皆さま

 

もうお盆も終わりますね。

 

そろそろ私もお墓参りに行こうかと

 

思っています。

 

では「道端で起きている幸せを綴る物語」の

第33作目を書いていきたいと思います。

 

「家から出られない佳世さんが道案内をしてもらった物語」

 

佳世さんは30歳代の女性です。

 

大学卒業後に入社した会社での

 

人間関係のトラブルから家から出られなくなりました。

 

10年以上実家にいて、ほとんど外には出ていません。

 

60歳代の両親が佳世さんのお世話をしています。

 

佳世さんの一日というと朝には起きますが、

 

朝ごはんを食べて、テレビを見て、インターネットをして

 

お昼ごはんを食べて、昼寝をして・・・そうして

 

一日が終わっていきます。

 

佳世さんは心の底ではこの生活をなんとかしたい、

 

お父さんお母さんにこれ以上負担をかけたくないと

 

思っていました。

 

でも、なかなか外に出ようと思えません。怖いのです。

 

そんな佳世さんでしたが一つだけ楽しみがありました。

 

佳世さんは学生時代からずっとラーメンが好きでした。

 

特にラーメンに乗っているメンマが大好きなのです。

 

たまに佳世さんはお母さんにお願いして

 

ラーメンを作ってもらいメンマを乗せて食べるのを

 

楽しみにしています。

 

佳世さんはその際、お母さんには言っていませんが

 

誰もいない時に部屋から出て家の中の掃除をしているのです。

 

それだけが、佳世さんの心の支えになっていました。

 

家族の役に立って、メンマの乗ったラーメンを食べる。

 

それだけでした。

 

ある時、佳世さんはお母さんから

 

「お父さんの定年退職のお祝いで海外旅行に

 

行こうと思っているけど、あなたも行く?」

 

と旅行に誘われました。

 

佳世さんは家からも出られない状態ですので、

 

頭で考えてどうしたって無理だと決めつけて

 

「行かない」とだけ答えました。

 

お父さんとお母さんは旅行へ出かけていきました。

 

どうやら二週間ほど家を開けるようです。

 

佳世さんが二週間独りになるというのは

 

家から出られなくなって初めてです。

 

佳世さんは不安になりました。

 

「でも、きっと優しいお母さんは食べ物を

 

用意してくれていて、毎日電話もくれる

 

だろうなあ」と軽く考えました。

 

一日目は佳世さんは部屋からほとんど出ず

 

何も食べずに過ごしました。

 

お母さんからは電話など来ませんでした。

 

二日目になると佳世さんはお腹が空いて

 

たまらなくなり、リビングの冷蔵庫を開けたのです。

 

すると佳世さんは驚きました。

 

冷蔵庫にはなんにも入っていないのです。

 

「私を殺す気なの!」と佳世さんはいらだちました。

 

しかし、良く見ると冷蔵庫の中に封筒が入っています。

 

封筒を手にとって中を見てみると、お金が入っていました。

 

それとお母さんからの手紙が入っています。

 

「このお金でご飯を買って過ごしてね」とだけ書いてありました。

 

佳世さんはいらだちからパニック状態に陥りました。

 

お母さんに電話をして文句を言おうかと思い、

 

携帯電話を手にしましたが佳世さんは思いとどまります。

 

「ずっと働いてきたお父さんの退職祝いの旅行に

 

嫌な思いはさせたくない・・・」

 

佳世さんは出前でも取ろうかと思いましたが、

 

気が進みませんでした。

 

二日目もお茶や水だけ飲んで過ごしたのです。

 

三日目になって、佳世さんは空腹状態でテレビを

 

見ていました。

 

すると、画面にはおいしそうなラーメンが

 

映っています。

 

佳世さんが好きなメンマも乗っています。

 

それは佳世さんにとって理想的なメンマでした。

 

どうしてもそのラーメンのメンマが食べたくなりました。

 

お店の情報を見てみると自宅からそんなに遠くはありません。

 

空腹という極限状態を迎えた佳世さんに残された選択肢は

 

家から出て、このラーメン屋さんに行き、メンマの乗ったラーメンを

 

注文して、食べるしかありませんでした。

 

そう、佳世さんはラーメン、いやメンマを食べることに決めたのです。

 

佳世さんは久々に外出用の洋服に着替えました。

 

お化粧など何年ぶりでしょうか

 

そして、久しぶりに鏡の前に立ちます。

 

佳世さんはなんだか懐かしい気持ちになりました。

 

いよいよ、佳世さんは十数年ぶりに外に出ました。

 

道を歩くのも他人とすれ違うこと、駅に行くこと、

 

電車に乗ること、全てが十数年ぶりでした。

 

佳世さんはその感動を味わう余裕などありません。

 

佳世さんの頭にはあのメンマという目的地しかありませんでした。

 

それが、良かったのかもしれません。

 

余計なことを考えずに佳世さんは目的地に向かっているのです。

 

佳世さんは最寄り駅に着きましたが、そこで店の場所がわからないことに

 

気が付きます。

 

携帯電話だって持ってきていません。

 

メンマという目的地に着けないということを感じ、

 

佳世さんは絶望しています。

 

十数年ぶりに外出した佳世さんにとって

 

目的地がわからなくなるということは

 

重大な問題となりました。

 

人に聞くなど高すぎるハードルだと感じながら

 

佳世さんは歩きまわります。

 

すると、路地に入ると女性4人くらいのグループが

 

佳世さんに向かって歩いてきます。

 

その中の一人が「メンマおいしかった」と言ったのです。

 

佳世さんはその言葉に反応します。

 

もう身体を抑えつけることはできません。

 

「メンマのお店どこにありますか?」

 

佳世さんはまさか、十数年ぶりに他人と話しました。

 

しかも、自分から話しかけたのです。

 

話しかけられて女性は少し驚いていましたが、

 

「メンマのお店がどうかわからないけど、私たちが

 

食べたラーメン屋さんは・・・」と言って

 

場所を教えてくれました。

 

佳世さんはきちんとお礼を言って、その後お店に

 

たどり着くことができました。

 

そのラーメン屋さんで佳世さんが食べたかった

 

ラーメン、メンマを食べることができました。

 

佳世さんはこの人生で一番の達成感のような

 

ものを感じています。

 

食べた後は笑顔で自宅に帰りました。

 

その夜、佳世さんは定年まで働いてくれて旅行に行ったお父さん、

 

冷蔵庫を空っぽにしてくれたお母さん、

 

「メンマ」と言っていてラーメン屋さんを教えてくれた女性との出会い、

 

様々な偶然に感謝しました。

 

その後、佳世さんは徐々にではありますが

 

色々なラーメン、メンマを食べに出かけられるように

 

なったのです。

 

佳世さんはもちろんのこと、

 

お父さんお母さんもそれについて

 

喜んでいました。

 

【終わり】

 

皆さまいかがでしたでしょうか。

 

佳世さんは家から出られませんでした。

 

空腹という極限状態、メンマという大好物といった

 

色々な状況が重なって外出することができました。

 

外出しても親切な人が目的地まで手助けしてくれます。

 

徐々にではありますが、佳世さんは外出できるように

 

なったようです。

 

現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が

このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる

きっかけになったら嬉しく思っています。

世の中には親切な人は意外といます。

そんな願いを込めて書いています。

 

何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。

 

皆さまよろしくお願いいたします。