映画「マイ・ダディ」 (DVD観賞)…時制表現はアホ、されど泣かされた. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2021年 製作国:日本 上映時間:116分

 

 

作年秋の公開時は主演ムロツヨシの福田雄一監督作品での悪印象から、
観る気もさせずスルーした.その後の評価で本作では真面目に演技している
らしいので、DVDで観賞してみた.本年度累積61本目の鑑賞.

ムロツヨシが映画初主演を果たし、愛する娘を救おうと奔走する父親役を
演じた人間ドラマ.「ちょき」「ゆるせない、逢いたい」の金井純一監督が、
映像クリエイター支援プログラム「TSUTAYA CREATORS’PROGRAM
FILM 2016」で準グランプリを受賞した自らの企画「ファインディング・

ダディ」を映画化した.

小さな教会で牧師を務める御堂一男は、8年前に妻に先立たれ、中学生に
なる一人娘のひかりを男手ひとつで育ててきた.

優しく、面白く、お人よしで誠実な一男は、牧師として皆から慕われ、掛け持ち
のアルバイトでも頼りにされ、ひかりも素直で良い子に育ち、決して裕福では
ないが幸せな日々を送っていた.そんなある日、最愛の娘が病に侵されている
ことが判明する….

ひかり役は第8回東宝シンデレラオーディションでファイナリストに選ばれ、
映画「ウィーアーリトルゾンビーズ」でデビューした新人・中田乃愛.

以上は《映画.COM》から転載.
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先ずは苦言から.時間軸の設定が徹底的におかしい.最初の方の主人公
一男:ムロツヨシの娘ひかりが白血病で倒れるシーンの直後に、その母
江津子:奈緒が恋人ヒロ:毎熊克也が乳繰り合うシーンで、しかもその
背景に救急車の音をかぶせるなんてミスリードも華々しい.

おかげで、失恋したばかりの江津子が一男と結ばれるのだが、一男の
2番目の結婚かとばかり思い、途中までずっと不思議感に苛まされた.
いま振り返ってもまったくおかしい表現で、間違っていると思う.

そして失恋がきっかけで知り合ったとはいえ、結婚するまでの期間の表現が
短すぎる.そして、子供が出来るタイミングの説明も無いのも時間軸説明が
下手すぎる.意図的なものなら、これは完全にミスと言いたい.

そんな不満を無理矢理押し込めてストーリーを整理すると(ネタばれあり).

牧師の御堂一男は家計が厳しいためガソリンスタンドでバイトをしている.
8年前に妻・江津子を交通事故で亡くし中学生の娘ひかりと二人暮らし.
そんなある日に娘が白血病を発症する.

病院で骨髄を調べたら一男とひかりは血の繋がりがないことが発覚する.
江津子が一男と出会う前に別れた元彼の子供だった.ひかりの病気は一旦
治ったが残酷なことに再発する.今度は骨髄移植が絶対に必要だった.
 

 

 

 

探偵(なんと小栗旬だ!)に依頼し.ひかりの本当の父親を見つけ骨髄検査を
直談判するもボコボコにされ断られる.諦めるわけにはいかない一男は江津子
の元彼とその妻が営む食堂に包丁を持って押しかける….

早逝した妻江津子が得意だった、そして自分が好きだった「ちくわカレー」、
元彼の食堂の看板メニュウが「ちくわカレー」だった….
一男が食べながら号泣して、真実を確信するシーンにはやるせなかった….

脚本的には、ムロツヨシの牧師という職業がこの映画では重要であろう.
へんに宗教的に偏るでなく、真面目な田舎町の貧乏教会の牧師役である.
なぜに神は自分にこんな多大な困難を与えたもうのか? 信者に説く前に
自らの立場と神からの試練に悩み、悶絶する身を表現する.
 

 

 

 

牧師として神に身をささげる上で本当に自らの敵を愛さなねばならぬか?
単なる、家族だけを愛する普通の人間であってもいいのではないか?
そんな逡巡の中で、一男牧師:ムロツヨシが泣き笑いを見せる.

登場は少ないのだけど、妻江津子を演じた奈緒の存在感が抜群と感じた.
同時期に彼女の出演作「草の響き」も公開中で、しっかり者の奥さん役で
本作とは異なる女性像を演じているのだが、上手い役者だと思う….
 

 

 

 

お涙ちょうだいという古典中の古典の白血病の少女を物語にするだけで
気恥ずかしいのに、それに加えて、血が繋がっていない親子、交通事故で
妻を亡くしてしまった父娘の2人家族といった定番要素も追加され、
結局泣かされしまった. 最近涙腺弱いからなぁ….

最後の手術直前の一男とひかりの対話が圧巻.ドナーの事情を説明しても
ひかりへ愛の不変さを説く一男.血は繫がっていなくても、一緒に親子として
暮らした時間とその濃密さが、真の親子関係を築くことを改めて実感させる
名シーンだった.ここでもひとしきり泣かせてもらう.

福田雄一作品に見られるような嫌なコメディアン風を封じて、
一心不乱に真面目に演じたムロツヨシを見られたのは貴重かも.

誰かが書いていたが、定番ならムロツヨシと小栗旬の役柄が逆であろう.
でもそうだったら、こんなに泣けなかったかもしれない.