皆さま
8月の上旬から中旬にかけて、
青空が広がり白い雲が存在感を出す、
この季節がなぜだか好きです。
では「道端で起きている幸せを綴る物語」の
第23作目を書いていきたいと思います。
「人混みが苦手な由希子さんが道案内をしてもらった物語」
由希子さんは20歳代後半の女性です。
由希子さんには人には言えない秘密がありました。
それは人混みに行くと心臓がバクバクと音を立てて、
キューっと脳が締め付けられるような閉塞感に襲われるのです。
それは人には説明しがたい苦痛でした。
由希子さんには付き合って半年の恋人がいました。
もちろん由希子さんは人混みが苦手なことを伝えていません。
由希子さんが希望して、会う時はいつもどちらかの家と決まっていました。
由希子さんの恋人は写真家をしています。
そして、東京の「原宿」で個展を行うことになったのです。
由希子さんの恋人はどうしても個展を見に来てほしいと
由希子さんにお願いしました。
実は恋人は由希子さんが人混みが苦手なことを
気が付いていたのです。
「個展に来てくれたら由希子は必ず幸せな気持ちになる」
由希子さんの恋人は力強くそう言いました。
由希子さんは恋人の写真が飾られている個展へ行くことを決めたのです。
由希子さんは「原宿駅」に降り立ちました。
ものすごい数の人に由希子さんは不安になります。
しかし、恋人の力強い言葉を思い返し個展会場に向かい始めました。
個展会場まであと半分くらいのところで、
スマホを見ながら歩く人と由希子さんはぶつかってしまいます。
由希子さんはそれをきっかけに心臓がバクバクと音を立て始め、
脳がキューっと締め付けられる閉塞感を感じました。
周りの人たち全てが敵のように思えます。
由希子さんは個展会場にどうやって行ったらいいのかも
わからなくなるくらいに思考は働かなくなっています。
由希子さんがもう立っていられないと、下を向いて座りこもうとすると
20歳代くらいの女性が由希子さんに駆け寄ってきます。
「大丈夫ですか?」その女性は由希子さんに優しく問いかけます。
「あ、いえ、大丈夫です」恥ずかしさのあまり由希子さんはその場を
立ち去りたい思いに駆られます。
「何かお困りですか?」女性は表情を変えることなく優しく問いかけました。
由希子さんは首を振ります。
女性は由希子さんが手に持っているパンフレットに気が付き、
「ここへ行くのですね?」と由希子さんに問いかけます。
由希子さんは女性の目を見てうなずきました。
女性は由希子さんを補助しながら一緒に個展会場まで
連れて行ってくれたのです。
女性にお礼を言って由希子さんは無事に個展会場にたどり着きます。
大きく深呼吸をして個展会場に入ると、
恋人が笑顔で出迎えてくれました。
「よくがんばったね。今日は楽しんでいってね」
由希子さんは私は何をがんばったのだろうと疑問に思いましたが、
黙っていました。
由希子さんは個展会場の写真を1つずつ見て回ります。
すると、少し先に人だかりができています。
由希子さんがそこを覗いてみると、
なんとそこは由希子さんの姿が映る写真ばかりが
展示されているちょっとしたコーナーになっていたのです。
そこには笑顔の由希子さん、しかめっ面の由希子さん、
涙ぐむ由希子さん、怒る由希子さんといつの間に撮ったのだろうと
由希子さんが不思議に思うほど沢山の表情を
浮かべる由希子さんの姿がそこにはありました。
それをお客さんたちが食い入るように見ています。
由希子さんは自分が見られていることに
不思議な感情を持ちましたが、
何よりも嬉しく、そして
自分にはこんなに沢山の感情があるのだと
気が付いたのです。
由希子さんはずーっと笑顔でいなくてはいけないと
思いこんでいたのです。
でも、大切な恋人の前ではこんなにも感情を出していたことに
気が付きました。
そうして、感情を出すことは自然なことなのだと
感じます。
由希子さんは自分の中に脳天から
スーッと光の棒のようなものが入っていく感覚に
なりました。
「自然なまんまの自分で生きていいんだ」と腑に落ちました。
その様子を由希子さんの恋人は少し離れたところから
見ているようです。
由希子さんは恋人に対して、恋人が個展に誘ってくれたこと
道中出会えた女性、全ての偶然に感謝がこみ上げてきました。
【終わり】
皆さまいかがでしたでしょうか。
由希子さんは人混みが苦手という状態でしたが、
恋人の個展へ勇気を出して行くと決めたことから
色々な偶然が起きました。
そうして、自分の様々な感情を許すことができたのです。
意外と道端には良い人もいますし、幸せを
見つけることができるものなんですね。
現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が
このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる
きっかけになったら嬉しく思っています。
世の中には親切な人は意外といます。
そんな願いを込めて書いています。
何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。
皆さまよろしくお願いいたします。