映画「きっと、それは愛じゃない」…恋愛+宗教問題も. | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:What's Love Got to Do with It? 製作年:2022年
製作国:イギリス 上映時間:109分



きっと2番館に来るであろうと予測できても、公開時に観たい作品だってある.
久々のヒューマントラストシネマ有楽町で観たのはイギリス製の恋愛もの.
本年度累積307本目の鑑賞.
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「エリザベス」のシェカール・カプール監督が、多文化が共存する街ロンドンを
舞台に描いたラブストーリー.

ドキュメンタリー監督のゾーイは幼なじみの医師カズと久々に再会し、彼が
見合い結婚をすると聞いて驚く.今の時代になぜ親が選んだ相手と結婚するのか
疑問を抱いた彼女は、カズの結婚までの軌跡を追う新作ドキュメンタリーを
制作することに.

ゾーイ自身は運命の人の出現を待ち望んでいるが、ダメ男ばかりを好きになり
失敗を繰り返していた.そんな中、条件の合う相手が見つかったカズは、両親も
交えたオンラインでお見合いを決行.数日後、カズから婚約の報告を受けた
ゾーイは、これまで見ないふりをしてきたカズへのある思いに気づく.

「シンデレラ」のリリー・ジェームズがゾーイ役で主演を務め、テレビシリーズ
「スター・トレック ディスカバリー」のシャザト・ラティフがカズ、「クルエラ」の
エマ・トンプソンがゾーイの母を演じた.

以上は《映画.COM》から転載.
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邦題タイトルが結末を予想させるし、本質的にはややミスリードな気もする.
アラサー女子を引きつける題とは思うが…(汗).
原題は“What's Love Got to Do with It?”ティナ・ターナーの歌のタイトル
だったらしい.英語の慣用句らしいが、“It”を結婚と当てはめるなら、“愛と結婚
って関係有るの?”みたいな訳になるのだろうか?

この題名から想像できる内容とこの作品が持つ主張性は多少異なる.
素敵な恋愛ものではあるのだが、宗教・結婚観・多様性・寛容性について
考えさせられる.監督がインド系のパキスタン人なのが、その立ち位置を
良く表しているような気がする.

王道の幼馴染の恋愛ものに見合い結婚(Arranged marriage)と異文化交流
という三題話しの物語.イギリス映画だけど、途中が歌って踊るインド映画に
なってしまうのは、監督の所来から?

ゾーイ:リリー・ジェームズはドキュメンタリー映画監督.といっても脚本から編集、
撮影まで全部一人でこなす家内興行制(笑).副長が勤めていた会社のシネマ
カメラ(一眼レフタイプ)を使用していることで、グッと好感度アップ(笑).
 

 

その題材の被写体となるカズ:シャザト・ラティフは医師で教養もあるが伝統も
重んじるパキスタン人.両親の思いは尊重したいが、両親が勧めるお見合い結婚
に進んで参加するのは、それだけではない.いつか冷める愛よりも、徐々に温め合う
愛の方が好ましいと思っているからで、それは理知的な態度でもある.
なにより、根が善人である.

そんな善人カズを通して、観客はゾーイとともにパキスタンの伝統や文化に
触れていく. ムスリムのパキスタンといえども、祖父母や両親世代と30代の
カズ世代とは考え方も異なるし、カズのお見合い相手マイムーナ:サジャル・アリー
の20代のさらに若い世代とはさらにまた異なる.
 

 

カズの妹の結婚相手がイスラム教徒でなく自由恋愛の結婚であった事から、
祖母が異教徒なんかの結婚は断じて許さん、ということで疎遠になっている
背景が伏線でもあるし、イスラム教の根底も表している.

911世代であるカズのセリフに「テロが起こるたびに謝らなきゃいけない」には
イスラム教徒の気持ちの代弁を感じたし、お見合い結婚を理解しないゾーイに
対し「隣同士でも47番地と49番地は違う大陸だ」には笑ってしまう.

ちなみにゾーイとカズはロンドンで隣同士に住み、欧州は道を挟んで奇数と偶数
の番地に住み別れるのだ.よって47番地と49番地は隣同士なのだ.
 

 

そんな仲を取り持つのがゾーイの母キャス:エマ・トンプソン.幼い頃にフラワー
ムーブメントの残滓に接した母親は、隣家とフレンドリーに付き合っている.
多様な異文化を受け入れる英国の代表選手みたいに、隣家のパキスタン文化
にどっぷり漬かっている.

この母のセリフも効いている「好意から始まって愛に変わって行く方がいい」は
カズの結婚観を支持しているように見え、カズとゾーイの関係も示唆している.
離婚するのに3回言うだけで良いということに、「便利ねえ」だか「楽ねえ」と
茶化してみたり、カズの結婚式のダンスで入るところ間違えたりして、
すっかり道化役を演じていて、エマ・トンプソンらしい上手さを見せてくれる.

もう一つの味付けがディズニー・ティスト.
作品の冒頭でゾーイが友人の子供に読むおとぎ話.スリーピングビューティー
と白雪姫の視点からの、彼女たちが眠り続ける理由の解釈がディズニーと
全く異なるのが皮肉たっぷりだった.そして最後にカズがゾーイを求めて、
懐かしいツリーハウスの根本に来て、「僕のラプンツェル、髪を下ろして」と
迎えを願うシーン、思わずにやりとしてしまった.

結婚は二人でするものなのに、文化とか宗教とか家族とか絡んできて、
選択肢も沢山有って難しい ラブストーリーに仕上がっていた.そこに加えて
異文化結婚式の紹介、家族愛に踊るエマ・トンプソンと楽しませてもらった.