映画「コール・ジェーン」…こんな時期だからこのテーマ?! | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Call Jane 製作年:2022年
製作国:アメリカ 上映時間:121分



好きなシガニー・ウイーバー出演の作品をシネプレックスつくばで観賞.
本年度累積76本目は米製の社会派ドラマ.
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女性の選択の権利としての人工妊娠中絶を題材に、1960年代後半から
70年代初頭にかけてアメリカで推定1万2000人の中絶を手助けしたと
される団体「ジェーン」の実話をもとに描いた社会派ドラマ.

1968年、シカゴ.裕福な主婦ジョイは何不自由ない暮らしを送っていたが、
2人目の子どもの妊娠時に心臓の病気が悪化してしまう.唯一の治療法は
妊娠をやめることだと担当医に言われたものの、当時の法律で中絶は
許されておらず、地元病院の責任者である男性全員から手術を拒否されて
しまう.

そんな中、ジョイは街で目にした張り紙から、違法だが安全な中絶手術を
提供するアンダーグラウンドな団体「ジェーン」にたどり着く.その後ジョイは
「ジェーン」の一員となり、中絶が必要な女性たちを救うべく奔走するが…….

主人公ジョイを「ピッチ・パーフェクト」シリーズのエリザベス・バンクス、
「ジェーン」のリーダー、バージニアを「エイリアン」シリーズのシガニー・
ウィーバーが演じる.
「キャロル」の脚本家フィリス・ナジーが監督を務めた.
2022年・第72回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品.

以上は《映画.COM》から転載.
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中絶禁止に関しては、一昨年前の仏映画「あのこと」の強烈な印象が忘れ
られない.「あのこと」では、重く壮絶な扱いで、死亡のリスクも高く母体に
苦痛と危険をもたらすものと描かれていた.本作ではより軽く、見やすくして、
女性の権利獲得運動の方向性を示唆する内容に表現されている.

冒頭で、ヒロイン ジョイ:エリザベス・バンクスが高級ホテルでのパーティで
暴動に巻き込まれそうになるシーンが印象的.1968年のシカゴで開催された
民主党全国大会での暴動.反ベトナム戦争の暴動だね.

なぜかこの当時中学生だったが、この暴動のことは良く知っていた.
ブラスロックのChicagoが大好きで、彼らの曲に“Quesutin 68,69”
というのがあり、この暴動を歌った曲だった.中にシュプレヒコール
“Whole world’s watching” (世界中が見ている)が挿入されていた.

本作でもそのシュプレヒコールが流れていて、ヒロインも耳に留めていた.
私は一瞬、1968年当時に呼び戻されたような錯覚に陥った.
この暴動の扇動どうのこうのの法廷裁判を扱った映画が「シカゴ7」である.

そんな背景を知って、その後のヒロインの活動を観ていると米の政治状況が
うっすら見えてくるから不思議だ.終盤でヒロインが隣人の女性と大統領選挙
で、共和党に票を入れるや、民主党に入れるという会話がなされる.

さて、ヒロインジョイは長女が15歳にもなるのに、第2子を身ごもる.が、自身の
心疾患から医者は妊娠中絶が唯一の救済手段と言うが、中絶手術は誰もして
くれない.法で禁じられているから.

途方に暮れていると、ふとバス停で小さな看板を見つける.「ジェーン」という名の
非合法で中絶をしてくれる地下組織であった.「ジェーン」は望まぬ妊娠で
困っている女性たちを救出する地下組織の名称であった.

600ドルという高額の手術費を、夫の小切手を自筆で夫名を偽装して捻出して
おそるおそる施術してもらう.家族には自然流産してしまったと嘘をつく.
このヒロイン、モラル感不足気味である.その後も図書館の医学書を盗んだりも
する.この不道徳感は共感しがたいものが在る.
 

 

心臓のことなんかはケロリと忘れて、その後ジョイは組織に入り込み手伝いを
開始する. 裕福なただの主婦ではあるが、大卒でアタマが切れるので、自力で
堕胎の知識を仕入れ、偽医師を脅して処置を教わり、いつの間にか「ジェーン」
の中心人物になってしまう.

何が彼女をそうさせたものか?女性たちの身の上に同情してとか、技術面での
自分の才能に目覚めたとかそういうことなのだろうけど、エリザベス・バンクス
がふわふわと演じてみせる.
 

 

自身の体験から不幸な妊娠をした女性を助けたいという思いだけでひた走るのは、
爽快でもある反面、夫との関係は大丈夫か、露見して逮捕されないかとずっと
ヒヤヒヤするのだけど、キュートな容姿で可愛く振る舞って、家事も手抜きを
ごまかし、冷凍食品だけでも、夫に不満を抱かせないよう上手くやってみせる.

その後、警官に知られることとなり身辺が危うくなり自ら「処置」をしなくなった後は、
処置を後進に教えて資金のバックアップに回るという、実は凄腕の戦略家だったり
もする.「ジェーン」のリーダー、バージニア:シガニー・ウィーバーの良き片腕と
なってしまう.
 

 

それからは駆け足で省かれてしまっているのだけど、、「ジェーン」は摘発され、
裁判になって、最終的にニクソン政権下で中絶が合法化される.作品ではこの
勝訴の場面しか映されない. この過程をもう少し知りたい気もするが、そうすると
尺も長くなり、焦点がぼやけるので、この映画はあくまでも「裕福な普通の主婦」
が義憤で始めたウーマンリブの原点に焦点をおくのが妥当なのかもしれない.

さて、共和党のニクソン政権下で、女性たちが苦難の末に手に入れた
中絶合法化が、トランプ政権下の最高裁で「州ごとに決定」とされてしまっている.
保守的な共和党支配州では中絶禁止もあるのだ.

「もしトランプが再選したら」、さらに後退する懸念もある.
お先真っ暗なアメリカなのである. だから今、こんな映画が作られた???