映画「コットンテール」…主人公の性格悪すぎ. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Cottontail 製作年:2023年
製作国:イギリス・日本合作 上映時間:94分



友人が寝落ちしたと言う作品.リリー・フランキーに惹かれて観賞.
Movixつくばで本年度累積58本目に観たのはイギリス・日本合作作品.
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リリー・フランキー演じる妻を亡くした男の家族再生を描いた日英合作映画.

兼三郎は妻・明子の葬式でしばらく疎遠となっていた一人息子の慧(トシ)と
その妻さつき、孫のエミに久しぶりに会う.酒に酔い、だらしない態度をとる
喪主の兼三郎に、トシは苛立ちつつも気にかけていた.

開封された明子の遺言状には、明子が子どもの頃に好きだった「ピーター
ラビット」の発祥地であり、夫婦で行きたいと思っていたイギリスの
ウィンダミア湖に散骨して欲しいという内容が描かれていた.

兼三郎とトシ一家は、明子の願いをかなえるため、イギリス北部の湖水
地方にあるウィンダミア湖へ旅立つ.

兼三郎役のリリーのほか、錦戸亮、木村多江、高梨臨らが顔をそろえる.
監督・脚本は、英国アカデミー賞US学生映画賞とヨーロッパ人として
初めて学生エミー賞をドラマ部門で受賞したパトリック・ディキンソン.

以上は《映画.COM》から転載.
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ストーリー仕立ては、遺言の内容を果たすためにイギリスにいって散骨をするだけ、
という本当に単純なロードムービーなのだけど、そこに至る前の思い出し映像で、
妻が患った認知症や家庭内介護が描かれる.

特徴的なのは、主人公兼三郎:リリー・フランキーのキャラクター設定.
ふてぶてしい、ずうずうしい、自己中心的、動じない、堂々としてる、大胆不敵.
協調性を欠き、まわりの迷惑も考えないタイプ.

周りから何と言われようとも兼三郎は、我 関せず、馬耳東風、聞く耳持たず.
兼三郎にしたら自分の気分にしたがって行動してるだけで何が悪い、余計な
お世話という感覚が最初から描かれる.

兼三郎は自分の基準にしたがって行動する.それで失敗しても反省はしないし、
ちょっと運が悪かったなと思うだけ. 加えて多少インモラルでもある.
冒頭、魚屋でタコを盗み、通いの寿司屋で寿司にしてもらう.英国に行ってからも
自転車を盗んで乗ってしまう.バレなきゃいいと思ってる.バレたら謝ればいい
と思ってるし、きっともしバレても後悔も反省もしない。運が悪かったと思うだけ.
 

 

よくぞ、30年以上も夫婦生活を続けられたなぁ…と妻であった明子:木村多江に
感心してしまう.妻が元気であった時期はあまり描かれない.つまり明子の苦労は
ほとんど描かれていない.しかし明子が認知症の宣告を受けてからは描かれる.

そんな兼三郞だから、息子トシ:錦戸亮の助力も借りないし、公的介護も使わない.
自分だけで惚けていく愛妻明子の面倒を看ようとする.
食事、徘徊、オムツ、入浴…果てしない苦労の末、入院した妻の最期はどうやら
兼三郎自らの手で下した風に描かれる.

焼け飲みをして酔っぱらって出た告別式の後、数年前に書いたとされる遺言書を
和尚から渡される.裁判所も弁護士も介さず開封してしまう遺言書の扱いにも
疑問を持たざるを得ないが、中味は幼少時訪ねた英国の湖水地方にある
ウインダミア湖に散骨して欲しいという内容だった.

俺が一人で行くと兼三郎.息子夫婦にお前ら付いてきたいなら来ても良いぞと.
場面は急転して兼三郎と息子夫妻と娘の4人でロンドンに宿泊しているシーン.

翌日に予約してある列車で湖水地方へ向かう予定なのに、兼三郎は急に今日
行こうと言い出して、結局ひとりでサッサと出かけてしまう.結果、逆方向の列車
に乗り、途中下車で電車がなくなり、盗んだ自転車でやみくもに走り出して
雨に降られ、木の下で雨宿り.

携帯電話(ガラ携)の電池切れで助けも呼べないからそこで一夜を過ごす.
こんな時ももちろん、今度からは息子の言うことにも耳を傾けようなんて、
これっぽっちも思わないのが兼三郎の特質.

列車の駅も近くに無い英国中部の田舎で、人の好いイギリス人父娘、
ジョン:キアラン・ハインズとメアリー:イーファ・ハインズに助けられる.
この二人も昨年妻を亡くしたばかりの状況であった.

作品の冒頭で若い兼三郎が食いぶちの為に英語の教師をしていると
出逢った明子に説明するシーンがあるのだが、その割には兼三郎の
英会話は中学生並みのレベルなのが可笑しい.

父娘に中部から数百マイルも離れた湖水地方まで車で送ってもらう.
勘の良いジョンは兼三郎に、もっと息子に連絡した方が好いとアドバイス
するが、兼三郎は聴く耳を持っているとは思えない.
 

 

ウィンダミア湖で息子家族と出会うことに成功し、妻明子の思い出の場所
(写真が1枚だけ残っている)を探す. が、ここでもまた兼三郎は我を通す
行いをしてしまう.真っ暗になった湖畔で、まだかの場を探すと主張する.
あきれ果てた息子トシはホテルでワインで酔いつぶれてしまう….
 

 

最後に、かの写真と同じ場所を探し出し、散骨をしてしまうのだが、英国の
法律上では許されるのかは? とにもかくにもこの兼三郎のキャラクターに
感情移入できず、スッキリした鑑賞後の印象はない.英国・日本の脚本の
摺り合わせ不足の感がある.
 

 

原題「コットンテール」はベアトリクス・ポッター原作の「ピーターラビット」に
出てくる、ピーターラビットの弟の名前に由来するのであろうか.
うさぎ種の一つの名前でもある.散骨した後に、うさぎが顔を出し、兼三郎と
孫娘が追うのがラストシーンなのだが、少しあざとすぎる感有り.

私事だが、1992年に家族で2週間英国旅行した際に、ウィンダミア湖は
訪ねたことがある.なにせ絵本好きだからね、ベアトリクス・ポッターの家も
訪問してきた.


《ウィンダミア湖にて当時6歳の娘》

真夏だったが、涼しすぎてコートを着ている.ウィンダミア湖周遊のボートにも
乗ったが、寒かったことしか覚えていない.でも、今となっては貴重な経験かも.
そんな湖水地方を思い出させる風景のシーンは懐かしかった.それだけの映画.