映画「あまろっく」…配役の妙でほろりと. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2024年 製作国:日本 上映時間:119分
 

 


金曜は新作公開が多い日.話題の新作も多い中で変わった作品を選んでしまう
天の邪鬼体質(笑).わざわざMovixつくばまで遠征して観たのは江口のり子
主演の人情ドラマ.本年度累積88本目の鑑賞.
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通称「尼ロック」と呼ばれる「尼崎閘門(こうもん)」によって水害から守られている
兵庫県尼崎市を舞台に、年齢も価値観もバラバラな家族が、さまざまな現実に
立ち向かうなかで次第にひとつになっていく姿を描いた人生喜劇.

理不尽なリストラにより尼崎の実家に戻ってきた39歳の近松優子は、定職に
就くことなくニートのような毎日を送っていた.ある日、「人生に起こることは
なんでも楽しまな」が信条の能天気な父が再婚相手として20歳の早希を
連れてくる.

ごく平凡な家族だんらんを夢見る早希と、自分より年下の母の登場に戸惑い
を見せる優子.ちぐはぐな2人の共同生活はまったく噛み合うことがなかったが、
ある悲劇が近松家を襲ったことをきっかけに、優子は家族の本当の姿に
気づいていく.

優子役を江口のりこ、早希役を中条あやみがそれぞれ務め、「尼ロック」の
ごとく家族を守る存在であり自由でロックな生き方をしている父を、笑福亭鶴瓶
が演じた.
監督は「よしもと新喜劇映画 女子高生探偵 あいちゃん」の中村和宏 .

以上は《映画.COM》から転載.
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脚本はベタ.されど細かい心配りはある.
配役の妙、キャスティングで欠点を全て包み隠して成功している印象.

やさぐれた元エリート社員江口のり子と天真爛漫の中条あやみのコンビ
は最強.何ごとも楽観的に笑い飛ばす父兼夫役に笑福亭鶴瓶、鶴瓶は
アクが強すぎて演技の全てを一義的にしがちだが、早々に退場(死んで)
してしまうので、他への影響は最小で済んでいる.

父竜太郎:鶴瓶の若い頃を松尾諭が演じたのも適役.姿形が似ているし、
テレビの前に寝そべってハッピーターンを食べていたりするシーンは鶴瓶、
松尾もそっくりで笑える.鶴瓶の実子 駿河太郎も優子:江口のり子の同級生
のおでん屋さんで、出番が多く好印象.とにかくキャスティングが生きている.
 

 

主役の一角を占めると思われた鶴瓶が、早々に退場してしまい、その後は、
ひとつ屋根の下で暮らすことになった、何もかもが対称的な女性2人、
江口のり子と中条あやみのバディ・ムービーとして展開していく.

やさぐれた感じにピタリとハマっている江口のりこは、まさに適役なのだが、
それにも増して、威圧的な江口のりこにひるむことなく、むしろ、堂々と
渡り合う中条あやみの存在感が際立っている.彼女の明るさや前向きさが
なかったら、家族の再生の物語も動き出さなかったはずで、そういう意味では、
中条あやみ演じる早希は、キーキャラクターであったのだろう.
 

 

阪神大震災とか室戸台風のエピを挟みながら、竜太郎:鶴瓶のいつもバカを
やってた理由が分かったり、早希:中条あやみの家族団欒を夢見る理由が
分かったりする.

人生は何が起こるかわからない.いい事ばかりではなく、悲しいこともふりかかる.
それをどう捉えるかということだ.被害者妄想で出来事のせい、人のせいにして
生きるのは人生損している. 「人生はなんでも楽しまな」と竜太郎は説く.

楽しいことも、辛いことも、悲しいことも…生きて人生を歩んでいるかなかで
経験できるまるごと楽しめるようになれたらいいなと考えさせられる.

人間食べて寝たら何とかなるもんや、と竜太郎が娘に差し出す大きな梅干し
の握り飯は、食べることイコール生きることの象徴なのだ.
ガリっと出てくる硬い梅干しの種が人生の辛さ、理不尽の象徴.上手くペッと
吐き出して握り飯のような素朴な人生をおいしく食べて行けと教えてくれる.

エンディングチューンは、奥田民生作詞、ABEDON作曲のユニコーンの
「あまろっく」.作品に即した余韻のある曲.

全編にお涙と笑いがうまいバランスで散りばめられており、
それがくどすぎずちょうど良い. 最後はほろりとさせられるのだ.