映画「山女」…山田杏奈恐るべし! | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….

 


製作年:2022年 製作国:日本・アメリカ合作 上映時間:100分


たまには、邦画の新作も.柏のキネマ旬報シアターで観たのは
江戸後期の社会問題を扱う作品.本年度累積170本目の鑑賞.
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「リベリアの白い血」「アイヌモシリ」の福永壮志監督が、人間の脆さと
自然への畏敬の念、そして現代にも通じる貧困や差別など社会問題
を映し出したドラマ.

18世紀後半の東北.冷害による食糧難に苦しむ村で、凛は人びとから
蔑まれながらもたくましく生きていた.そんな彼女の心の救いは、盗人
の女神様が宿ると言われる早池峰山だった.

ある日、村中を揺るがす事件を起こし、村人から責められる父親・
伊兵衛をかばう凛は、家を守るため自ら村を去る.けっして越えては
いけないと言い伝えられる山神様の祠を越えた凛は、さらに山の奥
深くへと進んでいく.

そんな凛の前に現れたのは、人間なのかもわからない不思議な
存在だった.

凛役を「樹海村」「ひらいて」の山田杏奈、村人たちから恐れられる
山男役を森山未來、凛の父親・伊兵衛役を永瀬正敏がそれぞれ演じ、
二ノ宮隆太郎、三浦透子、山中崇、川瀬陽太、赤堀雅秋、白川和子、
品川徹、でんでんらが顔をそろえる.

以上は《映画.COM》から転載.
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海外配給を意識しているのか、江戸時代とかの時制や幕府制度など
の表現を一切排して、18世紀後半の日本の東北地方での出来事と
扱っている.意外なことに日米合作で、プロデューサー、撮影、編集、
音楽…に異国人の名が見える.

今の世にも通ずる、貧困や差別問題が醜く描かれる.
その対象となるのは一人の少女、凜:山田杏奈.
実の父親伊兵衛:永瀬正敏からのパワハラ、モラハラ、セクハラに
加えて、村の中の誰からも蔑まれ、非情な扱いを受けまくる.
同年代の春:三浦透子からでさえも、けんもほろろの扱いを受ける.
 

 

冒頭のシーンが衝撃的.村のとある家での出産風景.苦労して生まれた
赤ちゃんは布で口を塞がれ、泣き声が途切れてしまう…口減らしなのだ.
快楽の果てで生まれた子供に食わせる食いぶちは無い.生まれては殺す
のが平常化している社会の異常性からこの物語は始まる.

そして、その生後まもない死体の処理の役目が凜なのだ.
布にくるんで川に流し、早池峰山に向けて手を合わせ祈る….
それが村の中での彼女の役目であった.

村の中での理不尽な扱い、いじめに遭いながらも健気に生きる娘を
山田杏奈が少ないセリフで演じて見せる.本作の見所はこの山田杏奈
の演技に尽きると感じた.

前作「ひらいて」でも、恋愛モノなのに屈折した恋愛感情を見事に
演じ切ったその演技に驚かされた.
 

 

「ひらいて」の時には20歳で女子高生を演じ、本作撮影時でも21歳.
驚くべき演技の才能を感じさせる女優だ.演技上では完全に永瀬正敏
や三浦透子、その他の品川徹やでんでんを上まるパフォーマンスだ.

愚かな父親の米泥棒の罪をかぶって山奥に一人向かった凜は、
そこで動物とも神とも思える“山男”と遭遇する.これが森山未來が
演ずる.

 



お互い見捨てられた境遇の意識共有の為か、二人は寄り添って生きていく.
凜が木の枝で作った手ぐしで山男の長髪をすいていくシーンが印象的.
するがままに任せる山男.言葉は一切発しない.凜もあえて話しかけようとは
しない.そんな穏やかな山奥での生活は長くは続かない.

陽がささない村の米は不作が続いている.村長:品川徹と副役の治五郎:
でんでんは巫女:白川和子を訪ね相談に行く.巫女は他の村が水害で
苦しんでいる時若い娘を人見ごくうにしたら収まったと話す….

村長と治五郎は村の若い娘を差し出せと村の人々に迫るが、誰も応じようと
はしない.そこで山奥に逃げた凜に白羽の矢が….
暴力的な群衆による山狩りの果て、何人かは打ち倒したものの山男は
銃弾に倒れる.哀しむ間もなく凜はひきたてられる.

そして巫女が祈る目前で、凜は手足をしばられ火あぶりにされようとする.
父親伊兵衛;永瀬正敏は顔さえもださず、家に引きこもる.

凜の足元に火を点けた途端に、早池峰山から雲がわき上がり、豪雨が
襲い、火は消えてしまう.突然稲妻が落ちて、凜を縛り付けた杭に落ちる.
恐れおののく村人の前を平然と厳かな顔持ちで凜は再び山に歩き出す….

暗さは無いのだがリアルで雰囲気のある有る映像と不気味な音楽が
印象的.凜も含めて村人の衣装がとても汚くて、これまたリアル.

笑顔をいっさい見せず、セリフも極少なのだが、山田杏奈の演技が圧巻.
彼女以外でこんな役柄を演じられるか見当ももつかないほどはまり役だ.

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