企業を支援する中で、よく悩みとして挙げられるのが、熟練工からの技術継承の課題です。熟練工の技術が高度すぎて若手が引き継げず、結果としてその工程を熟練工が担当し続ける企業が多く見られます。日本伝統工芸品の技術などは一朝一夕では身につかない場合もありますが、それがすべてに当てはまるわけではありません。とはいえ、工業製品の製造において、職人の特殊スキルが本当に技術継承の対象になるべきものなのでしょうか?もしかすると、新しい技法で対応可能だったにもかかわらず、分析不足や属人的な運用に甘んじてきた結果、熟練工も若手に教えず、技術継承が進まない状況に陥っているのではないでしょうか。
ある印刷業の企業を支援した際のことです。ラミネート加工において、熟練工の色の目利きや熱加減が製品の仕上がりを左右しており、そのため外注を余儀なくされているという悩みをいただきました。ラミネート加工は防水性と表面の輝きを向上させる技術で、写真集などに多く使用されています。しかし、肌の色調が加工に失敗するとピンクがかってしまい、例えば肌色の微妙な調整が難しく、その部分を熟練工に依存している状況でした。外注費が嵩み、利益率が低下している一方、案件を受注しても外注に頼るしかないというのが社長の主張でした。
このような時代において、ラミネート加工機がデジタル化されていないはずがないと考え、私はラミネート加工機メーカーの商社担当者に協力を依頼し、社長を交えて打ち合わせを行いました。
最新のデジタルラミネート加工機は以下の特長を持っていました。
① 色の度合いを数値で表現・再現できること
② 試し刷り可能で、外注によるサンプル確認(基本的に1回しかできないそうです)を必要とせず、自社内で確認が完結すること
③ 顧客の要望に応じたラミネート加工製品を実現できること
これらの特長により、多くの課題が解決できるとわかりました。
特に①については、過去の製品データを活用しながら試し刷りを重ねることで、熟練工の感覚を再現可能でした。最終的に社長はこのデジタルラミネート加工機を導入する決断をしました。
導入後、この企業の状況はどうなったでしょうか?現在では外注に頼ることなく、自社でラミネート加工を完結できるようになりました。また、熟練工の技術を数値化して再現したことで、社内のジョブローテーションを積極的に実施し、多能工化を進めました。その結果、誰でも対応できる体制が整い、外注時代よりも顧客ニーズに細かく応えることが可能になりました。これにより受注案件が大幅に増加し、短納期対応も実現、売上も拡大しているそうです。
この事例は一例ですが、熟練工の技術をデジタル化できないかを検討することは、技術継承や多能工化において必ず取り組むべき課題だと強く感じています。実際、この企業だけでなく、金属加工業やメッキ加工業などでも、デジタル機器の導入を提案することで熟練工による属人化を排除することに成功しています(詳細は別稿にてお伝えします)。
もちろん、熟練工のスキルや技術を大切にする姿勢を否定するものではありません。しかし、熟練工に依存する状況は可能な限り排除していくべきです。デジタル技術がこれほど進化している現代において、それは十分に実現可能です。ぜひデジタル化の推進による技術継承と多能工化の可能性を検討してみてください。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。またお会いしましょう。