私の本業は経営コンサルタントです。サラリーマン時代の知見を活かしつつ、行政での専門家を務めて累計200件以上の企業を事業計画作成、補助金申請、事業再生、人事労務などあらゆる面で支援してきました。行政での専門家経験のおかげで、弁護士、税理士、司法書士、行政書士、社労士、弁理士、FPなど様々な専門家とコラボする機会があり、そのおかげで多種多様な企業経営支援ができたと思います。

 

この経営支援の際に最も重要なのが企業トップである社長の意識です。いくら売上が上がらない、資金繰りが厳しいなどという相談に来られても社長の意識が低いままだと、支援のために助言しても行動に起こせなかったり、行動しても中途半端になってしまったりと行政サービスでのコンサルティングの限界も感じつつも、企業の社長の意識改革が最も重要との認識を深めていったことを今でも覚えております。

 

最近受けたセミナーで事業再生に関するものがあり、その中で先生(事業再生スペシャリストとして有名な方)がおっしゃっていた事例が印象に残りましたので、ご紹介します。ある企業の2代目社長のお話しです。創業者であるお父様の代では年商3億円を記録していた会社さんですが、外部環境の変化に対応できず、年商が3分の1に落ち込み、キャッシュフローがマイナスになってしまいました。借入金については法人で借りているものの個人保証がつけられており、倒産した場合社長が身ぐるみを剝がされる(実際はそこまで厳しくないそうですが)可能性があったそうです。その先生は危機的な状況に陥った段階で社長から今にも死にそうな声で何とか助けてくれませんかというお話を頂いたそうですが、財務諸表、その他の状況を見てもかなり難しかったそうです。ただ、ここで先生の人との縁がワークしました。ある事業再生機構(半官半民)のトップと社長から電話を受ける1週間前に知り合いになったそうで、こちらに電話して何とか助けてくださいと依頼したところ快諾していただき、金曜日の電話から月曜日には数名の専門家をその企業に派遣して実態を検証してもらったそうです。その際に売却できる資産とできない資産のすみわけ、そしてその日から債権者である銀行と調整して債務の帳消しを相談したところ、個人保証が付いた分は帳消しにできたそうです。これは事業再生機構のお力もさることながら、実は銀行の支店長が若いころにこの企業の創業者に大変お世話になったそうで、そのご恩を返すのは未だと思い全力でご支援いただいたいわゆるご縁があったそうです。

 

これで無事会社は破産せずに他社に事業譲渡をして社長はいま別事業をやられているそうですが、この話に至るまでの社長が弱気になった場面があるそうです。それは従業員を解雇して他の会社に紹介するにあたり、これを社長から全従業員に伝えなければならなかったときです。この企業を支援したセミナー講師の先生に、消え入る声で社長から電話があり、お世話になった従業員を解雇するなんてとても言えないと話されたそうです。普段温厚で有名なこのセミナー講師でも、その電話口で激昂したそうです。「社長、あなたは覚悟を持って経営をしていない!今回従業員を解雇するが、その代わりに他者を紹介して受け入れてくれる企業さんがある前提ですよね?このまま資金ショートで倒産したら、従業員とその家族は次の職の当てもなく放浪することになるんですよ。しっかり覚悟をもってことにあたってください、それが会社全員のためです」。まさに、経営される社長は従業員だけでなく、その家族を見据えた判断をするというその覚悟を以て、経営にあたらなければならないと私も思います。経営コンサルティングをやっていて、この意識があまり高くない社長たちがいらっしゃいます。その方に対してアドバイスしても響かず、コンサルだけが悪者になる、それは良いのですが、コンサルが悪者になっても組織が改善するということが大前提でこの視点なくして事業再生などの難しいプロジェクトの成功はないと私は考えます。良い社長が会社をつぶす!とは昔から良く言ったもので、良い社長とはつまり従業員にその場では都合が良いということでしょう。ですが、自分の人生や家族の人生、そして会社の将来などをしっかり考えた上での判断ができる社長こそ本当に優秀な社長なのだと思います。2,000字近くいってしまったのでこの辺で。