原題:PIGGY 製作年:2022年
製作国:スペイン 上映時間:99分
作年秋の公開時は、そのポスターの恐ろしさにびびって意識的に観落とした.
レンタルDVD化されて、怖いもの見たさで観てみたら、ホラーというより
いじめられっ子の気持ちを上手く描いた作品であった.
本年度累積94本目の鑑賞.
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自分をいじめる同級生を目の前で誘拐された少女が究極の選択を迫られる姿
を描いたスペイン発のリベンジホラー.
スペインの田舎町で暮らす10代の少女サラは、クラスメイトから執拗ないじめ
を受けていた.ある日、あまりの暑さに耐えきれず1人で地元のプールへ出かけた
彼女は、そこで怪しげな男と、3人のいじめっ子たちに遭遇する.
その帰り道、サラは血まみれになったいじめっ子たちが男の車で拉致される
ところを目撃.警察や親に真実を打ち明けて捜査に協力するべきか、それとも
沈黙を貫いて自分を守るべきか、決断を迫られるが…….
テレビ業界でキャリアを積んだカルロタ・ペレダ監督が、ゴヤ賞を受賞した
2018年制作の短編映画「Cerdita」を自らのメガホンで長編映画化した.
「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」のラウラ・ガランが主人公サラを演じ、
ゴヤ賞で最優秀新人女優賞を受賞.
以上は《映画.COM》から転載.
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風変わりな状況設定が作品に面白さを観た印象.映画.COMの解説にある
リベンジ・ホラーというのは必ずしも適正とは思えないカテゴリー分けだ.
スペインの静かな田舎町が一人の殺人鬼によって恐怖のどん底に陥る.
精肉店の看板娘サラ:ラウラ・ガランはポッチャリ体系で出不精、そんな
彼女がいじめっ子たちをさらった殺人鬼と葛藤しながらも対峙してゆくと
いう物語.
オープニングで肉切り包丁で捌かれる豚肉のシーンはこれから恐ろしい
血みどろの描写を予想させるのだが、ほとんどそんなシーンはなく、
殺害シーンはほぼ見せない.ポスターも含めこけおどし多しの雰囲気がある.
作品冒頭でサラをいじめ倒す女三人組が最悪.典型的なルッキズム、外観の
弱点からその対象の全特性を否定する.始末が悪いのは、それをまたSNSで
一般大衆にまで広める所作は言語許せない.そんな環境を見た殺人鬼が、
彼女たちを懲らしめようとするのか、誘拐してしまう.
目の前で自分をいじめた女の子たちが誘拐されるも、恐怖でどうすることも
できないサラ.私をいじめたあの子たち、いいざまと自分を納得させる.
しかし、プールで遺体が発見され、女の子たちの母親は娘たちが行方不明
と大騒ぎとなる.通報しなかったサラはバツが悪く噓の証言をしてしまう.
しかし、そんな中、殺人鬼が彼女に近づいてくる.なぜか彼は目撃者の自分
を襲わず、タオルを渡してくれたり、菓子パンを与えてくれたりと色々と気遣い
をしてくれる.いったい彼は何者なのか.
両親や家族も含め、誰も自分の苦悩を理解してくれない敵ばかりのこの状況で
唯一自分を理解、いたわる?殺人鬼とは彼女の想像の産物かとも思わせる.
事実、自宅に侵入され、父は殴り倒され母でさえも殴られる始末を見ると、
殺すまでは無くとも、親への憎しみの発露も見られたかなと邪推してしまう.
母親:カルメン・マチとの関係も一種独特である.娘に口うるさいのは普通だが、
愛情への裏返しの部分も見え隠れする.それでも、他の親からのサラへの干渉
には体を張って戦ってくれたりもする.が、自己の娘への不信感みたいなものが
終始存在しているところが、娘の中で大きなトラウマになっている.
それでも、いじめられっ子のほうがいじめっ子よりも精神的にタフだった.
捕らわれていたいじめっ子らを、腹立つ気持ちがあれど最後は助ける.
最後まで正義を貫き、憎む気持ちはあれど勇気ある決断を下す.
ラストの殺人鬼との対決もそれなりの見応えがあった.汗だくになって走り回る
サラを見ていると本当にハラハラするというか手に汗握るというか、画面一杯に
あのわがままボディが揺れ動くのは、理屈じゃない迫力がある.
近くをバイクで走りかかった同級生にSOSだと伝え、急いで街に戻るという展開
でエンディングというのはほろ苦いハッピーエンドだ.
思いのほか、ホラーとは言い難い良心の作品.
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