映画「パリ13区」…無機質な愛の変貌を描く. | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Les Olympiades
製作年:2021年 製作国:フランス 上映時間:105分 R18+

 

やっぱりフランス映画に戻ってくる.今のパリを生きる20代、30代の男女の
生活、働き方、セックス、愛情…を描いた作品をMovix柏の葉にて
本年度97本目に観賞.

「ディーパンの闘い」「預言者」などで知られるフランスの名監督ジャック・
オーディアールが、「燃ゆる女の肖像」で一躍世界から注目される監督と
なったセリーヌ・シアマと、新進の監督・脚本家レア・ミシウスとともに脚本
を手がけ、デジタル化された現代社会を生きるミレニアル世代の男女の
孤独や不安、セックス、愛について描いたドラマ.

再開発による高層マンションやビルが並び、アジア系移民も多く暮らすなど、
パリの中でも現代を象徴する13区を舞台に、都市に生きる者たちの
人間関係を、洗練されたモノクロームの映像と大胆なセックスシーンと
ともに描き出していく.

コールセンターでオペレーターとして働く台湾系フランス人のエミリーのもとに、
ルームシェアを希望するアフリカ系フランス人の高校教師カミーユが訪れる.
2人はすぐにセックスする仲になるが、ルームメイト以上の関係になることはない.

同じ頃、法律を学ぶためソルボンヌ大学に復学したノラは、年下のクラスメイト
たちに溶け込めずにいた.金髪ウィッグをかぶり、学生の企画するパーティに
参加したことをきっかけに、元ポルノスターのカムガール(ウェブカメラを
使ったセックスワーカー)だと勘違いされてしまったノラは、学内の冷やかし
の対象となってしまう.

大学を追われたノラは、教師を辞めて不動産会社に勤めていたカミーユの
同僚となるが…….

グラフィックノベル作家エイドリアン・トミネの短編集「キリング・アンド・ダイング」
「サマーブロンド」に収録されている3編からストーリーの着想を得た.
2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品.

以上は《映画.COM》から転載.
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パリ13区って最近はどうなんだろう?フランスに住んでた時のイメージは
あまり印象に残っていない.中華料理店が多いとか、中華食材屋が充実
しているとか、ペリフェリック(パリ環状線)の南仏に向かう出口のPort
d’italyの印象しか無い.比較的治安は良い地区だった.

今は高層アパートがニョキニョキ建つ街並みに旧市街が溶け込むような
街並みらしい.原題も高層街の地区名であろうか.そんな中での台湾系の
携帯Webセールスマンの女性と、彼女の家にルームシェアを申し込んだ
高校教師の男性と、大学に復学したが若い同級生に馴染めない女性、
の3人を軸にした心と身体と友人と家族とというストーリー.

過去の表現手法としてモノクロを選び取る作品は、最近では「ベルファースト」
などがあるのだけど、ジャック・オーディアール監督の映像力はそういった
時代性とか過去性を飛び越して、色を削ぎ落とすことによって逆に鮮烈化した
芸術性や感情の塊が、観客の胸にダイナミックに飛び込んでくるようだ.
 

 

 

 

台湾系フランス人のエミリー:ルーシー・チャン、アフリカ系フランス人の高校教師
のカミーユ:マキタ・サンバ、大学に復学するためにパリにやってきた32歳のノラ
:ノエミ・メルランを中心として織りなすストーリーは、多人種、LGBTQ、
アルツハイマー、SNSの中傷、マッチングアプリなどというまさに時代を象徴する
テーマが点在している.

印象的な事が二つ.
一つは、13区を舞台に選んだことが意図的ではあるが、フランスの多民族性.
移民の2世、3世の時代になっていること.オリジンは台湾だったり、アフリカだったり
するのだけど、完璧なフランス語を話す彼らはまぎれもないフランス人なのだ.
その多様性が根本となるフランスが描かれている.

もう一つは、今どきの恋愛状況.別にフランス、パリに特化出来ることではないと
思うが、象徴的に描かれているし本作のテーマである.
エミリーとカミュ、そしてノラとカミーユ、知り合ってまもなく体の関係に入ってしまう.
そこから始まるのだ.そして相手を模索する….

彼らは、間違った相手を好きと錯覚したり、きちんと自分の想いを伝えられ
なかったり、もどかしくて痛々しい恋愛を繰り返す….
だれかと簡単につながれるけど、愛し合うのはむずかしい現代である事が描かれる.
されど不器用ながらも徐々に分かり合える姿も描かれていく.これはまた印象的だ.

パリで今を生きる登場人物たち、30歳前後の男女の孤独、不安により性、愛を求め
彷徨う姿を描いた群像劇.
無機質な複数の愛が、有機的な姿に変容していく様が丁寧に描かれた佳作.