皆さま
もうすぐお盆がやってきますね。
この時期特有の街中に漂う
静かな雰囲気がなんだか好きです。
それと同時に台風も来ているので
注意が必要となるかもしれません。
では「道端で起きている幸せを綴る物語」の
第24作目を書いていきたいと思います。
「お墓参りに来た彩乃さんが道案内をしてもらった物語」
彩乃さんは20歳代のいわゆる今時の女性です。
彩乃さんは両親を学生時代に亡くしており、
兄弟もいないため孤独を抱えて生きてきました。
そんな寂しさを感じさせないように周りには
振舞ってきた彩乃さん。
ある時、会社で同僚が話しているのを
彩乃さんはそっと聞いていました。
「友達が占い師に両親を大事にしなさいって言われて
実際にやるようにしたら結婚が決まったんだって」
彩乃さんはそれを平静を装って聞いています。
「でも、自分にはお父さんもお母さんもいないんだなあ」と
心の中で呟きました。
彩乃さんは久しぶりに寂しい気持ちがこみ上げてきます。
家に帰ったその日の夜、彩乃さんは両親のことを考えていました。
彩乃さんはずっと両親のことを考えないようにしていました。
それは悲しいのもあるし、死んでしまった人のことを考えても仕方がないと
思いこもうとしていたのです。
自分にできることは「立派に生きることだ」と弱さを見せずに
彩乃さんは突っ走って生きてきました。そんなこともあり
彩乃さんは両親のお墓にも納骨以来一度も行っていません。
両親のことを少し考えたことで、彩乃さんにも心境の変化があったようです。
「今度のお盆に両親のお墓参りに行こう」と決めたのです。
彩乃さんが電車を乗り継いでたどり着いたのは、
とても広い霊園でした。
彩乃さんは記憶を頼りに炎天下の霊園内を歩き回ります。
しかし、彩乃さんはお墓をみつけることができませんでした。
「また今度来ようかな」と諦めかけた時でした。
目の前から優しそうな夫婦が歩いてきます。
彩乃さんはきっと両親が生きていたら同じくらいの
年齢だろうなあと思いました。
その夫婦は明らかに彩乃さんに視線を送っているように
感じました。
その距離がどんどんと近づいてきて、
彩乃さんにその夫婦は声をかけます。
「こんにちは。お墓参りですか?暑いですねぇ」
奥さんの声はとても優しいのです。
彩乃さんは優しかったお母さんを思い出しました。
「こんにちは。両親のお墓参りに来たんです。
でも、久しぶり過ぎて迷っちゃって・・・」
すると、旦那さんの方が霊園の地図を見せてくれます。
「何か覚えていることはありますか?」
旦那さんの声もまた優しく感じました。
「大きな木が生えていたのを覚えています」
「あー、じゃあうちの区画と同じかもしれないね」
旦那さんは地図を彩乃さんに見せながら説明してくれます。
「もしかして・・・」と奥さんは旦那さんと話していました。
彩乃さんはお礼を言って、お墓を目指します。
教えてもらった通りに行くと、やはり彩乃さんの
記憶の通り大きな木があり、お父さんとお母さんの
お墓を見つけることができました。
彩乃さんはお墓に少し違和感を感じます。
近づいてみると、なぜだか綺麗に掃除してあり
お線香も火がついた状態になっていました。
夏というのに雑草も生えていません。
彩乃さんは誰かがやってくれたのか
考えてみましたが、そんな人は思い当たりません。
彩乃さんはピンと来ました。
「さっきのご夫婦・・・」
彩乃さんはお墓をほったらかしにしていたことを
少しだけ悔いました。
そうして恐らくは定期的に手入れをしてくれていた
ご夫婦に感謝の気持ちが湧きあがります。
「これからは沢山は来れないけど、たまにはお墓に来て
掃除してお参りをしよう」と彩乃さんなりにできることを
決意したようです。
その後、久しぶりにお父さんとお母さんを思い浮かべながら、
お墓参りをしました。
彩乃さんの目からは涙が流れています。
彩乃さんは涙を流すことが久しぶりだと感じました。
真夏の青空を見上げると、お父さんとお母さんが
笑ってこちらを見ているような気持ちに彩乃さんはなりました。
その体験を通じて彩乃さんはずっと独りで生きていたと
思っていましたが、独りで生きてきたわけではなかったのだと
腑に落ちるようになります。
それから徐々に会社や友人たちから彩乃さんは、
「何だか彩乃変わったわね」と言われるようになったのです。
「そうかなあ」と彩乃さんは相槌を打っていましたが、
両親を始め、周囲の人たちへの感謝が
彩乃さんの心の片隅にひっそりと住み始めていることを
彩乃さん自身、幸せに感じています。
彩乃さんは産んで育ててくれた両親、
お墓での夫婦との出会いという
偶然に感謝しました。
【終わり】
皆さまいかがでしたでしょうか。
彩乃さんはたまたまお墓参りという
形で独りで生きてきたのではないということを
感じることができたようです。
ずっと独りで生きていると思っている人から
すると大きな体験だったことは想像できるかと
思います。
意外と道端には良い人もいますし、幸せを
見つけることができるものなんですね。
現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が
このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる
きっかけになったら嬉しく思っています。
世の中には親切な人は意外といます。
そんな願いを込めて書いています。
何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。
皆さまよろしくお願いいたします。