皆さま
都内は梅雨空が続いて、なかなかすっきりしない日が続いていますね。
日課にしている街の散歩も少しサボり気味です・・・
では「道端で起きている幸せを綴る物語」の
第1作目を書いていきたいと思います。
「目の不自由な明さんが道案内してもらった物語」
60歳近くになり目が不自由になったが、わたくし明はこの日初めて
勇気を出して人で溢れかえる新宿の喫茶店へ1人で行くことに決めた。
なんとか地下鉄の「新宿三丁目駅」にたどり着くことができ、地上に上がった。
そこは人々の声や足音、はたまた車が走る音などで私の脳内は音で支配されていた。
白杖を握る右手にも自然と力が入ってしまう。
ここから私の目指す喫茶店へはどのように行ったらいいか見当もつかなくなり、
私は不安な気持ちが膨らみ始めていた。やっぱり来るんじゃなかったと。
呆然と立ち尽くした私の前を多くの人が通り過ぎるのを風や足音などで感じていた。
私は「助けてほしい」と本音では思っていたが、口に出せずにいた。
そんなことを言って、相手にされなかったら、酷い目に合ったらと後ろ向きな妄想が私を包み込んだ。
でも、そんな風に思考が優先して動けなくなったら逆に動いてみることが効果的だという言葉をふと思い出した。
それでとにかく動いてみようと思い、意を決して歩き始めてみると持っていた白杖が何かに当たった。
それは紛れもなく物ではなく人の感触だった。
咄嗟に私は「すみません」と誤った。相手の人は声からすると30代くらいの男性だった。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
なぜだかわからないが、この人は私を助けてくれる人だと脳内に直感が走った。
男性の表情はわかるはずもないのだが、男性が笑みを浮かべているような気がした。
「実はこの喫茶店に行きたいんですが、私は目が悪くてどうやって行ったらいいかわからなくなってしまいました」
するとそれを言っただけで周囲が少し暖かく明るくなった気がした。
今まで聞こえていた足音や人々の声が小さくなっているようだった。
私の顔の下あたりに暖かみを感じ、その男性は私が出したパンフレットを覗き込むように見ているのだと気が付いた。
「ちょっと待ってくださいね」
男性の気配が少し遠くなった感じがしたが、男性が離れていったわけではなかった。
どうやら、その呟くような声から携帯電話で探してくれているとわかった。
「ちょっとわかりにくい場所にありますね」男性は少し心配そうに私に声をかけた。
「方向だけでも教えてくれたら・・・」と言ったら男性は
「説明するのも難しいですから、お店までご一緒しますよ」
「え!そんなお忙しいでしょうから」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
すると男性は慣れた手つきで、私の手を自分の肩に手を置くように促してくれた。
「スーツですね?お仕事中でしたか?」心配そうに私は聞いた。
「まあ、そんなところですがちょうど次の予定まで時間がありますから」
「しかも慣れていらっしゃる」
「実は目の不自由な方を支援するボランティアを少し経験したことがあるんです」
「そうでしたか!」私は自分がさっき動き出したことが生んだ偶然に感謝した。
曲がり角にさしかかる前に男性は
「あと5・6歩進んだら左へ曲がります」
そう、声を掛けてくれた。喫茶店までは5分ほどでたどり着いた。
それまでの時間、男性との会話も楽しむことができた。
喫茶店の前に着くと男性は、
「では、こちらで失礼します」とスマートに去っていった。
「本当にありがとうございました」と言って私は深々とおじぎをした。
この日私は、一日中いい気分で過ごすことができた。
目は不自由になり不自由な思いを多く体験してきたけど
このような親切な人がいることを知れたし、世の中には助けてくれる人もいると実感できた。
それは何より自分で行動を始めたことで知ることができた。
私はこの夜、助けてくれた男性と自分自身の行動に感謝をした。
【終わり】
皆さまいかがでしたでしょうか。
明さんの恐怖心や不安感は想像するしかありませんが、
本当に大きなものだったのではないかと思います。
それでも喫茶店に行こうとして、行動することで
親切な男性に出会うことができました。
意外と道端には良い人もいますし、幸せを
見つけることができるものなんですね。
現在、不自由や不安を感じる人生を送っている人が
このブログを読んで少しでも新たな一歩を踏み出してくれる
きっかけになったら嬉しく思っています。
そんな願いを込めて書いています。
何か生きる上でのヒントになりましたら幸いです。
皆さまよろしくお願いいたします。