皆さま
先日はエアコンをつけずに眠ることができました。
八月に入ってからは初めてではないでしょうか。
いやあ、しかし眠れることって幸せなことですね。
では「道端で起きている幸せを綴る物語」の
第44作目を書いていきたいと思います。
「独りで生きていくと決めた幸三さんが道案内をしてもらった物語」
幸三さんは会社で働く30歳代の独身男性です。
幸三さんは昔むかしにに決めたことがありました。
それは「独りで生きていく」というものです。
幸三さんは会社に勤めていますし、
食品を買って食べています。
この時点で独りで生きているわけではありませんが、
幸三さんはそのことには気が付いていません。
なので仕事もできるだけ会話を必要としない
仕事を選びました。
それでも会話が必要な際は、
最低限のことだけ他の社員と話します。
幸三さんの上司も周りの社員たちも
幸三さんがコミュニケーションを取らないことを
諦めていました。
何を話しかけてもダメだったのです。
それほど幸三さんの意志は強固なものでした。
そんな幸三さんに変化が現れるようになります。
ある時を境に幸三さんにある現象が起きるようになったのです。
それは、眠っていて夢を見ているのですが、
その夢の中で幸三さんは独りぼっちで
川の流れを見ています。
小さな呟くような声で
「寂しいよ~」
「寂しいよ~」
と言っているのです。
夢の中で幸三さんはその声を聞いています。
すると、変だなあと思いながら幸三さんは目を覚ましますが
また気のせいだと思い直して眠りにつきます。
しかし、その「寂しいよ~」の声は
日に日に大きくなっていくのでした。
ついには幸三さんは眠れなくなってきたのです。
大きな声で「寂しいよ~」と聞こえてきて、
うなされたように目が覚める幸三さんは
「寂しくない!」と言って身体を起こしました。
その表情は大量の汗をかき、
いかにも苦しく寂しそうに見えています。
それでも心と体に鞭を打って、幸三さんは会社へ出かけていきます。
幸三さんは独りで仕事を続けています。
誰とも話しはしません。
しかし、きちんと眠れていないので
幸三さんの心と体は限界を迎えようとしていました。
この日、幸三さんはとてもしんどくなり
定時までは仕事をこなしましたが、
「1週間休ませてください」とだけ
上司に伝えて休暇を取ることにしたのです。
独り、部屋で過ごしていますが
一向に夢の中での「寂しいよ~」の声は
止みませんでした。
幸三さんにとっては眠るのも恐怖を感じるように
なっていたのです。
そして、昼間に気分転換をしなくてはと思い
散歩へ出かけました。
「寂しいよ~」の声を振り払うかのように
幸三さんはひたすら真っ直ぐ歩き続けました。
すると、ある曲がり角で走ってきた少年と
幸三さんはぶつかってしまいました。
「ごめんね」幸三さんは咄嗟に謝りました。
少年は怪我もなく、立ちあがります。
その少年は野球帽をかぶっていて、
とても活発そうです。
野球をやっていた幸三さんは、
何だか小さい頃の自分を見ているようだなあと
その少年を見ています。
「これから野球しにいくの?」
幸三さんは思わず少年にそう聞きます。
「そうだよ。おじさんも見に来る?」
少年は幸三さんを誘ってくれたのです。
幸三さんはその少年に道を案内してもらうことにしました。
しばらく行くと大きな河原に着きます。
「あれ、まだみんな来てないや」
少年は残念そうにそう言いました。
どうやら野球仲間が誰も来ていないようでした。
少年と幸三さんは川の見えるところに座ります。
少年はピッチャーのようにして川に石を投げています。
幸三さんは川の流れをひたすらに見ています。
すると、これが夢の中で見た自分と重なることに気が付きました。
「寂しいよ~」
「寂しいよ~」
頭の中にその声が聞こえ始めました。
頭を振って、その声を振り払おうとしましたが
その声は消えることはありません。
幸三さんが声を聞きながら川の流れを見ていると、
川の水面にぼんやりと映像が浮かんできたのです。
それは、幸三さんが少年時代のものでした。
野球帽をかぶり、みんなと野球をしていたのですが
その試合は幸三さんのミスをきっかけに負けてしまいました。
みんなは幸三さんを責めたのです。
幸三さんはそれでも謝りませんでした。
そのことをきっかけに幸三さんは仲間外れにされていきます。
そして野球チームを辞めて、大好きな野球もやらなくなりました。
遠くから野球をする人たちを見ている寂しそうな幸三さんの姿もあります。
この時に幸三さんは「独りで生きていく」と決めたようです。
その一連の出来事が川の水面に映しだされて流れていきました。
その映像を見ている幸三さんの目には涙が溢れてきます。
「本当は寂しかったんだな・・・」
幸三さんにそんな言葉で想いと一緒に湧きあがってきました。
それと同時に、みんなで野球をするのも楽しくてたまらなかったのだと
幸三さんは思い出しました。
幸三さんは独りで生きてきたつもりでしたが、
それでも沢山の人が関わってくれていたことに
気が付き、感謝が湧いてきました。
「これからは独りではなく、みんなと楽しく生きていこう」
幸三さんはそう決め直しました。
幸三さんがなんだか落ち着いた気持ちを取り戻し始めました。
こんな感覚は久しぶりです。
隣にいた野球少年はいつの間にか仲間たちと
遠くで野球を始めていました。
その姿はまるで自分が「独りで生きていく」と
決める前の幸三さんの姿と同じようでした。
幸三さんは河原へ道案内してくら野球少年との
出会いという偶然に感謝しました。
【終わり】
皆さまいかがでしたでしょうか。
「独りで生きていく」と決めた幸三さんでしたが、
実際はそんな風に生きることはできませんでした。
本当は寂しかったという本音から、
幸三さんは大きな生き方を変えることができたようです。
現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が
このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる
きっかけになったら嬉しく思っています。
世の中には親切な人は意外といます。
そんな願いを込めて書いています。
何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。
皆さまよろしくお願いいたします。