映画「お隣さんはヒトラー?」…コメディな感動作品. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:My Neighbor Adolf 製作年:2022年
製作国:イスラエル・ポーランド合作 上映時間:96分



気になるテーマのイスラエル作品.自殺したことになっているヒトラー.
その死体が見つかっていないことから、逃亡説が事欠かない.そんな
仮設を元にしたドラマ.本年度累積172本目をMovix柏の葉で観賞.
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アドルフ・ヒトラーの南米逃亡説をモチーフに、ホロコーストを生き延びた
老人の隣家にヒトラーそっくりな男が越してきたことから起こる騒動を
描いたドラマ.

1960年、南米コロンビア.ホロコーストで家族を失いながらも1人生き延びた
男ポルスキーは、町はずれの一軒家で穏やかな日々を過ごしていた.

そんな彼の隣家に、15年前に56歳で死んだはずのヒトラーに酷似した
ドイツ人ヘルツォークが引っ越してくる.ユダヤ人団体に隣人がヒトラーだ
と訴えるも信じてもらえず、自らの手で証拠をつかもうとするポルスキー
だったが、いつしか互いの家を行き来するようになり、チェスを指したり
肖像画を描いてもらったりと交流を深めていく.そんなある日、ポルスキー
はヘルツォークがヒトラーだと確信する場面を目撃する.

隣人をヒトラーと疑うポルスキーをテレビドラマ「ロンドン警視庁犯罪ファイル」
のデビッド・ヘイマン、ヒトラーだと疑われるヘルツォークを「スワンソング」
のウド・キアが演じ、これが長編第2作となるレオン・プルドフスキー監督が
メガホンをとった.

以上は《映画.COM》から転載.
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プロローグは1930年代の東欧、幸せそうなユダヤ人一家の様子.
一家はそろって写真を撮るが、ひとりだけセルフタイマーのタイミングが
ずれて写らなかった男.続いて1960年南米、というクレジットが出る.
ひとり暮らしの老人はプロローグでひとりだけ写真に写らなかった男だ.

1930年代の東欧に家族と一緒に暮らしていたユダヤ人の男が1960年には
南米でひとり暮らしをしている.男の身の上に何があったかは描かれないが、
観客は知識としてその様を知っているはず….
 
主人公は、ホロコーストで家族を失い、ただひとり生き延びたポーランド系
ユダヤ人のポルスキー:デビッド・ヘイマン.故国を離れて南米コロンビアへ
渡り、町外れの一軒家で暮らしていたが、1960年のある日を境に、彼の
穏やかな生活は一変する.

自分から全てを奪った、あの憎きヒトラーにめちゃくちゃ似たドイツ人の男
ヘルツォーク:ウド・キアが、隣に引っ越してきたのだ.
「お隣さんはヒトラーなのか?」という疑念で、夜も眠れなくなるポルスキー.

彼は1945年のヒトラ自殺…というロシアの情報をはなから信用していない.
事実彼の遺体は見つかっていない.ナチスの高官が南米で潜伏しているのは
1960年にアイヒマンがブエノスアイレスで拘束、逮捕されたように明らかな
事実として存在する.
 

 

ひょんなことから挨拶に行くと…青い瞳が、ヒトラーそっくり あまりにも似て
いたので思わず二度見.ポルスキーは1935年のチェス国際大会で、
ヒトラーとすれ違っていて、実際にその瞳を克明に覚えていたのだ.

彼はその真偽を確かめようと、行動を開始する.
怖すぎるので大使館に相談するも、「ヒトラーは1945年に自殺した」と
取り合ってもらえない….こうなったら、自分で証拠を掴むしかない.
 

 

ポルスキーは書店でヒトラー関連本を買いまくり、特徴を覚え、
2階の窓からカメラで監視を始める. 推定年齢・身長・癇癪持ち・犬好き・
喫煙者嫌い…共通点がザクザク出てくる.余暇は絵を描いて過ごす隣人、
しかもヒトラーと同じ左利き.何か画風も似てる…疑惑が確信に近づいていく.

証拠探しのために、やむなく交流するうちに、チェス仲間になってしまう.
飲酒はしないはずなのに、チェス中にやたら飲酒する.ポルスキーの素敵な
肖像画も書いてくれた… やっぱりヒトラーじゃないのかなと疑惑が薄らぐ.
 

 

病的なほどとにかく疑う男ポルスキー対何やら怪しい動きを連発する男
ヘルツォークの駆け引きが中盤までの最大の魅力的なポイント.
対峙するのが、どちらもかなり偏屈で頑固な老人同士というのも面白さを
加速させる.些細なことを口汚く罵り合う極小スケールのご近所トラブル感に、
なぜか笑いがこみ上げてくる.

そして後半は意外な展開を迎えていく.“出会ったら最後”みたいなふたりが、
少しずつ友情を育んでいくという、完全に想定外の方向へ進み出す.
負けず嫌いのふたりは、チェスの対局を重ねながら、仲良くなっていく.

ヘルツォークが描いたポルスキー自身の肖像画を見ていると、ポルスキーの
心は激しく揺らぐ.肖像画は、“描いた人”が“描かれた人”に向ける感情が
如実に表れると思うのだが、絵のなかのポルスキーが、めちゃくちゃ良い
表情に書き上げてあるのだ.

それを家に飾り、眺めるうちに、隣人はヒトラーじゃないのかもしれない、
というか、ヒトラーだと信じたくないと考えるようになってくる.
そう、ポルスキーは、壮絶な過去を抱えながらも、目の前の男を「信じたい」
と思えたのだ.その変化を繊細に表現したデビッド・ヘイマンの演技が、
静かで味わい深い.

ところがある日、ポラスキーは、隣人がヒトラーだと確信する場面を
目撃してしまう….



深夜の隣家の訪問者が帰り際に、右手を高く上げ、“例の”挨拶を声高く
叫ぶのを見て、 ポラスキーは愕然としてしまう.
翌朝、ポラスキーはヘルツォークにつかみかかるようにして、ズボンを
脱ぐように懇願する.ヒトラーは下半身に特徴的な特性を持つと書籍に
あったから….そしてその結果は…?

時を同じくして大使館側も、ヘルツォークを怪しむ動きが出てきて、
ポラスキー家を利用して監視しようとする.危機感を感じたポラスキーは
ヘルツォークに事情を話す….

翌日、そそくさとヘルツォークは引っ越して行く.見送るポラスキーの
表情は妙に穏やかである.親しい“友人”を見送るような気持ちなのか.

良質なコメディでもあり、ホロリとさせる心情豊かにしてくれる良作だ.

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