先日、ある中小企業の社長から一本の電話をいただきました。

「助けてほしい」――切羽詰まった声でした。

「事業再生」という言葉すら出てこないほど、追い詰められていたのだと思います。


決算書を3期分拝見したところ、人件費が異常に高く、それに次いで外注費もかさんでおり、営業利益の段階で既に赤字。キャッシュフローもマイナスで、銀行からの追加融資も断られている状態でした。


売価の見直しをしても、効果が出るのは先の話。まずは“今”を乗り切る資金繰りが急務でした。

さらに驚いたのは、この危機的な状況が従業員にまったく共有されていなかったことです。


私は社長にこう提案しました。

「人件費を一時的に削減してキャッシュを確保し、その分を決算期に還元する形にすれば、社員の信頼も保てる可能性があります」と。


しかし、給与減額の話を従業員に伝えたところ、「辞める」と言い出す人が複数出てきました。社長はその反応に怖気づき、結果として人件費は削減できず…。

私は「そんな反応をする社員は、実際は辞めません。引き止める必要はありませんよ」と伝えましたが、社長は決断できませんでした。


最終的には、私が創業者借入の返済免除を金融機関と交渉し、どうにかキャッシュをプラスに転じさせることができました。けれど、正直言って、経営者としては情けないと感じました。


「従業員が辞めたら自分ひとりでやる覚悟がないなら、社長は務まりません」


この言葉を、心から伝えたい場面でした。


さらに驚いたのは、65歳以上で緩いシフト勤務の熟練工が、若手と同じ水準の給与をもらっていたこと。しかも、給与削減に最も強く反対したのがこの人だったのです。


工場長に確認すると「この人がいないと現場が回らない」とのこと。しかし、その担当工程は、実は若手でもすぐに覚えられる内容でした。それを指摘すると、工場長は黙り込んでしまいました。


“従業員を守る”という言葉を履き違えている経営者は、本当に多いと感じます。


会社を守ることは、結果的に従業員を守ることにつながる――

その本質を見失ってはいけません。


本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。