皆さま

 

お盆の時期もそろそろ終盤ですね。

 

だんだんと街中の人々も増えてきそうです。

 

1年に1度のこの時期は不思議と

 

何かに想いを馳せるという感覚に陥ることが

 

良くあります。

 

では「道端で起きている幸せを綴る物語」の

第32作目を書いていきたいと思います。

 

「人前で返事ができない涼香さんが道案内をしてもらった物語」

 

涼香さんは小学校6年生の女性です。

 

涼香さんはもう少しで卒業式を迎えます。

 

しかし、涼香さんには悩みがありました。

 

涼香さんは人前に出てお話しをすることができません。

 

学校の授業でも手を上げることはもちろんのこと、

 

先生にあてられても何も答えられないのです。

 

それは学校の先生たちは理解しているので、

 

涼香さんをあてることはありません。

 

しかし、涼香さんの通う小学校では

 

卒業式に1人1人の名前が呼ばれて、返事をして

 

卒業証書を受け取るという決まりがあるのです。

 

涼香さんはみんなの前で返事ができないので、

 

卒業式が憂鬱でたまりませんでした。

 

でも、小学校最後の日です。

 

涼香さんもこれから中学生になります。

 

大人になっていくのに人前で話せないなんて、

 

なんて生きにくいのだろうと感じています。

 

そこで涼香さんは自分の部屋で返事をする

 

練習をしてみました。

 

涼香さんの他には誰もいないので、もちろんうまくいきます。

 

次にぬいぐるみなどを目の前に並べて返事をする

 

練習をしてみても、やはりうまくいきました。

 

でも、卒業式の時を想像すると途端に喉がつまる

 

感じがして返事ができそうにありません。

 

涼香さんは落ち込んでいました。

 

お母さんに相談してみても

 

「無理して返事しなくていいじゃない」と

 

軽く言われてしまいました。

 

確かにそうだと涼香さんは思いましたが、

 

小学校を卒業するのと同時に

 

人前で話せない自分からも卒業したいと

 

心の奥では強く思っていたのです。

 

涼香さんはそこで自分の部屋から出て

 

外で練習してみようと思いました。

 

これは涼香さんにとっては大きな一歩でした。

 

どこへ行くと決めたわけでもありませんでしたが、

 

涼香さんは歩き始めたのです。

 

すると少ししたら前の方に大きな楽器のようなものを

 

担いだ20歳代くらいの髪の長い女性が

 

歩いてることに涼香さんは気が付きます。

 

涼香さんは楽器を持っている女性がいったいどこへ行くのか

 

興味があり、少し離れながらついていきました。

 

すると段々と一本道に入っていきます。

 

涼香さんはそろそろ帰った方がいいかなあと

 

心配になってきました。

 

突然、楽器を持った髪の長い女性が

 

涼香さんの方を振り向きました。

 

「私に何か用?」

 

涼香さんは驚きましたが、回りには自分しかいなかったので、

 

涼香さん自身が答えるしかありません。

 

涼香さんは首を振りました。

 

「楽器・・・」涼香さんは小さな声で呟いたのです。

 

髪の長い女性は涼香さんに近づいて

 

「これに興味があったの?」と言いながら

 

大きな楽器を涼香さんに見せました。

 

涼香さんはなぜだか、その楽器が何かは

 

わかりませんでしたが、とても光って見えて

 

思わず笑顔になったのです。

 

それを見ていた髪の長い女性は

 

「楽器を使うところを見せてあげようか?」と

 

涼香さんに言いました。

 

涼香さんは知らない人についていってはいけないと

 

わかってはいましたが、どうしても大きな楽器が

 

音を出すところが見たくて仕方ありませんでした。

 

涼香さんはその髪の長い女性に

 

「音を出すにはとっておきの場所をあなたに教えてあげるわ」と

 

言われて、道を案内してもらいました。

 

たどり着くとそこは大きな川が流れる河原でした。

 

河原に着くと髪の長い女性は、早速楽器を準備します。

 

「ここへ来てこの楽器の練習をするの。いい場所でしょう?」

 

涼香さんはうなずきます。

 

髪の長い女性は慣れた仕草で楽器を持ち

 

口元に持っていきました。

 

どうやら吹く楽器のようです。

 

大きな楽器からはとても繊細で

 

柔らかな音色出てきました。

 

涼香さんは思わず目を閉じて

 

聞き入ってしまいます。

 

目を開けて髪の長い女性の表情を見てみると

 

躍動感があり、とても活き活きとしていました。

 

一つの曲の演奏が終わり、髪の長い女性は

 

楽器を置きます。

 

涼香さんはボーっとして見とれています。

 

「どうだった?」

 

「す、すごかったです」と涼香さんは珍しく興奮気味に答えました。

 

「それはよかった。ここなら大きな音を出しても誰にも迷惑にならないのよ」

 

涼香さんは髪の長い女性のその言葉を聞いて本来の目的を思い出しました。

 

涼香さんは人前で返事をできるようになるために練習しにきたのです。

 

涼香さんは髪の長い女性に音楽を通じてなぜだか

 

心を開いているようでした。

 

涼香さんは思い切って自分の悩みを髪の長い女性に話してみました。

 

返ってきた答えは意外なものでした。

 

「実は私は人が怖くて、楽器に夢中になったの。

 

それで気が付いたらそれが自信になったのか

 

人が怖かったのが、なぜだか人が好きになったのよ」

 

涼香さんは驚きました。

 

「私がこの楽器で音を出してあげるから、

 

その間にあなたは返事をする練習をしてみたら

 

そうしたら誰にもきっと聞こえないわよ」

 

「やってみます。お願いします」と涼香さんは答えました。

 

髪の長い女性は大きな楽器で大きな音を出し続けてくれました。

 

涼香さんは回りをキョロキョロと見回してから

 

大きく息を吸い込みます。

 

「はい!」涼香さんは生まれてから一番大きな声が出ました。

 

それでも髪の長い女性は音を出し続けます。

 

「はい!」「はい!」「はい!」「はい!」

 

涼香さんは一心不乱に返事をし続けました。

 

気が付くと楽器の音は鳴りやんでいます。

 

涼香さんが返事をやめると、

 

髪の長い女性は笑いながら涼香さんを見てくれています。

 

「あなた、できるじゃない」

 

涼香さんは恥ずかしくなりましたが、

 

大きな声で答えます。

 

「はい!」

 

髪の長い女性は涼香さんに向けて拍手をしてくれました。

 

涼香さんは小学校の卒業式が

 

とても楽しみになったのです。

 

それは卒業をしたら中学校に行って

 

楽器をやろうと思ったからです。

 

涼香さんは大きな楽器を持った

 

髪の長い女性との出会いという

 

偶然に感謝しました。

 

【終わり】

 

皆さまいかがでしたでしょうか。

 

涼香さんは不思議な出会いから

 

人前で返事ができるようになりました。

 

そうして、音楽という新しい楽しみを

 

見つけて活き活きと生き始めたかもしれません。

 

意外と道端には良い人もいますし、幸せを

見つけることができるものなんですね。

 

現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が

このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる

きっかけになったら嬉しく思っています。

世の中には親切な人は意外といます。

そんな願いを込めて書いています。

 

何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。

 

皆さまよろしくお願いいたします。