
「やっぱり私って変なのかな」梨乃伊さんは
そう感じていたのです。
実は梨乃伊さんは小学生の頃に
いじめにあっていました。
その当時の梨乃伊さんは感情など
押し殺すわけでもなく、
楽しい時は笑い、怒ったときには怒り、
悲しい時には泣いたりと、
自然な感情で生きていました。
でも、ある時からクラスメイトに
「怒り方が気持ち悪い」と梨乃伊さんは
言われたのです。
そのことはあっという間にクラス中に広まって、
梨乃伊さんを怒らせようとする人が増えました。
梨乃伊さんが怒れば怒るほど
そのいじめの輪が広がっていくようでした。
梨乃伊さんはそれから
怒ることをやめました。
それが、梨乃伊さんにとっての防衛策だったのです。
そうやってなんとか自分の身を守ってきた梨乃伊さんは
怒りという感情を失ったまま大人になりました。
その結果、チケット売場で2度も割り込まれても
怒ることもできなくなっていたのです。
その代わりに心の中がグルグルする感覚を
梨乃伊さんは感じるようになっていました。
そして、その心の中のグルグルは
日に日に大きく感じるようになっていきます。
梨乃伊さんはそんなある日、通勤で歩いていると
歩きスマホをしている若い男性にぶつかられました。
それは梨乃伊さんにとっては大きな衝撃を受け、
その場で転んでしまったのです。
しかし、その男性はそのまま何もなかったかのように
素通りしていったのです。
梨乃伊さんは驚きや痛みを感じていましたが、
それよりも大きかったのが心の中のグルグルです。
しかし、その心の中のグルグルはいつもとは違います。
一向に収まる気配もなく、どんどんと大きくなりました。
そして、梨乃伊さんは自分でも驚いているようでしたが
「ぶつかった男性を傷つけてやりたい」という
狂気にもにた感情に支配されてしまったようです。
梨乃伊さんは、その感情に支配されながらも
自分がそんな感情を持っていることに恐怖を感じました。
「自分は狂ってしまったのだ」と梨乃伊さんは
思ったようです。
少しすると落ち着いてきたようで、梨乃伊さんは
鞄から水筒を取り出して熱いお茶を飲みました。
優しいおばあちゃんが良く熱いお茶を飲んで、
落ち着いている姿と自分を梨乃伊さんは重ねているようでした。
梨乃伊さんはその日は会社を休むことにしたのです。
このままでは人を傷つけてしまうのではないかと
心配したのです。
梨乃伊さんはそのまま近くを歩きまわっていました。
その場所は通勤の際に乗り換えをするだけの駅だったので、
梨乃伊さんは土地勘がありませんでした。
歩いていると梨乃伊さんは色々な音を聞きます。
お母さんが子どもに怒っている声、
おじさんが駅員さんに無茶を言って怒っている声、
犬がよその犬に怒っている鳴き声など、
良く考えてみると怒っている声がたくさん
梨乃伊さんは聞こえてきているようでした。
すると、目の前から40歳代くらいの女性が歩いてきました。
その女性はとても表情豊かで、梨乃伊さんはなぜだか
その人のことをずっと見てしまったのです。
その女性は梨乃伊さんに話しかけました。
「なに、見てんのよ!」
梨乃伊さんはビクッとしました。
「す、すみません。表情があまりにも豊かだったものですから」
梨乃伊さんは正直に言いました。
どうやらその女性は少し怒っているようでした。
梨乃伊さんが謝るとその女性は平穏を取り戻し、
梨乃伊さんに言いました。
「映画のチケットが余っているからあなたにあげるわ」
その女性は映画のチケットを梨乃伊さんに
渡して、梨乃伊さんが返事をする前に
歩き始めました。
そして、映画館へ道案内してくれたのです。
梨乃伊さんは驚いたままでしたが、
そのままその女性についていきました。
映画館に着くとその女性は去っていったのです。
梨乃伊さんは映画のチケットを片手に、
いったい何が起きているのだろうと
不思議に思っていました。
しかし、せっかく会社も休んで色々と
あったので、気分転換も含めて
その映画を観てみることにしました。
梨乃伊さんは映画を観ています。
そして、梨乃伊さんが映画館から出てきます。
梨乃伊さんはその映画が面白かったと感じているようでした。
梨乃伊さんはどこが面白かったのかを
振りかえろうとします。
しかし、ある場面しか思いだすことができません。
それは、こんなシーンでした。
ある日本人女性、30歳代くらいのかわいらしい女性です。
その女性は美容院から帰ってきました。
そこには夫と義理の母親がいます。
女性は髪の毛を切ってきたと夫と義理の母親に
報告をしていました。
でも夫も義理の母親もその女性の髪形の変化がわかりませんでした。
そう、事実その髪の毛はなぜだか切られていなかったのです。
鏡を見るその女性、たしかに変わっていないと思い
みるみる頬が紅潮していきました。
その時、なぜだか梨乃伊さんはそれを見ながら
「なんて可愛い人なんだろう」と思っていました。
そして、その女性はプンプンと怒りながら
美容院に電話をかけています。
なぜ、髪の毛が切られていなかったのかは
映画を観てみないとわかりませんが、
その怒る女性がどうしても可愛く映り、
梨乃伊さんの脳裏にびっしりと記憶されているのです。
そして、梨乃伊さんもそれを振りかえると
何だかたまらなくおかしく感じています。
「怒るって意外と素敵なものなんだな」
そんな気持ちが梨乃伊さんの心に
種が植わっていくようでした。
梨乃伊さんは少しずつではありましたが、
心の中がグルグルとするようなことが起きたら
映画で観た女性をモデルにして
怒るということを実践するようになったのです。
時間はかかりましたが、次第に心の中のグルグルや狂気な自分が
姿を潜めていきました。
梨乃伊さんはぶつかってきた男性、
映画のチケットをくれた女性との出会いという
偶然に感謝しました。
【終わり】
皆さまいかがでしたでしょうか。
梨乃伊さんの怒りを封じ込めたエピソードを
聞いていると誰にも怒り得ることだと
感じました。
一つの感情を抑えつけると
どこかで何かが溜まって、
それがどんどんと大きくなっていくのですね。
爆発する前にそれに梨乃伊さんは気が付けたようです。
そうして怒りを取り戻して自分らしく生きられるように
なったかもしれません。
現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が
このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる
きっかけになったら嬉しく思っています。
世の中には親切な人は意外といます。
そんな願いを込めて書いています。
何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。
皆さまよろしくお願いいたします。