映画「コヴェナント 約束の救出」…ガイ・リッチー監督の想いを読み取る. | チャコティの副長日誌

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原題:Guy Ritchie's the Covenant 製作年:2023年
製作国:イギリス・スペイン合作 上映時間:123分




気になる作品を続出するガイ・リッチー監督の新作.原題に自らの名を配する
その思惑は如何に?近所のシネコンで観たのは本年度累積49本目.
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「スナッチ」「シャーロック・ホームズ」シリーズのガイ・リッチー監督が、
アフガニスタン問題とアフガン人通訳についてのドキュメンタリーに着想を得て
撮りあげた社会派ドラマ.

2018年、アフガニスタン。タリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を
率いる米軍曹長ジョン・キンリーは、優秀なアフガン人通訳アーメッドを雇う.

キンリーの部隊はタリバンの爆発物製造工場を突き止めるが、大量の兵を
送り込まれキンリーとアーメッド以外は全滅してしまう.キンリーも瀕死の重傷
を負ったもののアーメッドに救出され、アメリカで待つ家族のもとへ無事帰還
を果たす.

しかし自分を助けたためにアーメッドがタリバンに狙われていることを知った
キンリーは、彼を救うため再びアフガニスタンへ向かう.

主人公キンリーをジェイク・ギレンホール、通訳アーメッドを「エクソダス 
神と王」のダール・サリムが演じ、ドラマ「ザ・ボーイズ」のアントニー・スター、
「トレインスポッティング」のジョニー・リー・ミラー、「リトル・ジョー」の
エミリー・ビーチャムが共演.

以上は《映画.COM》から転載.
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最初の字幕では“9.11同時多発テロ”への報復として、9万8000人もの
米軍兵士がアフガニスタンに派遣されたことから、アフガニスタン紛争が
始まったことが説明される.

そのとき米軍に協力した現地に住む5万人のアフガン人通訳は、協力の
見返りとしてアメリカへの移住ビザが約束されていた.
本作はそんな“約束”を巡る男たちの熱い絆を描いた作品.

原題は“Guy Ritchie's the Covenant”.監督ガイ・リッチーが考えるところの
Covenant…契約とか約束、そして誓約を意味する、が示されていると考える.

最初は“契約”. ジェイク・ギレンホールが演じるのは米軍曹長のジョン・キーリー.
世界大戦の英雄でもなく、ベトナム戦争の苦悩する兵士でもない、ふて腐れた
兵隊.アフガニスタンに派兵され、曹長としてタリバンの爆弾工場を暴き破壊
する任務につく.
 

 

言葉が通じない戦場では通訳が頼みの綱.ある日、時に仲間と諍いを起こす、
一癖有りの通訳と契約を交わす.密告を受けて兵器工場に向かうが予期せぬ
襲撃に遭い部隊は全滅.孤立無援となり、遂には敵に囲まれてしまう.

2番目には“約束”.敵に撃たれ拉致寸前のキンリーを救ったのは、身を隠して
いた通訳だった.強靱な行動力を持つアーメッド:ダール・サリムは、重傷を
負った曹長を背負い山岳地帯を進む.
 

 

米軍基地までの100キロを超える難路を、敵の目を欺きながら歩き続ける.
なぜ、アーメッドはこれほどまでの重荷を背負うのか? 身籠もった妻との未来
を生きるために、アメリカが現地通訳に“約束”したビザがどうしても必要
だったのだ.

そして3番目は“誓約”の部分.国が約束したことを反故にするから個人が動く.
アーメッドに救われ病院で眠り続けた後、安全が約束された自宅に戻った
キンリーは、命の恩人のその後に気を揉む。タリバンの標的となったアーメッドは、
身を隠しながら戦地を転々と逃げ延びている.

軍に電話しても埒が明かず、約束のビザも支給されてはいない.
一刻も早く…、業を煮やしたキンリーは、友を救うために私財を投げ打って
再びアフガニスタンに向かうことを決意する.愛する妻と子供たちに
「1週間で戻る」と言い残した彼は、人生の垣根を越える“誓約”を胸に
再び戦地に赴く.
 

 

現地人通訳に命を救われた米兵が、通訳を助けるために(恩返しのために)
私財と命の危険をかけて自ら現地に保護に向かう、という一見「絆」を強調
した美談のようだが、そもそも米軍が何もしないからキンリー個人がそうする
しかなかった背景を見過ごしてはならない.

アーメッドが100キロの道のりを命がけでキンリーを運んできたのに、
そこで米軍が家族もろとも彼を保護しないことが信じられない.
米兵の味方についたことでアーメッドがタリバンから目の敵にされている
のは承知しているはずなのに.

米軍が従軍通訳に対して誠意を持っていたらこんな「美談」は生まれない.
Covenant…誓約、約束を守らなかったのは米軍、米政府なのだ.
この部分がガイ・リッチー監督の、イギリス人らしい皮肉と主張と私は取った.

あの狂人トランプ前大統領が2020年2月にタリバンと交わした米軍の
完全撤退を含む和平合意に基づき、決まった事だからと、現バーデン大統領
がアフガニスタンからの最終的な米軍撤退を2021年5月1日から開始した.

米軍完全撤退後、即タリバンが政権を取り、数百人の従軍通訳とその家族が
タリバンに殺害され、今もなお1000人以上の従軍通訳が隠れて生きていく生活を
強いられているそう.

彼らは米軍に協力する際に将来アメリカのビザと永住許可を得られるという条件
であったという。.ところが現実的には彼らは完全に捨て置かれている.
アメリカ政府の怠慢・不誠実さに尽きる.

米軍の撤退は間違いだったと、今ごろバイデン政権を批判する共和党には
呆れきってしまう.決めたのは共和党政権時代の狂人トランプだったのに.
「もしトラ」がささやかれ、トランプ再選が現実味を帯びつつある現在、
アメリカのこのゆく先、いや全世界の平和が思いやられる.

キンリーがアーメッドに対して感じた罪悪感は、そのまま、アメリカのアフガン
に対する罪悪感に繋がる.“世界の警察”としてのアメリカはその無責任さゆえ
今後世界の中では地位を落として行くのであろう.

MAGA(Make America Great Again)を叫ぶ狂人を大統領に選ぶなら、
それは一層拍車がかかるのであろう.

キンリーが復員後単独でアーメッドを救出に行くのは米軍に代わってCOVENANT
を果たそうとしている訳ではなく一人の人間として当然な帰結.
そういう意味ではヒューマン・ストーリーとしての価値はあるし、その裏に潜む
監督の主張もきっちり受け止めるべきであろう.

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